あのひとの本棚。
     
第31回 MIKA POSAさんの本棚。
   
  テーマ 「子どもたちのことが好きだから、の5冊」  
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子どもの写真を撮ることが多い私は、よく言われるんです。
「ちっちゃい子を撮るのは大変でしょう?」って。
でも、そんなふうに思ったことは一度もありません。
真っすぐにぶつかってきてくれる相手だから、
いっしょにいてほんとに気持ちがいいんですよ。
私も子どもなので、同等な存在なんでしょうね(笑)。
「子どもたちといっしょにいることがたのしい」
そんな自分の気持ちに素直になって、5冊を選びました。
   
 
 

『石井桃子集5』
石井桃子

 

『さくらんぼのしっぽ』
村松 マリ・エマニュエル

 

『なつのゆきだるま』
ジーン・ジオン

 

『クローディアの秘密』
E.L.カニグズバーグ

 

『あなたの子どもは、あなたの子どもではない』
宮下孝美
宮下智美

 
           
 
   
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デンマークで子育てをした、
日本人のご夫婦が書かれたエッセイです。
タイトルがちょっとショッキングですよね。
私も最初にみたときはびっくりしました。

デンマークでは、出産した人に
育児パンフレットが渡されるんですが、
そのタイトルがこの、
「あなたの子どもは、あなたの子どもではない」
なんだそうです。
要するに、子どもにも人格があるんだから、
ちゃんと意志を尊重してあげなさい、
子どもは親の所有物ではないですよっていう意味ですね。



ヨーロッパで写真を撮っていると、
そういう子育ての感覚を感じることがあるんですよ。
たとえばパリで普通に町を歩いている子どもに
声をかけたりするんですけど、
日本だったらお母さんかお父さんが、撮影していいかどうか
「あ、いいですよ」「ごめんなさい」って決めますよね。
ヨーロッパでは、必ず本人が決めるんです。
子どもが、自分の意志で。
お母さんに聞いても、
「それは本人に聞いてくれ」と言われます。
「この子がいいって言うなら、いいわよ」って。
2才とか3才の子でもそうなんです。
そうやって子どもの意志を尊重している場面に触れると、
やっぱりいいなあって思うんですよね。
そんなふうに、自分で考えて意見をはっきり言うことを
身につけながら成長していくので、
ヨーロッパの人たちは
思考回路がたくましいように感じます。

著者のご夫婦はデンマークに渡って、
向こうで結婚をして、4人の子どもを育てているんです。
そういう生活を送ったおふたりが、
医療、福祉、教育、環境保護など、
日本とデンマークの様々な違いを記している本‥‥
なんですけれど、正直なことを言うと、
私は自分が興味のあるところしか
力を入れて読まなかったんです。
子育てとか、子どもに対する大人たちの接し方とか。
どうしても気になるところばっかり読んじゃって(笑)。
でも、とても参考になりました。
子どもがひとりで考える機会を、
ちゃんと守ってあげている国がある。
それを知ることができて、うれしかったです。

海外に行ったり、
こうして異国のことが書かれた本を読むと、
新しい視点がうまれるのがたのしいですよね。
子どもたちが自分の意志をちゃんと出せるっていうのは、
ほんとうにすばらしいことだと思いました。

   
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これは、児童書ですね。
子どもらしい一生懸命さと、
かわいらしさが、いっぱいに詰まった物語です。

主人公はクローディアっていう女の子です。
たしか10才くらいの、まだちいさな女の子。
この子が、もう家にいるのが嫌だと。
家出をしようと決意するんです。
でも、彼女は不快なことが嫌いなんですよ。
勢いだけで家出をして、
路頭に迷うのなんて、ぜったいに嫌。
だからまず彼女は、「広くて心地よい場所」ということで、
ニューヨークの「メトロポリタン美術館」を
家出先に決めるんですよ(笑)。

その家出のために、
クローディアはすごく綿密な計画を立てるんです。
ひとりだと心細いから、
いっしょに弟も家出に誘います。
何人かいるきょうだいの中から、
聞き分けがよくて貯金のある弟を選んで(笑)。
計画的でしょ?
綿密なんです。
でも、いやな感じじゃないんですよ?
とても子どもらしい計画なんです。
クローディアは自分でもおやつをがまんして、
ちゃんと家出のためのお金をためているし。

