犬と猫と人間が親しくなれるアプリ
ドコノコ」をリリースして数日後、
石田ゆり子さんが「ほぼ日」に来てくださって、
糸井重里と久々におしゃべりしました。
ゆり子さんの愛犬、
花ちゃんが天国に旅立ったのは
2年前の春でしたが、
あれから、ゆり子さんの家では、
いろいろな変化があったそうです。
その話をじっくりうかがいながら、
「ドコノコ」を実際に楽しんでいただきました。
そして、この日の対談をきっかけに、
ゆり子さんの新連載「ゆきちゃん」も
はじまったんです。
あわせてお楽しみくださいね。

もくじ

01 花ちゃんの旅立ちと、その後のこと。

2016-07-25-mon

02 「ドコノコ」が生まれたきっかけ。

2016-07-26-tue

03 「ドコノコ」の楽しみかた。

2016-07-27-wed

04 みんなで育てる世界。

2016-07-28-thu

05 ゆり子さんファミリーの今。

2016-07-29-fri

イラストレーション:大橋歩

撮影:小川拓洋

糸井
ゆり子さんとは、
ちゃんとお会いするのは久しぶりですよね。
道でばったり、みたいなことは
あったかもしれないですけど。
石田
はい。今日はお招きいただき、
ありがとうございます。
糸井
こちらこそ。
さぞかし、花ちゃんとお別れした
悲しみの中にいるんだろうと、
ぼくらも妙に気を遣っちゃって、
連絡をしてなかったんです。
石田
あぁ。
糸井
だから、花ちゃんが亡くなってから、
どういうことがあったのか
ぼくらは何も知りません。
石田
はい。
糸井
そこから何があったのか、
ぜひ、お聞かせください。
石田
(笑)はい。
あの、うちには2年前まで、
チョコレートラブラドールの
「花」という犬がいまして、
2年前の4月に、病気で亡くなりました。
で‥‥どうお話ししたらいいんだろう、
そのときはまだ、
「アンジェ」「メイ」「ミント」という
猫たちがいたんですが、
実はその子たちも続々と旅立ってしまい、
「ビスク」という猫だけが残ったんです。
糸井
「ビスク」だけ。
石田
はい。
ここ数年で、みんな天寿を全うして
天国に行ってしまって。
そんな中で、私、犬のいない生活が
本当にできないなと思ったんです。
散歩という習慣もなくなって、
気持ちも沈んじゃって‥‥。
糸井
わかります。
石田
それで、実は今、犬と暮らしています。
ゴールデンレトリバーで、
「雪」という名前なんです。
糸井
ゆり子さんが新しい犬と
暮らしているという噂は聞いてました。
今、何歳ですか?
石田
1歳半くらいです。
糸井
ぼくもそういう経験をいずれするので、
聞いておきたいんですけど、
毎日一緒に暮らしている友達が
ある日いなくなる、
いわゆる「ペットロス」は、
やっぱりすごいものでしたか?
石田
‥‥うーん、そうですね。
花は12歳で亡くなったんですが、
病気になって、身体がどんどん
弱っていく様子を見ていると、
その子の身になって考えたら、
苦しい時間が短いほうがいいなと思ったんです。
人間のエゴで無理に引き延ばしちゃいけない、
辛いけど看取ってあげなきゃいけない、と。
だから、天国に旅立ったときは、
すっごく寂しいけど、
辛い状況が終わってよかった、
という気持ちになりました。
糸井
あぁ。
それはきっと、今だから、
わりと整理して話せているんですよね。
石田
はい。
そのころは、ちょっと訊かれると
私がすぐ泣いてしまうので、
なるべく話さないようにしていました。
糸井
そういう気配って、周囲も感じるから、
「今、ゆり子は大変らしいよ」と
噂になってましたよ。
石田
そうなんですよねぇ‥‥。
糸井
その状態は、どのくらい続くんですか。
石田
うーん‥‥人によるとは思いますけど、
私の場合、半年くらいはありましたね。
桜の木を見たりすると、思い出すんですよ。
糸井
「一緒に桜を見たな」と。
石田
はい。
あと、ボールとか、遺されたものを見ると、
思い出がわっとよみがえってくるので、
それと向き合うのが、ちょっと辛かったです。
糸井
覚悟はしていてもね。
