ほぼ日ブックス

『言いまつがい』ができるまで
     〜製本工場探検の旅・後篇〜


ほぼにわ。

単行本『言いまつがい』は、
いったいどこらへんが「前代未聞」なのか?
「言いまつがいの道」という地図を
偶然にも手にしたさすらいの探検家、
フォン・スキー・ウォガー・プレゼンツ、
製本工場の旅・後篇です。


セイホン ヒョウシカタヌキ ツルツル シアゲヌキ アナアケ オーリ
さすらいの探検家、フォン・スキー・ウォガーである。
昨日の旅の疲れは癒えただろうか。
先を急ぐ旅は好まないが、今回は勝手がちがう。
先を知りたいがゆえに、自然と足が前に出るのだ。
さぁ、旅を続けよう。

ヒョウシカタヌキ(表紙型抜き)
〜本の顔だからこそ〜

小学校の体育館ほどもある、広い工場は、
しーんと静まりかえっていた。
われわれの到着を待って、
作業を始めるつもりだったという藤倉氏は、
見るからにまじめそうな、真摯なまなざしの男性だった。

ほかの仕事もあるんですけどね、
この仕事は作業前の調整に2時間くらいかかるんですよ。
実作業よりも調整に時間がかかるなんていうことは
よくあることですから、手を止めて待ってました。

そう言いながら、あらためて調整を開始する。



「ビーッ」というブザーのあと、
本の顔である表紙の型抜きをするためのマシンが動き始めた。
昨日の 手差しによる「穴あけ」と考え方は同じだが、
紙が自動で流れてくることと、
こちらは抜き型が上から降りてくるという違いがある。



↑「マシンにセットした抜き型を下から見上げる」の図


また、今回は表紙のため、
「切れ目」と同時に 背の「折れ目」も入れていく。
「折れ目」の場合は、台座のほうにも凹みを入れて
かみ合うようにするそうだ。
この調整を間違うと紙がちぎれてしまったり、
折れ曲がってしまい、せっかくの表紙の印刷も、
「PP貼り」もおシャカになってしまううえ、
当然、商品の納期も遅れてしまう。



無言でチェックを続ける藤倉氏。

本の顔ですからね。
細かい部分まで気になりますよね。




しばらく調整を繰り返し、やっと納得のいく状態に。
われわれがおじゃまする前に
いったん終了していたはずの調整も再度見直し、
ゆうに1時間は経過していたように思う。



『言いまつがい』の表紙型抜き。
完成品に近づいたところと、まだまだ違うところと‥‥。


セイホン(製本)
〜急に「本」になる〜

あれはなんだ!
鳥だ! 飛行機だ! いや、UFOだ!!



ん? おばちゃん?
は! これが「本体」と「表紙」を合体させるマシンか!
おばちゃんが、円盤の外径のミゾへ
1冊ずつ「本体」を差し込むと、スルスルとそれは流れ始める。



途中で液状の「のり」を背につけ、
熱と圧力をかけて密着させるらしい。


やや、いきなり「本」らしくなったぞ!
(スピード、速し!)

これまでは、その道のスペシャリストによる
「部分」の作業ばかりを見てきたため、
突如、「本」らくしくなるさまは、感動的ですらある。

そんなわれわれの感慨とはうらはらに
現場の作業はあくまでも淡々と進行していく。



さぁ、いよいよ、仕上げへ!

シアゲヌキ(仕上げ抜き)
〜慎重であることの意義を知る〜


いきなり「本」になった物体のあとを追って到着したのは
いよいよこの旅の最終地点。
その名も「仕上げ抜き」。
いよいよクライマックスである。
いろいろな細工を見てきたが、
どうやらふつうの書籍ともっとも異なる点が、ここらしい。

だって、ふつうの本は型抜きしねぇもん。

クマちゃんの形にカッティングしてあるメモ帳や付箋なら
目にしたり、手に取ったりしたことがあるだろう。

しかし、今回は分厚い「本」である。
この道のベテランである吉田氏も
一筋縄ではいかないと思っている様子だ。



ここにこうして「『言いまつがい』なりかけ」 をセット。



アルミのお弁当箱のように見える部分が「型」。
鋭利な鋼の型なので、手を近づけるだけで緊張が走る。
この型に向かって一気に「『言いまつがい』なりかけ」が
押し込まれる!

ガガッガッ!!

大音響とともに『言いまつがい』の完成形が姿を見せる。



型抜きをしたものをいろいろな角度からチェック。
最初にあがったものは、
型を抜くときの圧力の逃げ場がないとかで、
裏表紙にキズができてしまった。
にわかにかき曇る現場の空(室内だけど)。

手を変え、品を変え、圧力を変え、 機械を変え、
数時間後には現場にいあわせた面々から
会心の笑みがこぼれた。



左から吉田氏、この旅を仕切ってくださった図書印刷の森下氏と
同・前田氏、吉田氏のご子息・明弘氏と、図書印刷の谷口さん

完成〜〜〜!!
見よ、この威風堂々とした仕上がりを。



本棚に入れるとハミ出す『言いまつがい』は、
こうして何人もの職人の手を通って完成した。

ありきたりな締めの文句ではあるが、
『言いまつがい』の旅はまだ始まってはいない。
2月14日、諸君の手に届き、
そしてそこからさらに拡がっていくことを熱望してやまない。

            フォン・スキー・ウォガー

【ご注意】
↑ クリックすると大きな画像が見られます。

『言いまつがい』は、
あらゆる工夫のなされたデザインであり、
そのため、背表紙の下部の
カッティングも通常とは異なり、
本体の「折り」が見えるつくりになっています。
これは特殊な製本を要する、
『言いまつがい』独特の仕様であり、
「不良品」ではありません。
あらかじめご了承ください。


◇製本工場の旅〜オールスターキャスト〜
内村折本紙所
青木良而氏
東京都文京区
伊藤紙器/伊藤孝浩氏・
悦孝氏・八千代さん
東京都北区
大和紙工業/伊藤浩司氏 埼玉県和光市

藤倉紙器/藤倉優氏

東京都足立区
光和製本 東京都新宿区

吉田製本/吉田友彦氏

東京都板橋区



2004-02-10-TUE

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