で、バイオリンの練習がある日、
楽器ケースの中に家出用の荷物をつめて、
なにげない顔で家を抜け出し、
計画通り「メトロポリタン美術館」に忍び込むんです。
でも、夜になると、
お風呂に入りたくなっちゃったりして(笑)。
子どもらしいですよね。
思いがけない美術品との出会いがあったり、
クローディアと弟は、そこでいろいろな体験をするんです。
「これから、いったいどうなるんだろう?」って、
もう、ぐいぐい引き込まれるおもしろさなんですよ、
最後の最後まで。



実は私、初めて行った外国がニューヨークだったんですよ。
だからニューヨークにも思い入れがあるんです。
「メトロポリタン美術館」にも行ったことがあるので、
すごく絵が浮かぶんですね。
あんなところで、もしもこんなことが本当にあったら、
それはすっごくたのしそうだなあ‥‥って。

この本をはじめて読んだのは、
たしか10代の後半だったと思います。
もう、そんなに子どもじゃないですよね。
でも、とてもたのしく読めました。
児童書っていうのは、
けっこうあなどれないものがあるんです。
大人でもハッとさせられるストーリーに、
ときどき出くわしたりするんですよねぇ。

   
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絵本はもう、ほんとに好きで。
やっぱりこう、お母さんが
子どもに読んであげるものじゃないですか。
その感じが好きなんです。
数あるすてきな絵本のなかから、
どれをご紹介しようか迷ったんですが、これにしました。
「家族」っていうことを考えると、
これはやっぱりいいなあと思って。

ある兄弟が登場するんですけど、
その弟はいつもお兄ちゃんにこう、
なんていうんだろう、いじめられてるんじゃなくて、
やりこめられてるんですね、なにかと。
弟はいつかお兄ちゃんに
ぎゃふんといわせたいと思ってるんです。
そんな冬のある日、弟がゆきだるまを隠しちゃうんですよ。
隠すといっても冷蔵庫に入れておくだけなんですけどね。
それで、お兄ちゃんは「どこにあるの?」ってなる。
でもお母さんは「しらないわ」って。
弟がお母さんに「秘密にして」と、お願いをしてるんです。
お母さんはちゃんと、秘密を守ってあげる。
やっぱりお母さん、
子どもたちの様子をいつも見てるんですね。
弟の立場を考えて、自立心だったり
自信をつけてあげようとしてるんだろうなあ、と。
私はそんなふうに感じました。

これから読む人のために、
これ以上ストーリーを話すのはやめておきますね。
ほのぼのとした短いお話の中に、
親子や兄弟の気持ちのつながりのことが
こんなに優しく詰まっているなんて、
すごい絵本だと思います。



私がこの絵本を読んだのは、おとなになってからなんです。
ジオンさんとグレアムさんの有名な絵本で、
『どろんこハリー』っていうのがあるんですね。
このおふたりの他の作品をしらなくて、
本屋さんで「あ、こんなのもある」って見つけたんです。
そしたらやっぱりおもしろくて、かわいくて、
色合いもすごく優しくて大好きな一冊になりました。
年齢に関係なく、
「ぜひどうぞ」とおすすめしたい絵本です。

   
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日本人の男性と結婚して日本に住んでいる、
フランス人の女性が書いた本です。
なにげないパリでの日常生活を紹介しながら、
お菓子のレシピがイラストつきで載っていて‥‥。

はじめて読んだのは学生のころです。
たしかまだ、パリに行ったことがないころ。
フランスという国に興味を持ち始めたそのころは、
知りたくてしょうがないのに
身の回りに情報があまりなかったんです。
それで、本屋さんにいってみつけたのがこの本でした。
もう、夢中になって読みました。
フランスではこんなふうに家族で過ごしてるんだあ、
すごい楽しそうだなあって、
あこがれて、何度も何度も読んだ本なんです。



