楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第16回 食堂のメニューはどうなってるんですか。
糸井 『南極料理人』は、
いろんな意味で、やりっぱなしだよね。
うん、うん。
糸井 縦軸横軸、埋まらないもん。
飯島 『めがね』も、そうですよね。
「これでどんな映画になるのかな?」って。
糸井 あの監督(荻上直子監督)は、それが素でしょ?
飯島 そうですね。加瀬亮さんが小林聡美さんを
「先生」って呼んだりするんですけれど
何の先生かもわからないままなんですよね。
決めてないんだ。
糸井 いや、決めたらあの映画はできない。
飯島 そうですね。
あぁー。
糸井 だったら、って、
もっと描きたくなっちゃうところあるしね。
役者も聞かなかったんですよね、じゃあね。
糸井 荻上監督は『バーバー吉野』に、
全部入ってますよね。その説明しなさが。
『バーバー吉野』の座談会読みました。
最初から批評が破壊されてるのが
おかしかった、なんかね。
おかっぱの話をずっとしてたんですよね(笑)。
糸井 そうそうそう(笑)。
批評する気が最初なかったっていうのが
おかしかった。
糸井 そうそうそう。
(笑)。
糸井 『バーバー吉野』はすごかったな。
そしてその意味では
『めがね』のほうが
『かもめ食堂』よりすごいですよね。
あんな映画を作っていながら、
次の映画を作れるっていう才能はすごいよね。
企画書にもなんないしさ、
どうして受けるかの説明もできないしさ。
なのに、次の映画作れるんでしょ。
みんな作れなくて悩んでるのに。
堺くんは映画撮るのは、ないの?
ないです。
まだ全然そんなこと考えてないですね。
糸井 思いもしないんだ。
じゃあ、そのままでいいんじゃない。
思ったらね、
そのとき、考えればいいんだもんね。
今思ってるのは、
助監督から監督になる人と、
監督として監督になる人の2ついて、
それはどっちがいいんだろうと思ってて。
例えば若い人に、
「役者になりたいんですけど」って言われて、
「じゃあ、これしないさい」って
何も言えないんですよね。
ひと昔前だと劇団があったりとか、
その前だとなんか学校があったりとかするんですけど、
今は、売れる人は勝手に売れてて、
売れない人はいつまでたっても売れないっていう。
糸井 そうですよね、そうですよね。
技術すらないから。
糸井 ああー。
もうそれこそ『俳優修行』に書かれてはあるけど、
それとは全く何か別のものだったりもするから。
糸井 そうね。いや、その通りですよね。
全部そうですよね。
昔は、助監督って、結構理不尽な作業なので、
監督になれるっていう保障がないと、
とてもやれない職業で。
今、予算がなくなると、
助監督と製作部が質がグッと落ちるんですよね。
糸井 はぁー。
車止めたりとか、
弁当手配してくれる人、
雑用をしてくださる方が、
いなくなっちゃうんです。
テレビ局はまだ、ところてんじゃないけど、
この人が次にこうなってってあるけど、
映画とかだと助監督で上に上がっていっても
一番上の監督はカリフォルニアから来ました、
って言われたら、
「ええ?! 15年間頑張ったのに」
っていう感じになっちゃうので。
だから「苦労してそこにいろ」とも言えないし、
「辞めろ」とも言えないっていう。
糸井 いや、納得行きますよね。
ピクサースタジオの記録フィルムを
みんなで見ようと思ってるんだけど、
それは、3Dのアニメを作りたい人の物語。
やっぱりよくできてるんです。
わかるんですよ。
熱情やら、必要なものやら。
それはドキュメンタリーですか?
糸井 ドキュメンタリー。
ピクサーの親玉って、
ジョン・ラセターっていう監督なんだけど、
『トイ・ストーリー』を作った人です。
それが3D長編アニメの第1号なんですよ。
それまでそんなものなかったんです。
ふうん。
糸井 そういうのを作るのが夢で、
学校で奨励賞みたいなのを
2年連続で取ってる天才だったんだけど、
そいつの作りたい映画は金がかかりすぎるんで、
できなかった。で、そこから始まって、
科学者とジョイントして、
お金とジョイントして、
ピクサーができるんですよね。
で、ディズニーと付いたり離れたりしながら、
今に至るんですけど、
学生のラセター君が
「おめでとう」って言われてるシーンとか
