『言いまつがい』装丁伝説!
あのへんな本をつくった人たち。
祖父江慎×しりあがり寿×糸井重里

第8回 自信と信頼関係

── しりあがりさんは、
自分が「こうしたい!」と思うことと、
誰かから「こうしてください!」って
頼まれることと、
両方があるような気がするんですけど。
しりあがり そうですね。
うまく融合すれば
いちばんいいんですけどね。
なかなか‥‥。
自分がタフじゃない状態のときって、
逃げちゃうんですよね。
たとえば「こうしてください」って
言われたときに
「そっちがそう言うんだから
 こうやりましたよ」みたいに。
糸井 あああ、うんうん。
タフじゃないときって、
あるんだよね(笑)。
しりあがり タフじゃないときは、
面倒くさいから(笑)。
そういうときって、
自分が頼む側のときも逃げちゃうんですよ。
できてきたものに対して
「ちょっとこれはどうかな?」って思っても
そこで口出すことによって、
時間もかかるし、気も遣うし。
だから「‥‥いいじゃんこれで」って
なっちゃうんですよね。
だからやっぱね、あの、
‥‥難しいですね(笑)。
糸井 難しいです。それだけでもう、
一生のテーマになるぐらい難しいねぇ。
その、「逃げちゃうんですよ」っていうの、
ピッタリですよねぇ(笑)。
だから、「それはイヤだ!」っていうのも
一種の逃げなんですよ。
単純に「オレはゆずらねぇ!」って言って、
頑固者のフリをして、逃げている。
「クリエイティブっていうのはよぉ‥‥」
って言って、頑固な職人ぶったところで、
その人がたどり着いた世界って、
すごく狭かったりするわけで。
そこなんだよ。
なんか、いちばんおいしい果実を
一生かじれない人もいるんですよ。
祖父江 その点、しりあがりさんは
器が大っきいなと思った話があるんですよ。
糸井 おお、具体的にある?
祖父江 しりあがりさんの、
漫画家生活10周年記念のシリーズ本を
ぼくがつくることになったんですよ。
そのとき、デザインについて言われたのが、
はじめて聞くことばでね。
「なるべくいい加減な感じで、
 真面目にデザインしないでほしい」
って言われたの。それは、あの、
「いい意味でいい加減」って
いうんじゃなくて、
「ほんっとにいい加減」。
一同 (笑)
しりあがり え? なんでそんなこと言ったんだろう?
ぜんぜんそんときのこと思い出せない。
糸井 たぶん、まったく違うものを
呼び込みたかったんじゃないかな。
なんか新しいものを
呼び込みたいときって、ありますよね。
しりあがり あー、そうだったかも。
糸井 目の届かない部分を
あえてつくっておいたりね。
そうすると、その場所に、
幸運の女神様が、
そっと立ちションをしていくんだよ。
ああ、いいこと言ったね、いま。
── ‥‥女神なのに立ちションですか。
しりあがり あの、なんかこう、
降りてくる空き地をつくるんですよね。
空き地をつくっとかないと
降りてこないから。
糸井 そうそうそうそう。
そこへね、こう、ちょっとお尻まくってね、
オシッコしてるんだよ、幸運の女神が。
で、そっち見えるのに見てないフリすれば、
そのままそこに、花を咲かせんのよ。
でも、「あ、幸運の女神だ!」って
思ってると、
ターッていなくなっちゃうんだよ。
だから、それはそれで
また難しいんだよねー。
── そういう仕事って、
誰とでもできるわけじゃないですよね。
糸井 だから、そこは信頼関係ですよ。
── そうですよね。
「いい加減な感じ」を依頼するときの
しりあがりさんと祖父江さんの関係なんて
まさにそうでしょうし。
祖父江 ふつうは「いい本つくってくれ!」って
言う著者が多いのにね、
「いい加減な本にしてくれ」って、
はじめて聞きましたよ。
しりあがり あのころはちょうど、
かっこいいと思われているものが、
見本としてまわりにいっぱいある状態で、
自分自身がちょっと
変わりたかったんだろうなぁ‥‥。
なんていうのかな、
「エディトリアルでございます!」って
がんばるようなことを、
一度パラッと、ほどきたかったんだね。
糸井 それは自信があるからできるんですよね。
実際に「いい加減にしてください」と
言えるのは自信がないとできないから。
祖父江 そっか。
しりあがり そうですよね、ある意味。
糸井さんが前におっしゃったことと同じで、
まあ、自分の本だし、どこまでやったって、
こうむるリスクなんて
たかが知れてるじゃないですか。
ダメだったら、「ダメだったか!」って
あきらめりゃいいだけでしょ。
だから、きっと、糸井さんと同じで、
ぼくの上に上司がいて、
ダメだったら、この人が責任取るんだ、
みたいに考えちゃうと
僕もできないですね(笑)。
「いい加減にデザインしてください」
なんて言えないですよね(笑)。
── やっぱり、自分の責任がきちんと自分で
取れるようになるにしたがって、
できることも自由になっていくっていう、
両方の動きなんですね。
祖父江 しりあがりさんの会社の名前も
びっくりしたしね、
「さるやまハゲの助」。
一同 (笑)
糸井 いやー、あれは個人として独立した喜びに
充ち満ちてるよね!
つまり、誰かの決裁がいらないときって、
オレはここまでやっちゃうんだなっていう。
「名前を、さるやまハゲの助にしたら、
 今後まずいかな? どうなるんだろう?」
なんて、考えなくたっていいんだよ。
だって、イヤだったら、
自分でまた変えればいいんだから!
しりあがり そうですよね(笑)。
 
(続きます!)

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2004-03-02-TUE

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