1 宮崎駿と、効かない宣伝
── ジブリアニメの宣伝というのは、
ほかの宣伝プロジェクトとくらべて
大きく違う特徴があるんですか?
糸井 特徴といえるかどうかわかりませんけど、
ジブリの宣伝というのは
いつもあまり戦略的なことをしないんです。
もちろん、戦略はあるんですけれど、
完璧にマーケティングをやるというよりも
ちょっと「無手勝流」なところがある。
さらっと宣伝して最大限の効果を得る、というより、
「汗で見せる!」みたいな。
いわゆる「じょうず」な宣伝ではなくて、
商店街のオヤジが自慢の商品の一覧を
店先に墨文字でどんどん書いていく、というような
プリミティブなやりかたばっかりなんです。
── 「じょうずに宣伝しないという戦略」を
あえて選んでいるわけでもなく?
糸井 でもないんです。
というのはね、宮崎(駿)さんっていう人は、
「宣伝で作品が売れた」って言われるのを
あまりよく思わない人なんですよ。
まあ、作品をつくっている立場としては
当然のことなのかもしれないんですけど。
そういう意味では、宣伝に対して
ちょっと子どもっぽいところがある(笑)。
となると、宣伝をやっている立場からすると、
宮崎さんの作品を宣伝するにあたって、
宮崎さん自身が障害になる、という
ちょっと矛盾した現象がおこるんですよ。
それで、いっつも長引いちゃう(笑)。
会えば、ああいう、
にこやかなおじさんなんですけどね。
ものをつくって送り出すうえで、
根本のところに
「自分じゃないものがほめられるのは、
 自分になにかが足りないと思えてしまう」
というような、
「頑固な子ども」がいるんです。
── じゃあ、映画『ハウルの動く城』のコピー、
「ふたりが暮らした。」も、
そうとうむつかしかったのでは?
糸井 うん。もうね、
なに書いてもダメだっていう状態になるんです。
つまり、効きそうなコピーができると、
自分で書きながら、
「宮崎さん、いやがるだろうな」って思っちゃう。
それで、あえて外すようなものを混ぜてみたり‥‥。
そういう作業を自分でやってからやり取りするので、
どうしても難航するというか、いつも長引きますよね。
『もののけ姫』の「生きろ。」なんて、
いちど不採用になったものが、
最後になって復活したパターンですし。

── ジブリ作品には特有の苦労があるんですね。
糸井 ただ、最近のジブリ作品では、
宣伝のなかでコピーの果たす役割が
変わってきているというのはあります。
っていうのは、昔のジブリ作品のコピーって、
外に対する宣伝でありながらも、
内部に対する旗印でもあったんです。
つまり、映画をつくってるスタッフたちが
「自分たちはこういう映画をつくってるんだ」
っていう目標になる意味で重要だったんです。
たとえば『魔女の宅急便』の、
「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」
っていうのは、映画にかかわっている人たちが、
「ああ、自分たちは、
 そういう映画をつくってるんだな」
っていうことで、
ひとつの方向に向かうことができた。
いまもその役割は担ってますけれど、
昔にくらべて、そこの意味は小さくなってますね。

── 最終的に『ハウルの動く城』のコピーは
「ふたりが暮らした。」になりました。
糸井 そう。ぼくとしては
「恋愛映画の成分」を入れたかったんですね。
それで、ちょっと、布施明の歌みたいにして(笑)。
で、さっき言った話に戻りますけれど、
誤解を恐れずにいえば、これは、
戦略的なコピーではないというか、
いわゆる「効くコピー」ではないんです。
お客さんを集めるという商業的な意味でいえば
「効かないだろう」ともいえる。
そういうようなことも含めて、
映画の『ハウル』は、
宣伝しなかったように見えてるんです。
── 「効かないように宣伝している」
ともいえるわけですか。
それは、しかし、複雑な話ですね。
糸井 たいへんですけど、いまの時代には、
こういう方法があるというのもたしかなんです。
そういう理解がぼくのなかにできているので
またそれが逆に重みになるんですけど。
── なるほど、なるほど。
「これじゃ効かないですよ!」って
怒れたほうが、ラクというか、
立場としてはわかりやすいというか。
糸井 ですから、映画の『ハウル』の宣伝に関しては
「引き過ぎ」の部分もあると思います。
あくまで個人的なレベルで言わせてもらえば、
もっと押してもよかったような気が
いまでもしてます。
── 個人のクリエイティブな部分でいうと、
打席に立ってるのに
フルスイングできない、みたいな
フラストレーションはないんですか?
糸井 うん。その意味では、
今回のDVD発売は、腕まくりしてましたね。
溜めてましたよ(笑)。
だから、『ハウル』のDVD発売については
チームプレイで思い切り力を入れられましたから。
── ええと、宮崎さんは‥‥?
糸井 宮崎さんは、ほら、
もうつぎのことを考えてるから(笑)。
── なるほど(笑)。
それでは、DVDの宣伝について、
具体的にうかがっていきます。

(続きます!)
2005-10-03-MON

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