石川くん。
枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。

いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ
 (石川啄木『一握の砂』より)


第25回 石川くんのいのち


石川くん、私の文庫本は角川書店より絶賛発売中!
   *
そして、この連載『石川くん』も、
めでたく単行本化されることが決まりました。
お茶目でかっこいいイラストレーションと組んで、
おとなの絵本みたいな一冊にしたいと、
出版社の人と打ち合わせをしてきたよ。
連載の中で紹介しきれなかった好きな歌を加えたり、
謎だらけの君の人生に鋭く疑問を投げかける
「石川くん年譜」を書き下ろしたり……。
あれこれ夢がふくらみます。
この本が今年の秋ごろ発売になったら、
連載を読んでくれてた人も、そうでなかった人も、
石川くんのものすごさに改めて驚いてくれると思う。
石川くん=女の敵
という正しいイメージが日本中に広まるかと思うと、
ああ、
胸がすーっとします。
これこそが
「この俺のやるべき仕事よい仕事」だったんだね、
石川くん!
   *
今、「石川くん年譜」を書き下ろすために、
今まで集めた資料をもういちど読み返しています。
『啄木 ローマ字日記』(桑原武夫編訳/岩波文庫)
の巻末についてる、
桑原武夫による「解説」も読んで、
かなしくなってしまった。
石川くんの息子は生まれた直後に亡くなったけど、
それは「急性の幼児結核」のせいだというのです。
そして石川くん自身もおそらく十七歳の時点で、
すでに結核に感染していたと思われる、と……。
石川くんたら、ローマ字日記の中で、
病気をしたい、そればかり夢みている、病気になれば
あらゆる責任から解除されて自由になれるのに!
……みたいなことを書いているんだけど。
そのじつ、とっくのとうに病気で、
自分ではちっとも気づいてなかったんだね!!
この、お・ね・ぼ・う・さん……。(なみだ声の私)
   *
石川くんの時代、結核は不治の病でした。
生まれてすぐに死んだ息子のことを歌った歌、
『一握の砂』の最後のほうに出てくるんだけど、
一歳の息子がいる私には、つらすぎて読めません。
   *
一冊目の歌集『一握の砂』が出版された翌年には、
石川くん自身も結核が悪化。
その翌年には石川くんのママが結核で死亡。
同年、二冊目の歌集の出版契約を交わしたあと、
石川くんは本の完成を見ることなく死亡。
そのとき石川くんの妻は結核&妊娠八ヵ月で、
石川くんの死後に次女を出産、
それから石川くんのあとを追うように死亡。
石川くんの妻のパパは、自分の妻も亡くし、
男手ひとつで(石川くんの)
幼い長女と次女を育てたんだってね……。
   *
それはまるで、
石川くんの砂の歌みたいです。
石川くんの砂の歌みたいな、
さらさらとした人生たちです。

枡野浩一

http://talk.to/mass-no

2000-07-28-SAT

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