YAMADA
カンバセイション・ピース。
保坂和志さんの、小説を書くという冒険。

第1回 「そのつど、おもしろい」

糸井 ぼくは保坂さんファンとして
ずっと追っかけているわけじゃないですけど、
保坂さんが『世界を肯定する哲学』を出した時、
ちょっと、びっくりしたんですよ。
保坂 あ、そうですか。
糸井 保坂さんって、
それまで、どちらかと言うと、
「書いたら、ほっとけばいいや」
という人だと思っていたんです。

……そうだった、ですよね?
保坂 いや、ちがうんですよ。

最初にぼくが、
『プレーンソング(※)』を書いた時、
「何この人、ふだんあることを書いて、
 バカじゃない?」
と、バカにされたので……。
  (※講談社刊・90年に群像新人賞受賞のデビュー作)

読み方を自分で宣伝しないと、
評論家とかに任せると、
「バカじゃん」っていうタイプの人か、
そうじゃなければ、その説明が
えらく理屈っぽくなっちゃったりして、
小説がおもしろくなさそうに見えちゃうか、で。

だから、まず、
おもしろいようには書いているんだっていう。
その人たちの現場に、読んでいる人も居あわせて、
たのしいような気持ちに、なってもらいたいのが、
ぼくの小説にある、まず最初の気持ちである、と。

学校の国語の授業で、
「この小説のテーマは、なんですか」
「あなたは、どこに感動しましたか」
みたいなことを、説明させるでしょう?

それをやられちゃうと、ぼくの小説を
読んだことには、ならなくなっちゃうんで。

最初のころ、とにかく、
「小説っていうのは、
 読む時間の中にあるもんなんだ」

ということを、自分の宣伝をしながら
自分で考えていったことが、あるんです。

はじめは自分でも、
「自分で書いていて、
 これはおもしろいとは思うんだけど、
 このおもしろさは、
 いったいどこにあるんだろう?」
と思いながら、書いていたんですよね。

糸井 もともと保坂さんは、ほんとは
いっぱい読んでいる人ですよね。
保坂 そんなに、読んでないですよ。
本を読むようになったのは中3か高1ぐらいで、
それまで、本って読まなかった……。
その後も、自分自身は、実はあんまり
たのしみとして趣味として本を読むっていうことは、
あんまり、ないんですよ。

ぼくにとって、たのしみっていうのは、
競馬やったり、将棋やったり、
外で草野球やったり、それがたのしみなんです。
うちで音楽をかけていたり。

だから、本とか映画とかから
たのしみをもらう必要はないんですよね。
糸井 ……この話、どんなに
迂回しようが、行きましょう(笑)。
「書いてるくせに」っていうオチが、
ちゃんと、用意されているからさぁ。
保坂 読むけど、たとえば、
「このところ何を読んだ?」
って言われると、思い当たらないですね。
自分ではほんとに小説を読まないから。

でも、たまに読むと、
たのしみもあって、読むんですけど。
途中で読みやめちゃうものが、かなりある。

300ページの本を
250ページぐらいまで読んでいても、
「せっかくだから最後まで読もう」
とは、ぼくは思わないんです。

つまんないな、だらけてきたなと思うと、
その場で、やめちゃうんです。

ぼく自身の小説が、
そうされないように考えているというか、
「ちょっとでも
 おかしくなると、人は読みやめるもんだ」
と思っているんですよ。

作る方は、ストーリーがきちんとできてると、
そのストーリーに頼っちゃうところがあるから、
一部分でヘンなことを書いたり、だらけたりしても、
「ストーリーが引っぱってくれる」
と思いがちなんですけど、ぼくは、
「ストーリー」じゃなくて、小島信夫さん曰く、
「そのつどそのつどおもしろい」
というか、ずーっと何だかおもしろいっていう
書き方が、いちばん、いいんじゃないかと。
糸井 人といる時と同じですよね、つまり。
保坂 そうです。
糸井 この先に、何が待っていようが、
この時間がおもしろくなければダメだと。
保坂 ええ。
糸井 だいたい、保坂さんが
「小説を書こう」
っていう気になるのが不思議なんだけど。

ぼくは、保坂さんが作家になる前の、
メシをくうための仕事をしている時に、
仕事人として、会っているんだけど、
あれは、ややこしい商売でしたよね……。

保坂さんは、
カルチャーセンターの仕事をやっていた。
つまり、おもしろいと思う人を
キャスティングして、おもしろいことをさせて、
お客さんを飽きさせないで、
次はどんな企画で行こうかなと編んでいて。

それこそ、「生きものの編集者」でしょう。

あれ、企画そのものも、
保坂さんの作ったのが、ほとんどでしたよね?
保坂 ええ。
糸井 あの仕事をやっていた保坂さんだと思うと、
今の話って、ちょっと、わかるんだよね。

ドラマは要らないし、
ストーリーは必要ないけど、来た人が帰る時、
「おもしろかった」と言ってもらいたいという。

さっきの、
「そのつどそのつど、おもしろかった」
という話と、つながるじゃないですか。
保坂 ええ。
(つづきます)  

2003-06-06-FRI

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