第1回 おもしろいなぁ、この人。
糸井 おもしろそうなこと、やってましたね。
平野 あはははは、はい(笑)。
糸井 ああいうのって、やってる本人たちが
いちばん楽しいんですよね。
平野 はい、そうです(笑)。

平野友康さんたちがやっていたこと。

1 坂本龍一さんから
  元マイクロソフト会長の古川享さんへ
  自身の米ツアーのUstream中継を依頼。
2 古川享さん、了承。
3 ツイッター上で
  それを知ったデジタルステージの平野友康さん、
  横から「手伝いたい!」とツイート。
4 古川さん、「いらっしゃい!」とツイート。
5 平野さん、
  「まじでアリなら予定全キャンで行きます!」
  とツイート、
  飛行機のチケット手配にかかるも難航。
6 ようやく空席を確認、チケット購入に成功。
  数時間後、
  荷造りのようすなどを生中継しながら渡米。
7 その後、2010年秋のアメリカ4公演と
  2011年1月の韓国公演をUstream中継した時点で
  この日、糸井重里と会う。
糸井 ‥‥パブリックビューイングの
呼びかけ先のひとつが
ミグノンってペットサロンのお店で、
彼女たちの紹介のしかたが
すごーく、上手だったこともあったんです。

坂本さんに招待されちゃったーみたいに
かるーく、ユーモラスに書いていて。
平野 あ、そうでしたか。
糸井 その人たちって、捨てられた犬の保護をしたり
犬のシャンプーをしたり、
カットしたり、
服を売ったりしてるんですけど、
仕事のしかたが、すごくかっこいいんです。

そんな人たちが
パブリックビューイングをやるって聞いたら
親しみが湧いてきたんですよね。
平野 じゃあ、けっこう長いこと‥‥。
糸井 はい、追っかけるようにして見てました。

でも、こりゃあいいぞって思えるまでには
やっぱり、なかなか時間がかかって。
平野 そうですか。
糸井 坂本龍一のファンならね、
ドキドキしながら見てたと思うんだけど。
平野 ええ。
糸井 ぼくの場合は、それとはまたちがうんで。
平野 はい。
糸井 あのときの坂本くんって、
自分の音楽が届かないかもしれない人にまで
「開いてる」感じがした。

で、僕にそう感じさせてくれたのが
ミグノンさんだったり、
平野さんの、あの‥‥ドタバタだったり。
平野 あはははは、はい(笑)。
糸井 本来は「舞台裏」のできごとまでふくめた、
一連のUstream中継だったんですよ。
平野 なるほど。
糸井 はじめは
平野さんという「ドタバタした人」をつうじて
坂本龍一を見てたんですよね。

で、そうしているうちに
逆に、平野さんのことが見えてきたり、
古川さんが見えたり‥‥
いろいろ、乱反射しはじめたんです。
平野 うん、うん。
糸井 「手伝いたいんで、
 今からアメリカ行きますから!」って、
そんなのありますか?(笑)
平野 なかなかないかと(笑)。
糸井 あの平野さんの姿を見てたら
もう、こっちがワクワクしてきちゃってね、
ずーっと見てやれと思って。
平野 ありがとうございます。
糸井 ただ、あのできごとを、
「テクノロジーが世界を変える」みたいに
言っちゃうのは、ちがうと思ってるんです。
平野 あ、ぼくはたまーに
そんなふうに
鼻息荒くなっちゃうときがあります(笑)。
糸井 何が言いたいかというと
「人間がやってることのおもしろさ」
みたいなことのほうに
重心を置きたいんですよね、ぼくは。

実際ぼくは、
平野さんがくんずほぐれつしてる場面を
おもしろがってたわけだし。
平野 ええ、ええ。
糸井 逆に言うと、あの縄跳びの輪の中に入るのは
なかなか難しいんだけど、
結局、中継の最後に販売していた
ボックスセットを「買う」ということが
あのときのぼくにできた、
いちばんディープな「参加」だったんですよ。
平野 なるほど‥‥。
糸井 いや、ぼくらも、モノを売っていますから、
苦しい気持ちとか、わかるんですよね。

