飯島 (料理を運んでくる)
さっぱりとフキ煮です。
小林 いただきます。
それがね、意外と嬉しいもんで、
人にふるまったら、好評だったんですよ。
糸井 うん、うん。
褒められるとね。
小林 褒められるんです。で、そうすると、
ちょっとこれはもうなくなるころには
第二弾にかからなきゃいけないな
っていうふうな気持ちになって。
糸井 ずーっと豚汁を作り続けるサイクルに(笑)。
一同 (笑)。
糸井 それは、俺が黒豆をやめられないのと
ちょっと似てるね。
小林 難しそうですね、黒豆は。
糸井 難しい。
難しいけども、できるようになると簡単。
小林 丹波の黒豆ですか、やっぱり?
糸井 丹波の黒豆。
小林 あのぅ、麻布十番に
おいしい甘味屋さんがあるんですけど。
糸井 ああ、はい。
小林 そこで黒豆、相当ね、
もともと大阪のお店だったんで、
2,000個とか瓶詰めしたやつを、
年末にかけて注文で出すんですよ。
お店がそのころお休みになっちゃうから。
糸井 ああ、なるほど、なるほど。
小林 で、それぐらいこだわりのある黒豆で、
黒豆もそうだし、小豆も、
丹波の大納言っていう。
糸井 大納言、はいはい、知ってます。
小林 もう本当にどっちもおいしいんですよ。
そこのアイスクリームと混ぜると
本当においしいんで、食べてて。
「おいしいよね、ここのは」って言ったら、
「すいません。今日は京都の
 丹波の大納言じゃありませんので。
 麻布十番祭りで本当になかったんで、
 北海道にしました。
 今日は御代頂けません」って言われたんです。
それまで「うまいね。さすがやっぱりうまいね」
って食ってた俺らみたいな味のわからない人間なのに、
その丹波の大納言じゃないっていうだけで。
糸井 ああー。
小林 「いや、そんなわけにいかないから」
って押し問答になったんですけど。
僕なんかは、北海道で十分じゃないの?
って思うんだけど、
やっぱり丹波のものをっていうふうになるのね。
あれ、不思議だね。
糸井 あのぅ、なんていうんだろう、
まず、大きさとかが関係あるよね。
つまり、小さいかでかいかっていうのは、
結構はっきりとした差がつくから。
丹波の黒豆とかはもう枝豆の状態から
ドーンとでかくて。
小林 うん、うん。
それを、甘く仕上げるわけですよね?
黒蜜のような感じで。
糸井 あれは白蜜なんですけど、
ちょっと醤油を入れるんですよ。
黒豆煮っていうのは醤油も入ってるんです。
小林 で、糸井さんがそれに凝ってるっていうのは、
それはなんですか?
糸井 凝ってるわけじゃなくてさ。
小林 食後とかに食べるのがいいんですか?
糸井 作るのがいいの。
小林 で、いつ食べるの? それ、だから?
糸井 作った後。しばらく。
小林 しばらくそればっかり食うの?
糸井 そんなことはない。
小林 タイミングとしては?
糸井 正月だよー。
小林 あ、それはもう
年にそれだけ?
糸井 暮れにとにかく煮るの。
正月が近くなると、最初にくれた人が、
「あ、今年も煮ますよね」っていう感じで、
「今日送りますから」ってくると、
それが循環しているんだよ。
作るっていうこと自体がもう
俺のリズムになっちゃった。
暮れになったら
黒豆を煮るような時間っていうのは。
小林 でも、群馬の人ですよね?
なんでそんな京都の文化に目覚めたの?
糸井 だから、関係ないのよ、そんなこと!
一同 (笑)。
糸井 黒豆と群馬は何も関係ないよね。
俺、子どものとき食べてないもん。
食ってうまいのは、
大人になってからじゃない?
小林 うん。いや、たぶん。
いつも思うんだけど、
器にしてもそうなんですけど、
なかなか行き着かないよ。
黒豆に行き着かないですよ。
