3 緊張の撮影現場
── 養老孟司さん、美輪明宏さん、木村拓哉さんという
豪華なメンバーに集まってもらって、
撮影当日というのはどういう感じだったんですか。
糸井 やっぱり、妙な緊張感がありましたねぇ。
スタジオジブリの試写室で撮影したんですけど。
とりあえず3人以外は外に出てもらって、
カメラマンは物陰からリモコンで
カメラを操作するような状態で。
── そこまで徹底してたんですね。
糸井 うん。カメラの動く音まで気にして、
全員が黒子みたいになってました。
3人以外は誰もいませんよ、
という状態で撮影をはじめたんです。
いちおう、ぼくは、コンダクターのように、
その前に座らせていただいて。
ときどき、最低限のカンペとかを出したりして。
── 事前に、打ち合わせとかは?
糸井 もちろんきちんとしましたけど、
ぼくが出演者を含むスタッフ全員に
強く言ったことはたったひとつで、
「このCMは、ここまで来たら、
 いっさい失敗はありませんから」
って、それだけ言ったんです。
撮影していて、3人のうちの誰かが
「う〜ん‥‥」ってことばに詰まっちゃっても、
それを素材に活かすことができる。
実際、そういうふうに仕上がってますしね。
だから、撮影のまえは、
「なにをやっても大丈夫ですよ」って、
とにかくみんなに言い続けた。
木村さんなんかもね、
やっぱり緊張しているわけです。
なにせ、相手が相手ですから(笑)。
台本もなにもないわけだし。
彼は、撮影の終わったあとにね、
「よくないところでも使っていいし、
 切るところはバッサリ切っていいです」って
わざわざ言いにきてくれたりして、
覚悟というか、いい緊張感をもって
取り組んでくださいましたね。
で、本番に入って‥‥
どのくらいやってましたかね?
2時間弱くらい、やってたのかな。
── そんなに!
糸井 いろいろしゃべっていただきました。
美輪さんは、木村さんに向かって
「あなた、トトロに似てるわ」なんて言うし、
養老さんは養老さんで
「魔女が、なんで階段を
 のぼんなきゃいけないのかなんて、
 分析なんかできっこない!」
なんて言って笑ってるし、
木村さんも、
「最初、宮崎監督に
 『ハウルは星にぶつかっちゃった
  少年なんです』って言われて
 ぜんぜん意味がわからなかった」
とか言ってるしね(笑)。
まぁ、くわしくは
観てのおたのしみなんですけれど、
とにかくたくさんしゃべっていただいたんで、
CMもバージョンをいっぱいつくったんです。
いっぱいつくって、
全バージョンはとても観られない
っていう状態にしようと思って。
── あの、絶対に、
「全部のバージョンを観たい」っていう‥‥。
糸井 そういう声が出るんですよ。
でもね、どう言ったらいいんですかね、
いまの時代って、
簡単に全部がそろいすぎるというか、
秘密がなさすぎるような気がするんですよ。
まあ、自分もそうなんですけど、
「秘密です、手に入りません」って言われてても、
お願いすれば手に入るんじゃないかって
思いがちなんですよね。
だからまあ、CMを観てくれた人が、
ほかにもいろんなバージョンがあるという
「間」のようなものを想像して
たのしんでくれればいいと思ってるんですけど。
その、事務所の問題もありますし、
まとめてインターネットで観られるというふうには
どうしてもできないんですけれど。
── がんばれば、全部観られたりするんですか。
糸井 でも、地方ごとに流れるものが
決まってたりするしね

いや、でもね、最初に言っておきますけど、
全バージョンを観たからといって、
なにか得するとか、謎が解けるとか、
「ぜんぶ観て私は変わりました!」とか、
そういうものじゃないですから(笑)。
いちおう、DVDの発売日(11月16日)には、
日テレで全バージョンが
ひととおり流れる予定にはなってますが、
でも、まあ、ぜんぶ観るために
がんばるようなものではないっていうか、
たまたま流れているのを観たときに、
「あ、観たことないやつだ」とか、
そんなふうにしてたのしんでください。
どのバージョンも、おもしろいですよ。

(続きます!)
2005-10-05-WED

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