石川くん。
枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。

晴れし空仰[あふ]げばいつも
口笛を吹きたくなりて
吹きてあそびき
夜寝ても口笛吹きぬ
口笛は
十五の我の歌にしありけり
 (石川啄木『一握の砂』より)
 ※[ ]の中はふりがなです。


第4回 石川くんと口笛


また十五歳に戻ってみましょう。
   *
第1回の原稿で、
年齢について少し説明不足なところがあったんで、
ここで説明しておきますね。
石川くんが、
将来妻となる人に初めて会ったのは、
今の年齢の数え方だと十三歳のとき。
昔の数え方だと十四歳のとき。
昔の年齢の数え方は
「数え年(かぞえどし)」ってやつなんだよね。
石川くんの親友、金田一くんが編集に携わった
『新明解国語辞典(第三版)』によると、
数え年とは
「その人の生まれた年の十二月までを一歳とし、
年が改まるたびに一歳を加えて数える年齢」
ってことらしい。
つまり、
お正月が来るたびに年をとるわけね。
十二月に生まれた人は、
たった一ヵ月で二歳。
石川くんは明治十九年(西暦一八八六年)の
二月二十日生まれ、
ということに一応なってるけど、
その前年の十月二十八日生まれだという説もある。
石川くんが将来妻となる人に初めて会ったのは、
「明治十八年生まれ説」の数え年だと十五歳、
「明治十九年生まれ説」の数え年だと十四歳、
今の年齢の数え方だと十三歳、
ってことになるの?
石川くんが死んだのは数え年の二十七? 二十八?
今の数え方だと二十六?
なんだか、よくわかんないな。
ねえ、自分では何歳で死んだつもりなの?
そのへんのこと、こんど金田一くんに、きいといて。
   *
で、
きょうは一度に二つの歌を紹介します。
二つとも、十五歳のころを回想してる歌。
昔の言葉で読んでも今の言葉で読んでも、
「ふーん、それで?」
って読者から言われそうな、
すごいストレートな歌だねえ。
「吹きてあそびき」の「遊ぶ」は、
現代語の「遊ぶ」とはちがって、
古語の「遊ぶ」=「(詩歌などを)楽しむ」
っていうニュアンスなのかもしれないけど、
あえて、そのまんま現代語に置き変えてみました。
   *
石川くんは、
有名な歌人夫妻の与謝野鉄幹・与謝野晶子に
可愛がられていたくらいだし、
もともと「短歌らしい短歌」をつくってたんだよね。
でも、
歌人としてのデビューアルバム『一握の砂』は、
そういう「短歌らしい短歌」をどんどん排除して、
「ええっ、これが短歌?」
って歌人たちに言われそうな、
なにげない歌ばかりをわざと収録したんでしょ?
しかも、
1行で書くのがルールの短歌を3行に分けて書いて、
「短歌」を「詩」に近づけようと試みたり……。
かっこい〜!
からかってるわけじゃないよ。
だから石川くんの歌のファンが、
今の時代にもこんなに多いんだなって、
本気で思うよ。
   *
珍しく石川くんのことをほめたら、
なんだか照れくさくなってしまった。
じっと手を見て、
きょうはここらへんにします。
じゃあ、また来週。

枡野浩一

http://talk.to/mass-no

2000-05-13-SUN

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