挿絵の 地図の 絵本の雑誌の ロゴの 写真の宣伝の 先輩の お家のパリの 東京の 旅人の   堀内さん。──デザインを旅したひと。──
パリの堀内さん。

▲「シャイヨー宮からエッフェル塔をのぞむ」と記された、堀内さんのイラスト。
ほかにも「相当キッチュでゲルマン的な彫刻です。」
「日航ホテルなど新しいビルが林立しています」などの添え書きが。

▲L’Arc de triomphe du Carrousel(カルーゼル凱旋門)。

▲ポンピドーセンターと広場。

パリ──。

堀内さんが描くパリは、
ときに息をのむほどうつくしく、
あるときは明るく、あるときは哀しげで、
またあるときは可笑しく愉快です。


▲モンマルトルの丘からの景色。

▲「シャンゼリゼの人形小屋はこのくらいの大きさ」

生れがパリでもないのになつかしいもないが、
僕の場合、原因がハッキリしていて、
それはルネ・クレールの映画「巴里の空の下」を
少年期の終りに見たからで、
家族からの自立‥‥自分の稼ぎで住んだり飲んだりすること、
友情、異性、裏切り、けんか、義侠心とあきらめ‥‥
そうした青春のすべてが描かれているのがパリの裏町でした。
(『パリからの旅』より)

堀内さんは、いわゆる「名所」も、
ファッションやアートなんて関係ないよ!
とでも言いそうな、
ふつうに暮らす人々が行き交う街角も、
生き生きと、さまざまなタッチで描きました。


▲パリのカフェの様子。

▲街角のシーフードレストラン。

▲「エルメスと間違えちゃいけません。馬肉屋です。」

堀内さんがパリに住んだのは、
1974年から81年まで。

『アンアン』のアートディレクションから手をひいて、
1973年、堀内さんは単身パリに旅立ちます。
多忙な日々から離れ、「まずは2か月くらいの休暇」と。

ヨーロッパ中を心残りないように再見して廻りたいのと、
片手間だった絵本の仕事に専念したいと思うのと…
(『父の時代・私の時代』より)

翌1974年、長期滞在を決めてパリに向かう堀内さんは、
和文タイプライターをたずさえていました。
パリで発行される、
日本人向けのミニコミ誌編集部に向けて
託されたものでした。

これが縁で、
堀内さんはこのミニコミ誌『いりふね・でふね』の
アートディレクションをすることになります。


▲『いりふね・でふね』ベルヴィル特集の表紙。

堀内さんが描いたベルヴィル。
このごちゃごちゃもまた、「パリ」なんですね。
しかしこの同じ場所を、堀内さんはこんなふうにも
描いているんです。


▲「白いちびの馬(ベルヴィルの丘)」。1978年『誌とメルヘン』68号に掲載。

美しいもの、汚いもの、悪趣味なものことごとくが、
間をおいて大きなうねりのように迫ってくる街というのは、
やはりパリの最大の魅力かもしれません。
(『ここに住みたい』より)

堀内さんは、パリを流れるセーヌ川や、
モンマルトルやベルヴィルといったパリの下町に
自分が育った隅田川沿いの大川端をかさね、
初めてなのになつかしい、と感じたそうです。

最初はひとりで、そして次女の紅子(もみこ)さんが、
さらに奥様、そして長女の花子さんが合流。
堀内さんは一家そろってパリ郊外のアントニーの
集合住宅に居を構えました。

そんなパリの風景や暮しのようす、
パリを拠点にした出かけた旅のことなどを、
堀内さんは日本の親しい人たちに宛てて
「アエログラム(航空書簡)」にしたためました。
宛先には、詩人の岸田衿子さん、谷川俊太郎さん、
画家の瀬川康男さん、山脇百合子さん、
作家の瀬田貞二さん、澁澤龍彦さん、
石井桃子さん、出口裕弘さん、
そのほか、親交のあった編集者や出版人たち。

外国にいると筆無精でも絵ハガキくらい出しますが、
私が手紙魔と化したのはこのアエログラムにも
原因があるのです。
先ずハガキの切手代より安い。
そしてこれは三ツ折りで、拡げるとスペースが相当あります。
連絡事項だけだと紙が余ってしまう。
もったいないので空いたところには絵を描くことにしました。
(『パリからの手紙』より)

水色の三つ折りを開けばあらわれる、
パリからの贈りもの。
だれもが「とっておきたい」と思ったこの手紙は、
のちに『パリからの手紙』という
1冊の本になります。


▲『パリからの手紙』

▲1974年3月13日、瀬田貞二さん宛の手紙。
「パリ奇人集です」として、出会った面白い人たちのことが描かれています。

▲1974年5月23日、おなじく瀬田貞二さん宛の手紙。
紅子さんを連れてパリに来てのようすが。

 

今回のこのコンテンツの準備で、
花子さんと紅子さんには、
当時のいろいろなお話をうかがっていますが、
それはまた、あらためてご紹介する予定です。
(いろいろ、たいへんだったみたい!)

今回はこのへんで。次回は今回の続きで
「旅の堀内さん。」です。
パリ滞在時代に、堀内さんは家族と、また友人たちと、
いろいろなところへ旅をしています。
パリは、堀内さんにとって
旅の出発地でもあったのです。


協力 堀内路子 堀内花子 堀内紅子
取材 ほぼ日刊イトイ新聞+武田景
2016-12-07-WED
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN