『言いまつがい』装丁伝説!
あのへんな本をつくった人たち。
祖父江慎×しりあがり寿×糸井重里

第7回 本気でものを言う

糸井 あ、そういえば、ぼく、
デザインに関してはほとんど
なにも言わなかったわりに、
表紙を変えてもらいましたよね。
祖父江 ええ、「ダメ出し」がでて、
変えました。
糸井 それ、やっちゃったのよ。うん。
しりあがり へええ。もともとは、どういう?
祖父江 タイトルロゴは手書きで細くて
ちょっと落書きみたいな感じで
そこはかとなく入ってて、
しりあがりさんの絵が大きく
ふにゃふにゃしてるデザインだった。
糸井 うん。なぜ変えてもらったかというと、
『オトナ語の謎。』が、
いい感じで売れてるんで、
たぶん本屋で
隣り合わせに並ぶだろうなと思って。
で、とにかくタイトルをデカくして、
それを特徴にしちゃいたいと。
そのまえに『海馬』っていう本があって、
あれは、
ウチが出版したわけじゃないですけど、
『海馬』から『オトナ語の謎。』って、
デカいタイトルの流れできたんですよ。
だったら、もう今回も
デカいタイトルシリーズにしたいと。
それで、やり直してもらったんです。
祖父江 やり直させてもらったんです。
糸井 結果的によかったよね。
祖父江 よかったですね〜。
糸井 暮れも、もう押し迫ってから(笑)。
祖父江 『オトナ語』を隣に置きながら
まねっこロゴつくりましたよ。
これと並ぶんだな、ってね。
── そういう大きなリクエストが来て、
「せっかく自由につくってたのに!」
みたいにはならなかったですか?
祖父江 あ、ぜんぜんならない。
もうできててもね、
たとえそれに長い時間をかけたとしても、
なんか、もう1コ違う、
もっといいのがみえてきたら、
過去はもう、どんどん捨てちゃいますよ。
「やった! もっとできる!」
と思って(笑)。
── あああ、そういう気持ちなんですね。
糸井 タフだねぇ。
祖父江 ‥‥っていうか、
やらないとおちつかないし(笑)。
── 監修者としての糸井さんに訊きますけど、
その「表紙にタイトルを大きく!」って
いうのはどちらかというと、
デザインというよりも、
経営者的な立場からのリクエストですよね。
糸井 そうですね。
── 祖父江さんに任せて
自由にやってもらっているなかで、
そういう注文を出すというのは
少し葛藤があるんじゃないですか?
糸井 それはですね、やっぱり、
ここ何年かで培った経験が、
ぼくにとって重要なんです。
つまり、サッカーでもさ、
選手に自由にプレイさせてるように
見えるけど、
そこには監督の方針があって、
もっと言うと、監督の向こう側に
FIFAとかがあるわけですよ。
たとえば、日本代表がワールドカップに
出られるんだろうかっていう
ニュースがしょっちゅう流れますよね。
今日勝たないとダメかもしれないっていう、
首の皮1枚みたいな場面が
何回もあるじゃないですか。
あれって、要するに、誰かが
大きな仕組みをちゃんと考えているから
そうなるんですよ。
── ああ、なるほど。
糸井 だから、1回負けて
ダメになるんじゃなくて、
「何々して何々して何々すれば
 ワールドカップに出られる」みたいに
何回も期待が持てるようになってる。
つまり、あの仕組みを
考えた人がいたおかげで、
ぼくらは長く遊べるんですよ。
ま、ほんとの「FIFA」が
いいか悪いかは知りませんけど、
自分の仕事としては、
その「FIFAの役割」っていうのを、
ちゃんとやんなきゃいけないなと、
ここ数年で思えるようになったんです。
そうしないと、
選手がせっかくいい活躍しても、
お客が観に来てくれない
わけじゃないですか。
だとしたら、嫌がられたとしても、
「頭下げてでもやってもらうこと」を、
ちゃんと言えないとダメだなと思ったし、
言うことが、わりと平気になりました。
それこそ昔は、自分の立場は逆で、
きちんとした説明をされないままで、
ただ「直せ!」って言われることが、
いっぱいあったわけだけど。
── 「選手」としての立場だったころ。
糸井 そうです。そういう立場にいるころって、
「クリエイティブ対営業」みたいに
考えたり、
「経営と制作は違うんだ!」とか、
そういうことを言いがちなんです。
クリエイティブを商売にしている人ほど、
なかなかそこの折り合いを
つけられないままで
一生を終わっちゃう場合が多いんです。
しりあがりさんなんかは
ずっと大きな企業に勤めてた人だから
よく知ってると思うけど。
しりあがり そうですね。
糸井 大切なのは、
クリエイティブ側とか経営側とかいう、
立場の違いは関係なくてね、
本気でものを言っているか
どうかなんですよ。
あらゆる人が、こう、
本気でなんかものを言ってるときって、
やっぱり、聞けるだけの、
エンターテイメントが入ってるんです。
それこそ「儲けたい一心!」っていう
人の話でもいいの。
もうね、本気で言ってる人の発言って、
やっぱりね、すごいんですよ。
 
── だから、経営的な意見で
表紙のデザインにリクエストを出すときも
迷いなくできるというか。
糸井 もう言えるんですよ。
そのかわり、あの、
小っちゃいことではあんまり言わないし、
小っちゃいこと言う場合には、
ものすごく本気で
小っちゃいこと言いますよね。
そういうふうにすると、
あの、なんていうのかな、
わけのわからないよさが出るんですよね。
それはやっぱり、長年かかりました。
ほんっとに長年かかりましたねぇ。
(続きます!)

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2004-02-27-FRI

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