井の頭公園、飛び地

東京の郊外に、井の頭公園という、
緑と水にあふれた憩いの場所があります。
「ほぼ日」のなかにも、
こんなきもちのいい緑地があるといいな、と思いました。
なんでもないときふらっと訪れ、
ぶらぶら歩いて、緑をながめ、
ときにはしらないだれかから「こんにちは」なんて
声をかけられたりして‥‥。

まるで「飛び地」のように、井の頭公園のいろんな景色を
ここへ、はこんでみようと思います。

ご案内役は、井の頭公園でずっと絵を描き続けている
イラストレーターの森本ひであつさん。
ひであつさんと「飛び地」をぶらぶら歩きます。
なんでもないとき、ふらっと訪れてみてくださいね。

──
特別編 10年ぶりに、ひであつさんと。

こんにちは、ほぼ日の山下です。
このコンテンツを更新するのは、約10年ぶりのことです。
昔からの読者のなかにはもしかしたら、
なんとなく覚えている方がいらっしゃるかもしれません。
そんなあなたに、ありがとうございます。
でもほとんどのみなさまは、
ご存じないコンテンツでしょう。
「井の頭公園、飛び地」。
ほぼ日のなかに、公園の飛び地をつくるように、
その場所の景色やできごとをはこんでくるページでした。
お時間があればどうぞ1回目からお読みください。

10年も昔の企画を、なぜいま再び更新しているのか‥‥。
前置きが長くなって恐縮です。
ひであつさんとの再会のお話を、すこし書かせてください。

ことし、2月中旬のことでした。
夕刻の吉祥寺の街をぶらぶらしていたぼくは、
ふと、ユニクロ吉祥寺店の大きなディスプレイに
目を引かれました。
「あ‥‥これ、好みかもしれない」

「そうか、井の頭公園の絵なんだ」

「スワンボート、かわいいなぁ」

「‥‥ん? この絵のタッチ、
 もしかしたらこれを描いたのは‥‥」

果たして、 大きな絵から視線をずらしてみると、
そこにはこの絵を描いた作家のプロフィールが
こんなに大きく記されていました。

「ひであつさんだ」とぼくは、声に出して言いました。
おどろいたし、うれしかったし。

プロフィールを読み進めて、さらにおどろきが重なります。

プロフィールのなかに、
ほぼ日刊イトイ新聞「オーダー絵はカワイイ。」掲載
という一行が。

「オーダー絵はカワイイ。」とは何なのでしょう‥‥?
ここでまたすこし説明を要します。
手短に。
フリーランスだったころの山下は13年ほど前(!)、
ほぼ日で連載をしていました。
「カワイイもの好きな人々。(ただし、おじさんの部)」
という風変わりなコンテンツでした。
カワイイものが好きなおじさんに話を聞いていく企画です。
その第27回「オーダー絵はカワイイ」
ご登場いただいたのが、ひであつさんとの出会いでした。
「井之頭公園、飛び地」は、
この出会いがご縁ではじまった企画だったのです。

説明ばかりでごめんなさい。
なにが言いたいかといいますと、
「とにかくうれしかった、すごくうれしかった」。
お仕事の履歴のひとつに、
ほぼ日でのことがくっきりと記されている。
だいじに思っていてくださったんだなぁ‥‥と。

うれしくて、興奮して、その場でツイートをしました。
そうしたらひであつさんご本人から
「ありがとうございます」という反応が。

そこからは、いわゆるトントン拍子という展開で。
「お久しぶりです、お元気ですか?」
「もう10年も経ったんですねー」
「そうだ、TOBICHIで個展をひらきませんか?」
「まずは久しぶりに会いましょう」
「場所はもちろん、井の頭公園で!」