糸井 おいしいと思えば行くじゃん?
小林 いやいや、だけど、
普通そんな思ってるほど行かないですよ。
糸井 (笑)。
小林 なんで群馬の人が。
糸井 そんな風土に左右されるの(笑)?
小林 みたいな気がするんだけど。
糸井 それはさ、ハタハタが獲れる場所だから
ハタハタを食べるとかっていうのは
あるんだろうけど、今は全国区ですよ。
イタリア料理のシェフだって
みんな日本人ですよ。
小林 ハタハタはですね、獲れるところじゃなくて、
僕らの京都みたいに魚のないところで
ハタハタを食ってる人間からすると、
ハタハタっていうのは、
冷凍庫に必ず入ってますよ。
糸井 そんなに好きだったんだ?
たまたま俺、今ハタハタって言ったんだけど。
小林 あれがいいのは、出して炙って、
頭から全部おいしいんです。
糸井 うん、うん。
小林 で、ハタハタを頭外す人がいるんですよ。
僕はそれ、まったくわからないんです。
あのぅ、頭からあの‥‥。
糸井 それ、酔うと絡むタイプの話だね(笑)。
一同 (笑)。
小林 (気にせずに)
硬くないし。
あの、なんかカチッと硬いところないんですよ。
もろい魚なのかな、つくりが?
糸井 もろいだろうね。
小林 でも、身はちょうど、うまくて。
糸井 だからさ、冷凍庫にハタハタを
取っとくっていうのは、
産地でもないのに、やってるわけじゃない?
俺が、だから、丹波の黒豆をさぁ。
小林 だから、京都が産地なんですよ、逆に。
産地っていうとおかしいけど。
糸井 ああ?
小林 本当の産地は秋田とか
日本海のあっちのほうなんですけど、
そういうのはね、ゴロゴロ見てると、
逆に感動も何もないと思うんですよ。
糸井 ニシンとかね。
小林 そうそう。ニシンもそうですよ。
棒鱈っていう鱈もそうなんですけど。
ああいうものは全部京都に行っちゃってるんですよ。
糸井 でも、風土の問題じゃないと思うのよ(笑)。
おいしいなと思ったものを再現できるかどうかで。
たとえば、棒鱈を俺は作らないもの。
小林 うん。
糸井 棒鱈は無理だって思う。
小林 なんかちょっと、あのぅ、
黒豆を作るっていうセンスは
乙女が入ってますよね?
糸井 というかー。
一同 (笑)
小林 なんかね、棒鱈っていうとね、
こう、オヤジがね、
「棒鱈? 棒鱈なきゃ正月じゃねぇ」
とかこう、あるんですよ。
だけど、あの黒豆って、
ちょっと乙女っぽくて、
かわいくていいなぁと思いますよ。
糸井 俺は、だから煮物しかできないんだよ。
小林 いや、だから、棒鱈も煮物だよ。
糸井 そうか。いや、違う。
あれは仕事はその前にある、なんか。
小林 水で戻したりするんですけど。
糸井 そう、なんかある。
俺はとにかく回転か煮物か
どっちかしかないの。
擂り粉木で、擂鉢で
自然薯を磨るなんていうのは俺の仕事なのよ。
納豆かき混ぜるのも俺の仕事なのよ。
小林 うん、うん。
糸井 『古事記』の男役だよ。
こうやって国を作ったんだよ。
小林 あぁー。
糸井 で、煮物は俺なんだよ。
小林 でも、いきなり、『古事記』って
言われてもさぁ。
一同 (笑)。
小林 国づくりで混ぜてるの見たことないじゃん。
捏ね方なんかわかんないもん、だって(笑)。
糸井 いいじゃないの。
だから、ジャムか豆なんだよ、俺が煮るのは。
難しいことはしてない。
小林 あ、ジャムも作るんですか?
糸井 ジャムはひたすら作ってるよ、ずっと。
小林 やっぱり、乙女じゃないですか。
糸井 まぁ、乙女といえば乙女かな。

(つづきます)


2010-06-30-WED


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN