飯島食堂へようこそ。おでかけ編 キッチンツール選び、ごいっしょに 重松清さんと、かっぱ橋。
かっぱ橋道具街とは
LIFE

その10 単機能はすごい@合羽橋珈琲店
重松 ほんとにね、俺は今度、かっぱ橋に来るときは、
「ひとり鍋」をね。
飯島 はい(笑)。
── 何でそんなにひとり鍋がいいんですか(笑)。
重松 いや、何かね、無性に。
無性に惹かれるんだよ。
── 無性に惹かれる。
重松 もう抗えない。
飯島 あの小さいカセットコンロで。
重松 うん。だからまさにさ、
日本人の縮み志向じゃないけどね、
こじんまりとワンセット揃う、
だからほんとに固形燃料と鍋とさ、
目玉焼きだけのフライパンとかね、
これ、全部揃えてさ、
単身赴任セットみたいなさ(笑)。
飯島 ああ、いいですね。
ちょっと贅沢な単身赴任セット。
重松 俺、単身赴任のルポ、
やってたから分かるんだけど、
離れて暮らしている奥さんが
いちばん心配してんのが、
「火」なんですよ。
飯島 あぁ!
── へえ。
重松 ガスとか酔っぱらってやると危ない。
飯島 「火事を起こさないかしら」
重松 そうそうそう。だからね、
固形燃料がいいんだ(笑)。
消えるから。
── その固形燃料を消す道具も
一緒に売っていましたね。
重松 あったね。
だからさ、火をつけたら
消さなきゃいけないときもあるよねっていうんで
消す道具があるわけだ。
必ずさ、何かニーズがあったら、
1つずつさ、答えを出していくような、
そういうところも、いいよね。
飯島 関連商品があるんですよね。
コップがあればストローがあってみたいな。
重松 そう、そうなんです。
── プロの調理人が
フグの肝を入れる容器がありましたね。
鍵が付けられる。
飯島 そうそう、あれ、面白かったですね。
重松 面白いね。だからああいう本格志向もあり、
時々ね、まさにミジンとかさ、ネギーみたいなさ、
まぬけなネーミングのものがあったりね。
── そういう専門的な電化製品は
概して高価でしたね。
大量生産できないからですかね。
重松 ああ、そうか。
ロットがいかないもんね。
── 単機能に特化してて、
しかも丈夫だろうし。
飯島 そうですね。
重松 でもすごいよね、
ほんとにスライスだけで勝負っていう。
やっぱり、道具を極めれば単機能?
── 単機能なんですかねえ。
重松 これしかできませんと。
でもやるよ、っていう(笑)、
かっこいいよな。
── マルチなものは少なかったですね。
かっぱ橋で、見ててもあんまり
興味持てなかったですね、マルチなものって。
飯島 そうですね。
重松 道具の持ってる潔さってあるのかな、プロの。
カメラなんかもそうかもしんないけどさ。
── iPodも、最初、音楽を聴く道具に特化して
流行った気がしませんか。
重松 そう、最初のウォークマンなんか、
ほんとそうだったんだよね。
録音ができない? スピーカーがない?
ありえない、って言ったら売れちゃったもんね。
じゃあ何、携帯電話とか
反対の方向に行ってるわけ? 道具というのは。
── 携帯電話、反対方向ですね。
何かいろんなことできちゃってて、
よく分かんなくなっちゃう。
重松 今から減らしていっちゃうのかね。
── 実際持ってて使いやすいのは
単機能のものですよね。
重松 うん。単機能の洗練てあると思うんだ。
チボリ・オーディオってさ、
ラジオのメーカーがあるんだ。
それ、ほんとに単機能。
今どき珍しいラジオだけで、
ぼってりしてんだけど、
俺、すごく好きなのね。
で、何かね、いろんなものを付けちゃうと
変な方向に行っちゃうような気がして、
だからすごくね、チューニングなんかの
ツマミの触感がいいの。
── 木の箱みたいなデザインの?
重松 そうそう。
ほんとにサイコロみたいな形で
ぼってりしてるんだけど、
ツマミなんかがすーごく気持ち良くて、
他の機種だったらプリセットできるんだけど、
それもできないようにしてんの。
チューニング、
自分で合わせなきゃいけないんだけど、
「回す」っていうのって
あまりないじゃない、今の時代。
── はい、はい。
重松 それが、気持ちいいんだよ。
「指で感じる幸せ」ってあるじゃない、
持ったときの重さとかサイズとか。
飯島 確かにチューニングが合ったときに、
「あ、合った」っていう、
口に出すまでもないような嬉しさみたいなこと、
きっと今、デジタルでぴっとなってるから、
微妙に感じなくなってるかもしれないですね。
そのときにラジオがぴたっと合ったときに、
「おー」っていう、ちょっとした嬉しさが
かっぱ橋の道具に、ある気がしますね。
重松 ほんとはさ、そこにいくと、
今度は微妙なズレとか違和感てのがさ、
結構ストレスになるよね。
飯島 はい。
重松 だからぴたーっと決まったときの気持ち良さと、
微妙にずれてる心地悪さ。
昔ね、うちのお袋がね、左利きなんだけども、
ずっと引っ越しばっかりやってて、
ある町でね、ほんとに機嫌が悪かった。
半年間しかいなかったんだけど、
その間中、機嫌が悪くなった。
何でかっていったら、水道の蛇口がね、
こう、右側に付いてるやつだったから。
飯島 へえー。
重松 左利きのお袋からすれば、
上についてればいいものを
右で回さなきゃいけない。
それがものすごいストレスだったんだろうね。
飯島 へえー。
重松 動線てあるじゃない、
それで全然変わるんだよね。
飯島 はい、大切ですよね。
しかも水道って、
1回料理するごとに1回使うっていうわけじゃなくて
10回も20回も使うわけだから、
余計それはストレスですね。
重松 結局そうやってさ、ちょっとしたストレスが
そのまま機嫌を悪くするように、
これを持つときの気持ち良さが好きだから
包丁を持つってあるじゃん?
俺、半年ぐらい前に料理やってて、
どうも包丁がね、切れなくて、
とり肉なんか全然切れなくて必死だったよ。
それでさ、新しい包丁買ったんだ。
こんなにすーって行くのーって思った。
── 感動ですよね。
重松 料理が楽しくなるよね。
飯島 そうなんですよ。
ほんとに包丁が切れるだけで、
何か他の食材も切りたくなりません?
重松 そうそうそうそう。
何か、人間の本能が目覚めてね、切りてえー。
飯島 何か切るもん、ないかなあなんて。
── 研いでます?
重松 研いでる、研いでる。
── 研ぐの、楽しいですよね。
重松 楽しい。また集中してね。
飯島 楽しいです。
重松 あれはほんとに面白いなあ。
飯島 研げたかなあなんつって、親指の爪で確かめると、
みんなが、うわ、うわっとかって見るから。
── 爪に刺すって!
飯島 爪にこう刺したときに、
いい具合に食い込んでたら、
OKなんですよ。
重松 うわ‥‥。
── 恐いですよね。
飯島 でも全然痛くないんですよ?
重松 はい。
飯島 ちょっと当てるだけですよ、
ちょっとあててずれなければ、
研げたしるしです。
── でもできないです。
おすすめもできません。
たしかに、板さんもそうやってますけれど。
飯島 そうです。
── 包丁づかいの得意な人はやるんですよ。

(次回が最終回です。つづきます!)

訪れたお店はこちら

合羽橋珈琲
東京都台東区西浅草3-25-11
http://www.kappabashi.or.jp/shops/60.html


2009-12-03-THU


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