2月下旬の平日、午前11時、
10年前と同じ待ち合わせ場所。
公園入口の階段下に、ひであつさんがやってきました。

山下
わあー、ひであつさーん!
ひであつ
お久しぶりです。
山下
ご無沙汰してました。
急にお呼び立てして、すみません。
ひであつ
いえいえ、ありがとうございます。
山下
ええと‥‥お話をうかがいたいのですが、
どうしよう、どこで話しましょう?
ひであつ
実はちょっと前に来て、
向こうで絵を描いてたんです。
よかったら、そこで‥‥
山下
ぜひぜひ、そうしましょう。
どちらで?
ひであつ
あ、こっちです。行きましょう。

10年ぶりに「てくてくと」、歩きました。
ひであつさんと、井の頭公園を、てくてくと。

歩きながら周囲を見れば、
あのころと変わらない景色があります。

ぷかぷかと浮かぶ水鳥。

思い出ベンチ。

このコンテンツを最後に更新したとき、
最後の最後に書いたことばを思い出しました。

「公園は、ずっと、ここにありますから。」

ほんとだここにある、と思いながら歩いていると、
ひであつさんが前方を指差し、足をとめました。

ひであつ
あそこです。
山下
ああー、いいですねぇ。
きょうは自転車で?
ひであつ
はい。
山下
そうですか。
‥‥いい眺めだなぁ。
山下
‥‥ユニクロさんの絵には、
ほんとにびっくりしました。
ひであつ
ありがとうございます。
よかったです、偶然見ていただけて。
山下
まさかあんなに大きな絵で、
再会するだなんて(笑)。
ひであつ
はい(笑)。
山下
あたりまえのことなのですが、
お会いしていないあいだにも、
ひであつさんはすっと描き続けていたんだなぁ、と。
すばらしいと思いました。
ひであつ
いろんなかたの支えがあるから描けているんです。
描ける環境があるっていうのは幸せです。
山下
公園で絵やグッズを売っていたお店は?
ひであつ
お店は7、8年前にやめました。
山下
そうですか。
オーダー絵は?
ひであつ
オーダー絵は続けています。
主にネットで注文をお受けして。
山下
よかった。
ひであつさんといえば、
ぼくにとってはオーダー絵なんです。
あれはほんとにうれしかったですから。
ひであつ
ありがとうございます。
山下
お店はやめたけれど、
公園にはこうして来ている。
ひであつ
そうですね、スケッチをしにきたり、
こうして大きめのキャンバスをもってきたり。
山下
どのくらいのペースで公園に?
ひであつ
週に3日とかでしょうか。
井の頭公園以外にも行くんです。
神代植物公園とか。
山下
やっぱり外で描くのが好きで?
ひであつ
そうですね、なんでしょう‥‥
部屋で描いているともんもんとして
描けないときもあって。
そういうときはとりあえず外に行って、
スケッチからはじめよう
ということをずっとやっています。
山下
スケッチからはじめよう。
いいですね‥‥。
ひであつ
描いていると、いろんなことが起きるんです。
おじさんがやってきたり、鳥がやってきたり、
こどもたちがやってきたり。
山下
話しかけられる。
ひであつ
話しかけられます。
たとえば今の時期ならミツマタを描いていると、
ミツマタ好きのおじさんがやってきて、
「おおっ? ミツマタだな?!」って(笑)。
山下
へえーー(笑)。
ひであつ
虫もやってきます。
キャンバスにちょこんととまったりして。
山下
ここに(笑)。
ひであつ
そういうなかで描いてると、なんだか、
自分が公園の一部になっているような。
山下
ああー、その感じは
部屋で描いているのとはずいぶん違いますね。
ひであつ
そうですね、部屋ではなかなか味わえない。
山下
‥‥こうしているいまも、
実際にきもちいいですもんねぇ。
ひであつ
はい。
山下
きょう、いいですよね、風もないし。
ひであつ
きょう、ほんと、気持ちいいですね。
鳥の鳴き声もよく聞こえます。
山下
