ライくん、ジョシくんのプロフィール
APU(立命館アジア太平洋大学)は生徒の半分が海外留学生で先生も半分が外国籍の、多文化の環境です。副学長の今村正治さんが感じる「いまの就職事情」「学生たちがめざすもの」はどんなふうに変化しているのでしょうか。そして、自分のやりたいことを見つけて食べていく方法とは、いったい何なのでしょうか。今村さんと糸井がナビゲーターをつとめるイベント活きる場所のつくりかたの動画中継(2月21日開催)もぜひ観てくださいね。
もくじ
第1回 君はいま、アウェイにいますか?
第2回 大人の価値観も、変わりはじめている?
第3回 お世話になった場所は、ありますか?
第4回 フレンドリーが、仕事を生みます。
君は
──
まずは、2月21日に開くイベント
「活きる場所のつくりかた」を
なぜやることになったのか、ということから、
お話ししたいのですが‥‥。
今村
「ほぼ日」さんは、渋谷パルコや梅田ロフトで
「はたらきたい展」をやりましたよね?
あれで、ぼくらも改めて
「はたらく」ことの意味を考えたのですが‥‥。
APU(立命館アジア太平洋大学)は、
ちょっと変わった大学だと
思われているかもしれないのですが、
なんだかんだいって、やっぱり日本の大学なんです。
「就職率は◯%です」
「上場企業にこれまで△人が入ってます」
ということについて、世間は
注目しているように思いますし、
我々も意識せざるをえない。

うちの大学は別府の山の上にあるのですが、
「オンキャンパス・リクルーティング」
といって、毎年、首都圏を中心に
300~400社の採用担当の方々が来て、
採用面接をしてくださいます。
説明会から面接までやっていただくんですよ。
──
企業のほうから大学に
逆「就職活動」にいらっしゃるわけですね。
今村
はい。
それは大変ありがたいことなんです。
国の違いを超えてたくさんの卒業生が、
日本のブランド企業で働いている。
すばらしいことです。
ただ、学生の選択肢がその範囲に
とどまってしまう可能性があることも心配しています。
ほんとうは、首都圏や大都市だけでなく、
地元や地方の中小企業にも、
海外のビジネスチャンスがたくさんあって、
うちの学生が活躍できる場所があるはずなんです。
しかし、どうしても
「就職先は、東京の大きな会社である」
ということが
学生の頭の中心になっている
傾向があるかもしれません。

APUというキャンパスで育った学生たちは、
これまでの既成概念とは違う生き方をしていく。
そういうことがあってもいいと思うし、
そうあってほしいですね。
実際、従来の道に背を向けるように、
自分で歩き出す学生もいるんです。
APUは1期生が卒業して10年経ちますが、
「予定どおりの人生を歩んでない」人は
とても多いと思います。
──
たとえば、どういう方でしょうか。
今村
企業に入り、次に大学院に入って、
もういちど企業に入る人。
あるいは、会社をつくった人や、
社会的な活動をしている人‥‥。
──
今回の「活きる場所のつくりかた」に
出演されるのも、
社会活動をしている人たちが多いですね。
今村
そうですね。
彼らについて、特にすごいと思うのは、
昔の社会運動とはちがって、
ちゃんと「食べていける」ということなんです。

いいことをして食べていく、
その帳尻が見事に合っている。

社会貢献、国際貢献、いいことをするというのは、
何か、たいてい自己犠牲を伴うものじゃないのかな、
と思うでしょう?
だけど、彼らはそうではない。
彼らはちゃんと食べていけてるんですね。

このことをなんとかうちの在学生にも伝えたいのです。
あたかも人生がすごく
まっすぐであるかのように信じて錯覚をして、
大人たちの価値観を受け入れて、
「こういう仕事についたらになったら
 食いっぱぐれない」とか、
「勉強ができるから、医学部に行く」とか、
そういうのってすごく
もったいないんじゃないかと思います。

人のためになることをしたり、
自分のやりたいことをしながら、
ちゃんと生きていけるんだ、ということを伝えたい。
これは、なにもみんな
社会的起業をやろうというのではなく、
会社でも公務員でもどこでも、
働くということを考えるうえで意味がある。
そんなことを糸井さんと話しているうちに
イベントをしよう、ということになったんです。
──
社会的な活動をしながら
食べていける人たちの、
特徴はありますか?
今村
そのことは、ぼくも考えたことがあります。
「なぜ、彼らなのか」と。

ひとつは学生にとってキャンパスが
「アウェイ」であった、ということ。
これが大きいと思いますよ。
うちの大学は基本的に
地元の大分県から通う自宅生は、1割ほどです。
残りの9割が自宅外生で、日本、いや、
世界中から来てるんだけど、
東京出身の学生もたくさんいます。
留学生も含めてほぼ全員が
「ホーム」ではなく「アウェイ」ということです。
はじめは身内がいない。知り合いもいない。


それからうちの大学は
「違っている」ということに対しての
感覚が独特なのかな、と思います。
「違っている」ことに対してとても寛容だと思います。
「Everything is different, not strange」
違っていることが、当たりまえで、
それは、おかしなことでも何でもない。
そんなふうに「違い」を受け入れるんです。
普通日本では、日本人同士でいるのがあたり前で、
その日本人の輪の中に
外国人が少しまじりこむという状態が
ふつうの感覚だと思います。
しかし、日本人学生と留学生が半々のAPUでは、
もともとぜんぜん違ってていいし、
むしろ違いを楽しむ風潮があります。
こういったことは、APUだけでなく、
「突然できた新しい街」のような場所でも
起こりうること感覚だと思います。
differentだらけの場所では、
「当たり前のものに背を向けても構わない」
という感覚が育つんじゃないかなぁ。

APUは、在日コリアンの学生も多く、
韓国人と日本人の橋渡しをいきいきとやっています。
帰国生も多いし、
大学入学資格認定試験を受けて入学する学生もいます。
そういう、いくぶん、
学習や環境がさまざまな学生もたくさんきているので、
それぞれが、そのバックグラウンドの違いを
楽しむ風土があります。

「活きる場所のつくりかた」のイベントに出てくれる
D×Pの今井紀明くんなんて、
APUに来た当初は、当日お話があると思いますが、
壮絶な体験をして、
ほとんど「引きこもり」でした(笑)。
でも、大学で、在日コリアンの朴基浩くんに
出会ったことがきっかけで、
変わっていったと聞きました。
しかも、温泉で(笑)。
──
温泉で、今井さんと朴さんが出会ったんですか。
今村
そう。お風呂場で朴くんが今井くんを
「なに言ってんだ!」といって
叱咤激励したんだそうです。
それで彼は目覚めた、と。
そういうことがすごく象徴的だと思うんですよ。
──
違うもの同士が、
違ってもいい場所で、
出会ってぶつかるということ‥‥。
今村
それはとても必要な状況じゃないかな、
とぼくは思います。
(つづきます)
 

2015-02-17-TUE