ぼくも、うちにブイヨンが来たときから
心の準備をしてはいるんですけどね。
生き物だからと頭ではわかっていても、
それでも怖いです。
ゆり子さんに対しても、担当者に
「今は大変だろうから、
問い合わせもしなくていいよ」とか、
そういうことを言ってました(笑)。
石田
(笑)
糸井
きっと、ゆり子さんも、
ちょっとずつ整理しながら生きていたとは
思うんですけどね。
でも、その半年は、
仕事がなかったら大変でしたね。
ぼくはゆり子さんが
ずっと仕事していたのを見てましたけど。
石田
そうですね。
花が亡くなったときは、
映画の撮影をしていたんです。
『悼む人』という映画で、
タイトルもまさに、ですし、
内容がまた重かったです。
そのころ、花が亡くなる間際で
「今日か明日か」という状況を
毎日見ていて、いつも心が崖っぷちでした。
糸井
仕事に夢中になっている間は
忘れられるということだけど、
その仕事のほうも結構重い仕事でしたよね。
石田
きつかったですよ、とっても。
だけど、なんでしょうねぇ、
うまく言えないんですけど、
本当にいつか必ず来ることなので、
逃げちゃいけないという気持ちもすごく強くて。
糸井
あぁ、あぁ。
石田
だから、ワーッと泣き叫ぶようなことはなくて、
意外と冷静さを保とうとしていました。
表には出さない。
いったん表に出すと、泣いてしまうので(笑)。
糸井
なんだか、
自分だったらどうするのかなぁ
と思いながら、この話を聞いてます。
石田
でも、大丈夫ですよ。
糸井さん、まだ。
糸井
そうですか。
石田
はい。
はなちゃんの夏休み。」を連載していたときも、
私、いつもその瞬間を覚悟していたんですけど、
やっぱりね、必ず来ることを考えても
しょうがないという気持ちになりました。
糸井
あぁ。
石田
だったら、今、生きているうちにできることを
考えたほうがいいと思ったんです。
すいません、私、糸井さんに、
偉そうなことを言ってますけど。
糸井
いやいや。
石田
心配してもしょうがないんですよ。
「大丈夫。生きてるうちは、楽しくね」って。
糸井
うんうん、花ちゃんのテーマは
「楽しくね」でしたもんね。
今、完全に、先輩に話を聞いている気分です。
石田
すいません、偉そうで(笑)。
糸井
バレーボール部みたいな感じで、
「世界大会って、どんなですか?」みたいな。
石田
(笑)
糸井
ぼくらも「その後の話」を聞きたかったんですよ。
でもやっぱり、なかなかね。
うちの担当者も
「そろそろ、ゆり子さんに連絡をしてみても
いいような気もしないことはないんですよね」
なんて、ものすごくまわりくどい言い方を
していましたよ(笑)。
石田
あぁ。私は「ほぼ日」を毎日見ていて、
なんか、「はなちゃんの夏休み」が終わって、
みんなが遠くに行っちゃったなぁ、
と思ってました(笑)。
私は「ほぼ日」が大好きだから、
なんとかまた関わりたいんだけど、
チャンスを逃したというか、
どうしたらいいんだろう、みたいな気持ちでした。
糸井
参考のために聞きますけど、
ぼくらはもっとおせっかいに、
ゆり子さんに対して、
「何かやりましょうよ」って、
バカみたいに聞いたらよかったのかな。
石田
はい(笑)。
糸井
しまったなぁ(笑)。
石田
なんか、一度外れた者にとっては、
「もう一回輪に入れてください」とは
なかなか言いにくい。
糸井
輪の中は、みんなで、
「まだだよ」「いやいや」とか、
お互いに戒め合ってましたよ。
石田
(笑)また仲間に入れてください。
糸井
ありがとうございます。
人間の場合でも、
仕事で関係した人たちが
亡くなることだってあるわけだけど、
人間の場合は、
悲しみのなかに浸ってばかりはいられない、
という経験があるじゃないですか。
だけど犬猫のことは、
ぼくにとって初めてだったんですよね。
だから、
「うーん‥‥ゆり子さんが自分から
 何か動きだしたり、言いだすまで黙ってようか」
と言っていたんですけど、勉強になりました。
この話を聞けるだけでよかったです。
(つづきます)
2016-7-25-MON