全部残ってるの。
へ〜え。
糸井 その助監督云々っていうのは、
運っていうか、巡り合わせの問題って言うと
説明にならないんだけど──。
『天才!』っていう本が出てるんですよ、
原題は「Outliers」、
並外れた人みたいな意味らしいんだけど、
その本のなかに、
すごく頭がよくてうまくいかなかった人の話
っていうのがあるの。
それは、クイズ番組に出てくる
IQ190の人の話なんだけど、
親がDVだったり、奨学金をのがしたりして、
学校を出ることができなかったの。
でもその人は巡り合わせがわるいと怒りながら、
恨むだけなんですよ。
うーん。
糸井 その人にはいろんな運命が続いて、
結果、ものすごく頭のいいブルーカラーになる。
それがクイズ番組に出て
「さて、次の質問行きますか、降りますか」
って言った時に、普通降りないじゃん。
でもものすごく頭がいいんで、
降りてそこまでの賞金を貰ったほうがいいって
わかっちゃって、降りるんですよね。
そういう人がどうしてできたかっていうと、
要するにね、
この子はすごいかもしれないっていうことを、
1つも認められずに自力だけでやってきたんですよ。
一方で、例えばテニスをやってる人が、
親が教えてくれたとか、あるじゃないですか。
それは、親と彼の共同作業として育ってるんですよ。
「バカだ、バカだ」って言われて放っとかれた子と、
「本当にすごいね」って言われた子との間は、
ものすごく自尊心が違うんですよ。
で、もしその自尊心みたいなものが育てられていたら、
「奨学金だめだよ」って言われた時に、
どうやってその「だめだ」って言ってる人と
社会的な関係を持って、
もう1回ひっくり返せるだろうっていうことも、
頭がいいんだからわかるはずなのに、
そこは行かないんですよね。
で、逆の例として出てるのが、
ものすごい天才的で、
大学の時に教授に毒を飲ませて
殺そうとした人がいるんですよ。
へえ!
糸井 オッペンハイマーっていう原爆の父。
オッペンハイマーがそうだったんですか。
糸井 原爆の研究所の所長をやってたんだけど、
なんとか重要な人物に掛け合ったりしながら、
自分の殺人未遂をごまかしてここの場所にいるわけ。
で、同じように頭がいいんだけど、
「俺はだめだ」って言って恨んでる人と、
何とかできると思った人の違いが出て。
だから、例えば、うちの社員の子が、
まあ、勉強はできない子なんだけど、
引っ越して新しい学校に行く時の面談で、
「○○くん、なにか質問はありますか」
って訊かれたら、
「食堂のメニューはどうなってるんですか。
 まいにち変わるんですか」とか
積極的に聞いたらしいんだ。
(笑)。
糸井 で、つまり、彼は、
ちょっとお勉強ができないっていうけど、
そこで質問をしていいっていうことを
知ってるんですよ。
でも、そのクイズ番組の天才は、
質問なんかできないんですよ。
で、昔のぼくらの日本人の
庶民の家の教育は質問なんかできないんですよ。
でも、いまの都会の子どもは
「質問しなさい」って育つんですよね。
その違いで、また2つに道が分かれるんですよね。
とするとだよ、助監督をやってて、
「監督っていうのは難しいんだ」って
いつも叩き込まれてるやつは
監督になるのは難しいですよね。
‥‥なんでしょうね。
糸井 だから、ならない人が多いじゃないですか。
ほおー。
糸井 あるいは監督が
「お前、そろそろ撮ったらどうか」
「ありがとうございます」って
監督をやるっていうパターンしかないじゃないですか。
でも、それを期待してやってるんでしょう。
糸井 でも、そんな例は100に1つですよね。
で、一方で、「俺は監督になる」って育って、
例えば親が、「お前はそういう子だ」って言って、
「じゃあ、アメリカで勉強してきなさい」
って言ったら、なるんじゃないですか。
あぁー。
糸井 だから、そう考えると、なんて言うんだろう、
巡り合わせっていうか。
だけど、例えば『南極料理人』の
現場を支えてるのは、
その辛い作業をしている人だったりするんです。
糸井 そこが、俺は、辛くなく、
それができるはずだと。
そこなんですよね。


(つづきます)

2009-09-07-MON


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN