SHIRASU
こころの師匠。
勝手に白洲正子。
白洲正子さんを「こころの師匠」と考えている人がいた。
彼女を『してあげる側』の人ととらえて、
そこに、こころの弟子入りをしたという。

それはおもしろい、とぼくは思った。
白洲正子という人についても、もちろん、
ぼくは詳しくないけれど、
もともとその「居方」にはとても興味があった。
女性誌的に遠くに仰いで憧れているだけでは、
たしかにもったいないような気がする。

白洲正子という、
キューレイターのようでもあり、
プロデューサーのようでもあり、
いま流行の「目利き」でもあるような女性を、
こんなふうにとらえて、
自分なりの「白洲正子な方法」を目指すのって、
なんかいいよなぁ、と思って、連載を依頼しました。

<次の時代の白洲さん>

もしも、野望である
財団法人『白洲正子s』が設立できたら、
どんな方を応援しようか。
こんな皮算用な話しを以前、
『白洲正子s』の片方としたことがあります。

好きなことには誰もが一生懸命になれることと同様に
人間的に好きな人でなければ、
心底、応援することは難しいものです。
ですから、私たちは
「自分たちが好きで、応援したいと思う方を応援する」
といった、きわめてシンプルな答えを出しました。

好きか、嫌いかで判断するということは、
もともと自分の感情という色のついた紙に
絵の具を塗り重ねるようなもので、
最初に置いた紙の色の影響を
ずいぶんと受ける心配も持ち合わせているわけです。

「私は、美術品が夢にもわかるとは思っていないが、
自分が好きなものだけははっきりしている。
それを知るために、何十年もかかったといっていい。」

ですが、こうおっしゃっておいでの白洲さんは、
対象の持つ淡い微妙な色合いにさえも
敏感に反応なさいました。
おそらく、骨董であろうが、人であろうが
まず、ご自分の気持ちをフラットに、真っ白になさってから
対象に向き合われたので、
感情に左右されることがなかったのだろう、と思います。
ですから、ここに出てくる「好き」という感情にさえも
どこか俯瞰で見ていらっしゃるような
そのようなものを感じます。

親しくなさった方々は、
「夢中になれる人間を求めてらした」とか、
常に前へ前への好奇心の固まりでらした
と、白洲さんのことをお話しなさっています。

そして、白洲さんご自身も
「一度じっとしてしまう時、
たとえそれがどんなに幸福な世界であろうと、
それはもはや幸福な処ではありません。
何故ならば人はどんな場合にも止るという事は
実際においてはゆるされていないのですから。」
と、おっしゃっています。

白洲さんは、
応援しているから、という理由に甘えて
境界線を越えてズカズカ相手の気持ちに踏み込まれることや
ご自分の虚栄心を満足させたり
見返りを求められることはありませんでした。
応援サイドにいるものとして、体得すべきところです。

きっと、白洲さんは夢中になれる人やものの本質を
「ああ、おもしろかった」と吸収された時点で
その都度、完結なさってらしたので、固執なさることも
他の目的をつくる必要もなかったのでしょう。
そして、完結なさると「韋駄天お正」のお名前のごとく、
即刻、興味を次へ移されたのではないでしょうか。

風のように瞬刻に、
吸収、完結を繰り返された白洲さんが
次の時代に、もしも生きていらしたら、
かつてなさってらした銀座の染色工芸店
「こうげい」のその先にあるような、
白洲さんのお目にかなった人やものを
何らかの方法で私たちに教えて下さる。
そういったことをなさったのではないかと、想像致します。

「たいせつなのは、
ほんとうにうつくしいものを
見つけて知ることね」

そうおっしゃる白洲さんが、
どのようなものを選ばれるか、
どんな方を応援されるか、
リアルタイムでぜひ教えて頂きたい。
次の時代の白洲さん像には、
こんな私の希望も盛り込まれております。

ところで、突然ですが、今回を
ひとまず最終回とさせて頂くことに致しました。
こうすることが今の時点で最良な方法と思いましたことを
ご理解頂けましたら、と思います。

みなさんがオリジナルな考えをメールして下さったことや
「ほぼ日」でなければ、
絶対伝わらないことをお話しさせて頂けたことに、
本当に感謝しております。

読んで下さったすべてのみなさま、
本当に、本当に、どうもありがとうございました。

それでは、ここで、おしまい、と致します。

ひとつさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「ひとつさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2000-10-08-SUN

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2000-05-04  心の師匠
2000-05-11  私が私である覚悟
2000-05-30  すごいことは、すごい
2000-06-17  10年後の特殊能力
2000-07-20  遠い将来の野望
2000-07-26  心から心にものを思はせて
2000-08-09  若い人を育てなさい
2000-09-08  ほんとうの掘だし物とは