じつはこの本には、
ちょっとびっくりなエピソードがあるんです。
はじめて読んでから10年くらいの時が経ちまして、
あるとき友だちがハーフの女の子を紹介してくれたんです。
会って話をしてみたら、そのハーフの子は、
私の本、『パリのちいさなバレリーナ』
持っているって言ってくれたんですね。
すごくうれしくて盛り上がって、その子が、
「じゃあ今度うちに遊びにきてよ」って。
それで、遊びに行ったら、
その子の家に、『さくらんぼのしっぽ』があったんですよ。
「あ、私この本持ってる」っていったら。
「え? これ私のお母さんが書いた本だよ」って。
もう、びっくりしちゃって。
この本にはアメリちゃんとトマくんっていう
ふたりの子どもが出てくるんですけど、
まさしくその子がアメリちゃんだったんですよ。
すごく昔から知ってるみたいな気分になっちゃって、
いまでもとても仲良しなんです。
お母さんにもお会いしたときは、
この本に出てくるリンゴのケーキを作ってくれて、
ああー、本物だー! みたいな(笑)。

すみません、自分の思い出ばっかり話して。
本の内容に戻りますね。
フランスが好きな人もそうですけど、
料理に興味がある人は機会があったら読んでほしいです。
レシピだけじゃなくて、
親と子どもがみんなでいっしょに行事を楽しむとか、
いろんな要素があって料理がおいしくなることが
伝わってくる本だと思います。
しかもこの優しい色合いで、お話も楽しいんですよ。
田舎のおばあさんの話とかも出てきて。
パリだけじゃなくてフランスのいろんな地方の、
たとえばアルザスというドイツ寄りの地域では
こういうお菓子をとか。
そういうお話も、とてもたのしいんです。

   
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「5冊の本を選んでください」というお話をいただいて、
これは紹介したい、と最初に決めたのが、
石井桃子さんの『子どもの図書館』という本だったんです。
でも、私が持っているこれはもう絶版なのだそうで。



それで、同じ内容が入っている
『石井桃子集5』をご紹介することにしました。

石井桃子さんは100歳で亡くなられたのですが、
もう、ずーっとその、子どもたちの読書のために、
家庭文庫をなさってたかたなんです。
1950年代に欧米の図書館を実際に見て、
日本が遅れていると思った石井さんは、
自宅を開放して図書室にするんですよ。
いまでこそ「家庭図書館」はたくさんあるけど、
その先駆けを日本でされたかたですよね。
家庭図書館を開いていた7年間の記録と、
子どもになぜ絵本が必要なのかっていうことが、
この本には書かれています。

これを読んだのは学生のころで‥‥。
じつは私、児童学科みたいなところにいたんですよ。
でも保母さんになりたいわけじゃなかったんです。
絵本が好きなだけ読めるし、
調理実習でオムライスとかプリンを食べられる。
そういうのが楽しそうで入った学科なんです。
しょうがない学生ですよね(笑)。
で、保母さんにならないなら
何になるつもりだったかというと‥‥
作家になりたいと思っていたことがあるんです。
もともとちいさいころからの夢が、
自分の本が置いてある本屋さんになることだったんですね。
絵本が好きすぎて、
とにかく絵本がいっぱいある環境がほしかったんです。
そこに自分の本もあったらいいだろうなあ、と。
でも、いざ書いてみると長いものが書けなくて、
これはちょっと自分に向いてないかも‥‥と思ったころに、
フォトグラファーという職業に出会いました。
さらに今回はエッセイを書き上げて、
ちょっとだけ自信がついてきたので、
作家の夢も引き続きあたためておこうと思います(笑)。

石井桃子さんも、童話を書いたり翻訳をされて、
自分の本を出されているかたなんです。
おかげさまで私も、自分の本を出せるようになったので、
ちょっと考えたりしているんです。
石井桃子さんの遺志を引き継ぐようなことが
できたらいいなあ、と。
本屋さんとか図書館をすぐにつくるのは難しいけど、
それに近いことを計画したりしています。
すこしずつ、
子どものころの夢に近づいているのかもしれませんね。

 

パリと東京を拠点に世界中を旅し、
子どもたちの日常の撮影から、
ファッションブランドのカタログ写真、
コーネリアス、ハナレグミのPV監督まで手がけている
写真家のMIKA POSA(ミカポサ)さん。
「ほぼ日」では「ユラールのTシャツ」の予告編や、
永久紙ぶくろ「OHTO」のCMソング使い方レシピ。
「パリのちいさなバレリーナ」のコンテンツでも、
すてきな写真を見せてくださいました。

