堀江貴文さんの、 まじめなおせっかい。  「もっとこうすればいいのに、と思うんです」
堀江貴文さんと糸井重里の対談です。 2013年11月に出版された堀江さんの本、 『ゼロ』について触れながら ふたりの会話は終始なごやかに、かろやかにすすみました。 ライブドアのこと、近鉄バファローズ買収のこと、 ヒッチハイクの経験談(!)などをうかがううちに、 「どうやら堀江さんはおせっかい」 という傾向を糸井が見つけます。 その「おせっかい」は、とてもまじめで、本気で‥‥。 「CAKES」さんとの共同企画で実現した対談。 どうぞ、おたのしみください。
第5回 堀江さんの、まじめなおせっかい。
糸井 『ゼロ』という本を読んで
具体的にいちばん役に立ったのは、
ヒッチハイクの話だったんですよ。
堀江 あ、ぼくが大学時代にヒッチハイクをやっていた話。
糸井 日本中に行ったんですよね。
堀江 北海道をのぞくほとんどの都道府県に行きました。
糸井 あの話に、ぜんぶが入ってると思ったんです。
つまり、世の中って
「やってみないとわからないこと」
だらけじゃないですか。
刑務所なんかはその典型でしょうし。
堀江 そうですね。
刑務所には、
なにも考えないようにして入っていきました。
ゼロベースで入るしかないです。
糸井 だからそれも、ヒッチハイクですよね。
「乗ってから」でしょう。
堀江 ああー、はい。そうです。
糸井 「ああして、こうして」って、
あらかじめ筋書きを立てて、
「運転手さんにこの話をしよう」とか考えてたら、
きっとダメですよね。
相手がどんな出方でやってきても、
即興で返せるようにならないと。
堀江 はい。
覚悟してコミュニケーションすれば、
ちゃんと伝わるということがわかりました。
糸井 あのヒッチハイクの話は、ほんとによかった。
なんかね、
「若者は海外に行くべき」という話があるけど、
海外は日本にありますよね?
堀江 ありますね。
糸井 トラックの運転手さんとのやりとりなんて
海外のエピソードそのものですよ。
堀江 ただ、ヒッチハイク=トラックかというと、
意外とそういうことでもないんです。
糸井 乗用車の場合もあった?
堀江 いちばん多いのは社用車ですね、
出張で名古屋や大阪に行くような
営業マンが乗ってる車です。
トラックって、
とくに大手の運送会社のは、ほぼNGなんです。
会社の内規で決まってるみたいで。
糸井 そうか、そうか。
堀江 トラックでやるんだったら、中小。
乗せてくれる会社はだいたいわかってきます。
糸井 ああー。
堀江さんには、まず「観察」がありますよね。
その観察がしっかりできているから、
類型化だったり法則性みたいな話が出てくる。
堀江 まさにそれ、最近の講演会で話してることなんです。
みんな、どこかで
「堀江は特別な情報源を持ってるんじゃないか」
と思ってるんですね。
それこそインサイダー情報的なものを入手して、
あれこれうまいことやってるんじゃないかと。
糸井 印象として。
堀江 でも、ぼくの情報源は基本スマートフォンなんです。
ツイッターとかフェイスブックなどの
ソーシャルメディアや、ニュースアプリ。
あとは有料メルマガ。
それ以外の情報源は、
やっぱり人に会って話をすることなんですよ。
糸井 出かけて、人に会う。
堀江 はい。
できるだけ自分と関係なさそうなところに
行こうと思ってるんです。
ベンチャー経営者の人たちが
勉強会とか懇親会と称してよく集まってますが、
そこにいる人たちって
やってることも考えてることもすごく似てて、
有用な情報がほとんど得られないんですよ。
糸井 はい、はい。
堀江 そういう場所に行くよりは、
地方のイベントに行ったり、
それこそ合コンに行くほうが、
おもしろい情報がとれるんですよね。
宝の山が隠れているというか。
たとえばLINEにしても、
あれって2011年の6月にスタートしたんですけど、
ぼくは8月にはもうキャッチしていたんです。
刑務所に面会にきた女の子から
「LINEのID教えて」っていわれて、
「えっ、LINEってなんだよ」みたいな感じで。
糸井 刑務所の中では使えませんよね?
堀江 使えないです。
でも世間の人より早く知ることができたんです。
だから、ノイズ的な情報の中にこそ、
じつは原石が眠っているというか。
どこに行けばおもしろい情報が得られるか、
みたいなことはいつも考えていますね。
糸井 なるほどぉ。
お話をうかがってると、あれですね、
料理人が市場(いちば)に行って
食材を見ているような感覚ですよね。
「あれは使える、これも使える」みたいな。
堀江さんは
そういうゲームをずっとやってきたんですね。
どういう車がヒッチハイクで乗せてくれるか、
というのもそうだし。
LINEの話にしても、早く知っても遅く知っても、
どっちだっていいじゃないですか。
堀江 え‥‥そうですかね?
糸井 うん(笑)。
生活者としては、
知らなくても生きていけることだもの。
でも堀江さんは新しい素材がほしいんだし、
なにかを素材を見つけたら
「料理したい!」と思っちゃうんですよね。
テレビ局を買収するとかいう話でも、
さっきのマンガ編集者の佐渡島さんの話でも、
堀江さんは
「もったいない」って思う人なんですよ。
本人たちは満足してるのに(笑)。
素材を見ると、料理したくなっちゃうんですよ。
堀江 ああー、そうなのかなぁ。
糸井 それをやってたら、波風は立つよね。
堀江 うーん。
糸井 だって、いまのところ安定していて、
それなりに楽しそうにしてる人のところに行って
「もったいないじゃん!」
ってけしかけるわけでしょ?
堀江 ‥‥しかも、かなりしつこくいいます。
糸井 それはね、波風が立つ(笑)。
堀江 立ちますね。
糸井 あー、よかった。
きょう、堀江さんのことがよくわかった気がします。
たとえば、温泉に入ってるときにさ、
胸まで浸かって気持ちよくなってる人の肩をつかんで
「もっと浸かると、もっと気持ちいいんだよ」って、
押し沈めてるようなもんでしょ(笑)。
ずっと同じだもん、そこのおせっかいは。
堀江 ぼく、沈めますね(笑)。
糸井 そりゃ、反発されることもありますよ(笑)。
堀江 いろんなことに対して、
「もっとこうすればいいのに」と思うんです。
だからテレビ局も「もったいない」だったんですよ。
余計なお世話だったのかもしれないけど。

※2005年、ライブドアがニッポン放送の株を35%取得。
 同社最大株主となる。株取得が報道された直後から
 当時ニッポン放送の子会社だったフジテレビジョンを
 出入り禁止になる。
 このとき「想定の範囲内」という言葉が報道され流行語に。
 その後、ライブドアとフジテレビジョンの和解が成立。

糸井 余計なお世話のおかげでみんなが喜ぶこともあれば、
余計なお世話のおかげで
退場しなきゃなんない人もいますよね。
堀江 そうですね。
糸井 どんなにまじめなおせっかいでも、
「あいつのせいで損しちゃった」という人間は、
かならず出るわけです。
堀江 ええ。
糸井 その人たちがちょっと幸せになってくれると、
また社会全体がいいですよね、きっと。
難しいことですけど‥‥
長い時間をかけて上手になっていくんでしょうね。
それができたら、またおもしろいと思うんですよ。
(つづきます)
2014-01-29-WED
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