自分をつくってくれた時間。石黒亜矢子x糸井重里 対談

第5回 考えてきた分量の多さ。

糸井
ぼくが勝手に思うのは、
石黒さんには、
吉本隆明さんの長女のハルノ宵子先生と
似た雰囲気を感じます。
漫画家で、文章も達者で、
ものすごくサバサバしているのに、
考えている分量はものすごく多いんですよ。
石黒さんも、言っていることは
サバサバしているのに、
ずいぶん長い間、物事を考えてきましたよね。
石黒
そうですね。
20代は、ずっとアルバイトをしていて、
ニートだったんで、
何かを考えてばかりというか、
それを絵にすることしか
取り柄がなかったんです。
糸井
部屋によっぽどこもってないと、
こんな線は描けないでしょうね。
簡単に描いているようなほうの絵も、
誰にでも描けるわけじゃないですよ。
石黒
よく私、友達に
「1人なのに楽しそうだね」とよく言われるんです。
昔ブログを書いていたら、友達が、
「全然家から出ないじゃん。
なのに、すごい楽しそうなブログだよね」って。
想像したことを書いていたんです。
次、生まれ変わるとしたら、
虫だったら何がいいかな、とか、
そういう感じでした。
糸井
でも、その時間が自分をつくってくれましたね。
石黒
そうですね。親に感謝です。
父にブツブツ文句を言われながらも(笑)。
糸井
実家にいたんですか?
石黒
はい。途中で出たりもしたんですけど、
基本は実家にずっといて絵を描いてました。
よく親が許して‥‥
いや許してはなかったですね、ちっとも。
無理やり描いていただけです。
糸井
今の時代って、ちょっと家にこもりがちだと、
「もっと外に出ろ」とか「活動しろ」って、
周囲が早めに言い過ぎるんですよね。
もっとこう、しばらく見ててから、
「そろそろどうだい?」とか。
そうじゃないと、
蓄積するものがないですよね。
石黒
今は子どもが忙しすぎますね。
自分の子どもを見てても、
学校の宿題の量も多いうえに、
塾に行ってないと授業についていけない、
というふうになっちゃっているから。
子どももスキを見て
絵を描いたり本読んだりしているんだけど、
ほとんど時間がなくて、
見ていてかわいそうになっちゃいます。
糸井
あれは、大人が埋めてあげていると思っているのかな。
暇そうにしているのが
見てられないんでしょうね、きっと。
でも、塾に行かないと学校の授業についていけない、
というのは、ありえないと思いますよ。
石黒
そうなんですよね。
多分、みんなどうしても
大学に入らなきゃいけない、
という呪いみたいなものがあるみたいです。
うちは、私が大学を出てないし、伊藤も出てないので。
糸井
あ、両方とも。見事ですね。
石黒
はい。伊藤は歯科技工士の専門校を出て、
漫画家になる前は歯科技工士だったんです。
だから私は子どもたちにも、
大学に行きたければ行けばいいけど、
高校時代にやりたいことが見つかっていれば、
専門校へ行ったほうが早いよとは言ってます。
でも、まだ小学生だから、分かってはないみたいです。
「なに言ってるんだろう、この人」みたいな感じ。
糸井
旦那も奥さんも、目つぶっちゃ変なこと考えて、
それをメシのタネにしているふたりと、
そこで暮らした子どもたち‥‥いいねえ。
石黒
まっすぐ育てばいいですけどね。
糸井
大丈夫ですよ。
‥‥いや、何ていうか、
会う前に思っていたイメージと、
あんまりズレはないですね。おもしろいです。
石黒
ありがとうございます。
糸井
ちょっと横尾忠則さんの話をすると、
彼は、若いころ郵便局員になりたかったそうなんです。
でも、若いときからひっきりなしに
いろんなものに誘われているんですよ、
画廊でちょっと立ち止まっていたら、
「君も展覧会しない?」と言われたり。
それはやっぱり、
かわいそうだから誘うっていうことはないんで、
誘った側を惹き付ける何かが絶対にあったんです。
きっと、最初から横尾さんは変だったんです。
石黒さんも変だったと思いますよ。
20代のバイトしている間。
石黒
いえ、ホントただのオタクだったので‥‥。
糸井
ご主人の、歯科技工士をしていた伊藤先生も、
きっと変だったと思うし。
石黒
あ、はい、変でした。
糸井
絵本作家のミロコマチコさんも
やっぱり歯医者さんで働いてましたよね。
ミロコさんも原画がやっぱりすごくて、
ドカンと来るんですよ。
あの人も、頭の中の妄想を
ずいぶん溜めてきた人だと思うな。
石黒さんから見ると、
ミロコさんはちょっと年下になるんでしたっけ。
石黒
あ、だいぶ年下です。
ミロコさんは、私がミロコさんの作品の
『オオカミがとぶひ』を見て衝撃を受けて、
勝手にファンだったんですけど、
今年やっと会えました。
糸井
絵を描く人が、
他の人の描くもののファンだというのを、
昔の人ってあんまり言わなかったんですけど、
今は多くなりましたね。
アートディレクターとかも、
「俺はあの人の仕事好きだよ」って
よく言いますよね。
大島
まさにまさに。そうです。
サラッと言っちゃう。
糸井
平気で言うでしょう?
昔は「ああ? あいつ?」ってなっていたのに。
そこの垣根の低さは、
そこだけは、なんか平成かもね。
石黒
ああ、ついに。
そこだけはやっと私も平成になれた(笑)。
大島
ようやく(笑)。
糸井
あとは、石黒さんに
これからもいっぱい描いてほしいです。
量産した後で見えてくるものも絶対あると思うんで。
石黒
はい。
糸井
きっと、これからいくらでも描けますよ。
妖怪絵の要素だって、
「これが額縁の中にある」という描き方をすれば、
絵本の中にもジャンジャン入れられるわけだし、
なんとでもなりますよね。
石黒
そうですね。がんばります。
糸井
Twitterのほうも楽しみにしています。
今日はどうもありがとうございました。
石黒
こちらこそ、ありがとうございました。
(おわります)

2017-02-02-THU

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1973年生まれ。絵描き。
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主な仕事は、絵本や装丁画、挿絵など。