青山学院大学が箱根駅伝を面白くする(かも)。
青山学院大学に注目する理由

2012年の箱根駅伝で5位に入り、
有望な1年生が入学してきた青山学院大には、
新年度になって大きな注目が寄せられていました。
まず、ここ数年でグングン強くなってきた
という勢いがある。
それにタレントもそろっていたから、期待は膨らむばかりです。

特に前回の箱根駅伝の「花の2区」で区間賞をとった
出岐雄大選手は、
3月に行なわれたびわ湖毎日マラソンで
初マラソンにかかわらず
2時間10分02秒という好タイムをマークしました。
学生がオリンピック選考レースで
上位で走ったのはだいぶ前だった記憶があるので、
出岐選手のこの走りには興奮しました。


日本を代表するエースとなった出岐雄大選手

そして前回も触れましたが、
有望な1年生が大量に入部してきたことも
楽観論に拍車をかけました。
なんといっても、箱根駅伝を目指す学校の中で
新入生の5000mの平均タイムを比較すると
青山学院大の1年生がトップだったのです。
これは史上初めてのこと。
リクルーティングでトップに立ったわけです。

ところが、ここに落とし穴がありました。
原監督は言います。
「みんな、『箱根病』にかかってたね」
箱根病?
箱根病とは、いったんなんでしょうか。
まずは大学史上はじめて箱根で5位に入り、
みんなが「おめでとう」と言ってくれて、
ちやほやしてくれるようになった。
卒業していく4年生はわずかしかおらず、
有力な選手はほとんど残っている。
そこに実績のある1年生が入ってくるのだから、
強くなるのが当たり前——。
原監督が見たところ、
「選手たちが勘違いしてしまって、強いと錯覚してしまったわけです」
という状態になってしまった。

そうした浮ついた状態がしばらく続き、
6月に行なわれた全日本大学駅伝の予選会で
なんと青山学院大は予選落ちしてしまうのです。


予選落ちという結果に号泣する出岐選手と大谷選手

「箱根病が半年も続いてしまった」
原監督はそう見ていました。

駅伝を強くするためには、
「3つの要素」が
必要だと、原監督は常々話をしています。
まずは、「生活力」のアップ。
陸上はふだんの生活態度が
そのまま実績につながる競技です。
大学の選手たちは
朝は5時前から起きて、
みんなで朝のジョグをしてから食事をとり、
学校へと出掛けていきます。
そして午後にまた練習。
自立した生活をおくらないことには
選手として強くなれないのです。

そしてふたつ目は「団結力」。
陸上は基本的に個人スポーツですが、
こと駅伝になると、
チームとしての力が問われるようになります。
走っていて苦しくなっても、
自分があきらめてしまったら
チームに迷惑がかかる。
だからこそ、チーム全体で強くなっていく
意識が大切だと原監督はいいます。

最後は「競技力」。
これは日々の練習で培っていかなければなりません。

これまで青山学院大は生活力と団結力によって
力をアップさせてきたのに、
箱根駅伝の5位によって、浮ついた空気が支配してしまい、
チームとして戦う意識が弱くなってしまったーー。
それが全日本の敗退の原因であり、
主将の出岐君が故障していたことも響きましたが、
「出岐以外に勝負できる選手が誰もいないことが露呈してしまった」

と原監督は悔やみました。

箱根の歓喜から、一気にどん底へ。
青山学院大は仕切り直しを迫られます。

しかし夏合宿を終えた
青山学院大はたくましくなっていて、
体育の日に行なわれた「出雲駅伝」で見事、優勝。
優勝メンバーは・・・
1区 小椋 (1年)
2区 藤川 (2年)
3区 久保田(1年)
4区 大谷 (4年)
5区 福田 (3年)
6区 出岐 (4年)

優勝が決まった直後、
青山学院大の選手たちが集まっているところにいると
橋本主務がいて、
「生島さん、やりました!」
と興奮気味に話してくれた時は、
思わずグッときてしまいました。

選手たちの努力が報われる瞬間に
立ち会えるというのは、
この仕事の特権かもしれません。

レース前、原監督は、
「久保田のところで1分半以内だったら、
トップに立って、逆に差をつけて
逃げ切ってしまうんじゃないかな」
と淡々と話してくれたのですが、
それが現実のものになってしまったことに
驚かざるを得ませんでした。
この出雲駅伝の結果を受けて、
青山学院大は優勝候補の一角に躍り出たわけです。

 

箱根駅伝プレビュー

今年の青山学院大はとてもバランスのいいチームです。
現在の4年生は「弱い青学」の時代に入学してきて、

「俺たちが4年になったら優勝を狙えるチームにしよう」
と話し合ってきた学年。
それは現実のものとなりました。
4年では出岐主将が中心。
びわ湖毎日マラソンのあとは
ケガに苦しんだようですが、
11月下旬の合宿から調子をあげてきたようです。
もうひとり、注目の4年生は大谷遼太郎君。
出雲駅伝の4区で区間新記録を出した選手ですが、
走った直後のインタビューが強烈。
泣きながら答えていたのに、
最後は真顔で出岐主将にメッセージ。
3年まではケガに苦しんできた
「熱い男」がブレイクした印象があったのですが、
レース後の優勝インタビューでは、
アナウンサーの人が、なぜか大谷君に対しては
一問しか聞かずにスルー。
箱根ではたっぷり話を聞く機会があればいいと思っています。


「熱い男」こと大谷遼太郎選手

2、3年生も渋いランナーがそろっていますが、
原監督は1年生に期待を寄せている様子。
「3人か、4人は走ると思いますね」
実は青山学院大の躍進の秘密は
この1年生たちにあるといえます。
高校時代から実績のある選手が入学し
練習の段階から強さを見せつける。
それどころか上級生よりも
しっかりと練習を積むことさえできる。
1年生の姿を見て、上級生たちも刺激を受けて、
より練習を励むようになる。
相乗効果によってチーム力が格段にアップしたと見るべきでしょう。
たたき上げの4年生、コツコツと原監督流の
練習に慣れてきた2、3年生。
そして才能豊かで練習も強い1年生。
とてもいいバランスなのです。
特に久保田選手はすでにエース格で、
起用区間が注目されています。
「復路に久保田を温存できればかなり楽しみ」
と原監督はいいますが、
2区、3区、7区、9区あたり、どこを走っても不思議はありません。


スーパールーキーの呼び声が高い久保田和真選手

そして1区で起用が予想される小椋選手は
とても1年とは思えない落ち着きがあります。
12月12日に行なわれた青学での記者会見でも
「1区を走ることになれば
仕掛けてきた選手にうまく対応して
2区につなげればいいと思っています」
彼はとても理知的なランナーです。


スタートの1区が予想される小椋祐介選手

多様な個性の集合体。
それが今回、箱根駅伝を走る青山学院大の魅力だと思っています。
競技である以上、もちろん順位はつきますが、
青山学院大の選手たちには、
キャラの立った、
気持ちのいい走りを期待したいと思っています。

どうやら、年末には寒波が襲ってくるという話なので、
体調管理に気をつけて、
ベストのコンディションで箱根に挑んで欲しい。
これはなにも青山学院大だけでなく、
20チームすべてのランナーに言えること。
晴れ舞台に、「幸」多からんことを。

生島 淳

2013-01-01-TUE
 
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