そんなMIKA POSAさんから、
いくつかのおしらせがあります。

まずは最新刊のご案内から。
MIKA POSAさんが、初のエッセイを出版されました。




MIKA POSA
同友館/1680円(税込)

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写真家のMIKA POSAさんが、エッセイを?
しかもこの本を出された「同友館」さんは、
主にビジネス書を刊行している出版社なのだそうです。
どんな内容の本なのでしょう?
MIKA POSAさんにお話していただきました。

「なぜ私がフォトグラファーになったか、
 そのきっかけを紹介している本なんです。
 もともとは私、大手の金融機関にいたんですね。
 それが、ある朝、普通に出社したら破綻してたんですよ、
 なんの前触れもなく。
 この先どうしよう? って考えますよね。
 私はA型なのでけっこう手堅いほうなんですけど、
 そのときはどういうわけか、
 これを機会に今までとはちがうこと、
 クリエイティブなことができるかもって思ったんです。
 で、旅先で撮りためていた写真を持って、
 紹介していただいた出版社の方に会いに行きました。
 だめでもともと、という気持ちでお会いして、
 パリの風景などの写真をお見せしました。
 そしたら編集の方が、
 2枚くらい混ざっていた子どもの写真を手にとって
 『こういう写真、もっとないの?』と。
 私はべつにそういうテーマで撮ってなかったので、
 『ないと思いますけど、一応さがしてみます』
 そう言って帰ってきました。
 ところが家に帰ってみたら、100枚くらいあるんですよ、
 パリの子どもたちの写真が。
 自然と無意識に撮ってたんですね。
 出版社の方に再度みていただいて、
 『これだけあるなら本になるじゃない』となり、
 あれよあれよという間に出版が決まりました。

 本が出たときに思ったのは、
 こんな私の作品で本を出してもらったんだから
 もっと頑張らなきゃいけない、ということでした。
 でも、さてどうしたものかと。
 そこから、悩みがはじまるわけです。
 私には、写真家としての土台がない‥‥。
 悩んでいるうちに、
 本を見てくださった方からお仕事がきて、
 どんどんつながってはいくんですけど‥‥。
 いいのかな? これでいいのかな?
 と悩みながら仕事に取り組む日々が続きました。

 この本には、その悩みをどうやって乗り越えたかとか、
 そういうことが書かれています。
 文章を書くのは好きなんですけど、
 自分のことを書くのはなかなか難しくて‥‥。
 いたらない部分もあるかと思うのですが、
 これからクリエイターになりたい人、
 とにかく何か新しいことをやりたいと思ってる人に
 読んでもらいたいです。
 『こんな人でも、こんなことができるようになるんだ。
  じゃあ私にだってできるかも』
 そう思う、きっかけになったらいいなあと思っています」

続いて、3月に出版されたフォトエッセイと、
その本に連動して開催される写真展のご案内です。
こちらもMIKA POSAさんから解説をいただきましょう。


MIKA POSA
東京キララ社/1575円(税込)

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「この本は、3月に出たばかりのフォトエッセイです。
 パリの子どもの1年間を、
 タイトル通り、はるなつあきふゆと、
 追いかけてつくった一冊になりました。
 春は公園、夏はバカンス、秋においしいお菓子を作って、
 冬はたのしいクリスマス、といった具合で。
 すごくたのしい撮影でした。

 それで、この本からピックアップした写真を中心に、
 6月8日から6月30日まで、
 ちょっと長めの期間で
 写真展を開催することになりました。
 気持ちのいい空間で、
 パリの子どもたちの気持ちのいい笑顔を
 楽しんでいただけるとうれしいです」

MIKA POSAさん、ありがとうございました。
写真展の詳細は下記に。
JR新宿駅西口から約3分、とっても目立つビル、
コクーンタワーの1階で開催されます。



2009年6月8日(月)~6月30日(火)

【会場】
ブルースクエアカフェ

東京モード学園コクーンタワー1階
「ブックファースト新宿店」カフェ&ギャラリースペース

【TEL】
03-5339-7613

【営業時間】
平日 8:00~22:00
土・日・祝 10:00~22:00
入場無料・会期中無休

MIKA POSAさんのHPはこちら。
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2009-06-10-WED

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