ねえ‥‥。
ひであつ
‥‥‥‥(描く)。
山下
‥‥‥‥(それを見ている)。
ひであつ
‥‥‥‥‥‥。
山下
‥‥‥‥‥‥。
山下
‥‥あのね、ひであつさん。
ひであつ
はい。
山下
ずっと前にお世話になった、
「井の頭公園、飛び地」という企画の、
あのタイトルは
糸井がつけてくれたんですよ。
ひであつ
糸井さんが。
山下
はい、10年前に。
で、2年くらい前に
青山墓地の側につくったリアルな場所が、
「ほぼ日のTOBICHI」っていうんです。
これも糸井が名付けました。
ひであつ
とびち。
山下
いまぼくはTOBICHIの担当をしています。
その場所で、
「井の頭公園、飛び地」のひであつさんが
個展を開催してくれるという‥‥。
これはもう、すばらしいことです。
‥‥すみません、勝手に盛り上がってます(笑)。
ひであつ
いえ、そんな(笑)。
うれしかったです、声をかけていただいて。
山下
個展のタイトルは、
「井の頭公園、飛び地」でいきましょうね。
ひであつ
‥‥ああ、いいですね。
山下
ほぼ日のTOBICHIに、
井の頭公園の飛び地がやってくる‥‥。
ひであつ
ご縁を感じます‥‥。
ひであつ
‥‥‥‥(描く)。
山下
‥‥‥‥(それを見ている)。
ひであつ
‥‥‥‥‥‥。
山下
‥‥ひであつさん、井の頭公園の良さは、
どういうところにあると思います?
ひであつ
良さ‥‥。なんでしょう‥‥。
よくわからないんですけど、
なにかふしぎな力があるような。
山下
ふしぎな力。
ひであつ
公園って癒やされる場所でもあるんですが、
ここにいると逆に、
刺激を受けて活性化されるような‥‥。
癒やすこととは逆の場所のように思えます。
山下
いろいろなものもやってくるし。
ひであつ
はい。
ですからそう、井の頭公園は、
ひとりで来て平気な、
さみしくならない場所ですね。
山下
なるほど、たしかに。
そんな公園のムードがTOBICHIにやってくる。
TOBICHIでの個展は、どんなふうに?
ひであつ
それについては、ちょっと考えていて‥‥。
山下さんが見てくださった、
ユニクロさんの絵を描いているときに、
「あ、このグリーンいいな」っていう、
緑の発見みたいなことがあったんです。
山下
緑の発見。
ひであつ
今回はその緑を全面に出していきたいと。
何点かグリーンの柄を並べて、
この公園の雰囲気を出せたらいいなと思っています。
山下
この絵も完成したら‥‥?
ひであつ
はい。展示する予定です。
山下
‥‥いま目の前でこのキャンバスに、
公園が染み込んでいるように見えました‥‥。
個展が、こころからたのしみです。

それからひであつさんと山下は立ったまま、
「こういう展示にしましょう、
 こういうものもつくりましょう」
という打ち合わせをしばし、したのでした。

10年ぶりに、ひであつさんと、井の頭公園。
たのしかったです。
いまのこの空気がはこびこまれる、
TOBICHIでの個展は、
きっとすてきなものになるんだと思いました。

ひであつさん、いつかまた、この公園で。

2017-03-09-THU

<今までの更新>

2007-10-05  その1 散策をはじめます。
2007-10-12  その2 ボートと弁天様。
2007-10-19  その3 思い出ベンチ。
2007-10-26  その4 絵を描く人々。
2007-11-02  その5 動物園を歩く。
2007-11-09  その6 ゾウのはな子さん。
2007-11-16  その7 動物園で出会った人々。
2007-11-23  その8 早朝の公園は。
2007-11-30  その9 ひっそりスポット。
2007-12-07  その10 歩くと、おなかがすくのです。
2007-12-14  その11 週末はアートマーケッツ。
2007-12-21  その12 できました、オーダー絵。