ですから
何とかうまくいくといいなあと思って
見てたんですけど‥‥
どうです、何とかはなりましたかね?
平野 ‥‥なりました。
糸井 なりましたか。
平野 なりましたです。
糸井 よかった。
平野 ありがとうございます。
糸井 「もうけ」は出‥‥た?
平野 ま、現金的な赤字はゼロになったと。
糸井 自分たちのコストが払えなかった?
平野 中継のための費用は出ませんでした。
糸井 そうですか。
平野 ただ、あのボックスセットのことを
「おひねりグッズ」と呼んでるんですが
あれは、
どうしても、
ぼくが作りたかったものだったんです。

で、実際に作ってみてわかったのは、
ぼくらのやったことに対して
みなさんが、純粋に「おひねり」といいますか、
「投げ銭」をしてくれたんだなって。
糸井 うん、うん、うん。
平野 そして、そういう人の数が
すごくたくさんいたんだってことです。
糸井 その、平野さんの作りたい気持ちもわかるし、
できることならば
その向こうに可能性を見たい気持ちもあるし、
やっぱり
続けるために絶対必要な「燃料」ですからね、
お金って。
平野 はい。それと教授のアルバムが
iTunesで1週間、1位をキープできたんです。

個人的には、それが「ヨッシャ!」と。
糸井 なるほど。
平野 アメリカに続いて
韓国でもUstream中継をやろうと決めたとき、
教授はじめ
いろいろお偉いかたが集まって
秘密会議みたいなのをやったんですね。

で、そのときにぼくが鼻息荒く、
「iTunesで1週間、1位をキープすることが
 今回のゴールです!」
と言ったら、その場がシーンとしちゃって。
糸井 その「1週間」は「デタラメ」ですよね。
平野 はい?
糸井 つまり、根拠ないですよね?
平野 あ、はい、ないです。デタラメです。
糸井 でも、それがやりたかったんだ。
平野 たとえば、教授のことを名前しか知らない人も
今回のUstream中継を見て
なんとか、お金を払ってもらえないかなぁと。
糸井 ええ。
平野 そこで、iTunes で1500円のライブ盤を
買ってくださいませんか、と言って。
糸井 うん。
平野 それでも思いがあまっちゃった人がいたら、
もっと立派に作りますんで、
こっちの「おひねりグッズ」を買ってくださいと。
糸井 はい、はい。
平野 もし、教授のファンだけではなく、
中継を見た、ファンではない人たちに支えられて
1週間、1位をキープできたら、
今の音楽ビジネスの考えかたや常識が
ちょっと変わるんじゃないかと思ったんです。

だから、リクープするかどうかよりも
音楽業界の人やミュージシャンのかたがたに
「あ、なんか、もう違うんだ」って
思ってもらえることが
いちばんのゴールだと思ってやってました。
糸井 なるほどね。
平野 だから、視聴者数も16万人くらいになって、
iTunesも1位になったところで
もう、すっかりいい気分になっちゃって、
最後、グッズを売るの、
あんまりがんばらなかったんですよね(笑)。
糸井 がんばっても、がんばらなくても‥‥
たぶん、それは
そんなに大きく変わらないと思いますよ。
平野 あの‥‥ぜんぶ終わったあとに
教授に直筆で
メッセージカードを書いてもらって
「ご注文ください!」 って
頭を下げたら、
もっと売れたんじゃないかと。
糸井 あー‥‥。
そのくらいのことでは、動かないでほしい。
平野 ‥‥。
糸井 結果的には、その数字が「答え」なんですよ。

選挙と同じで、
頭を下げたら確かに票は伸びるかもしれない。

でも、そこで伸ばしちゃうと
「わかんなくなっちゃう」んじゃないかな。
平野 ‥‥ああ。
糸井 その意味では「きれいな数字」として
知ることができたわけだから、
やらなくて
よかったんじゃないかなと思いますね。
平野 そうか‥‥そうですね。
糸井 たぶん。
平野 Ustream中継をやってると
心配してくださる声が聞こえてくるんです。
糸井 ほう。
平野 あれだけ音質のよいものを
ナマでぜんぶ聴かせちゃって、大丈夫かと。
糸井 うん、うん。
平野 ようするに、見に来る人はいるだろうけど、
そのためにCDが売れたり
ライブに人が集まったりするわけない、と。
糸井 ええ。
平野 でも、結果的には、
iTunesでも1週間1位をとることができたし、
当日券で会場に来てくれる人たちが
回を重ねるごとに、増えていったんです。
糸井 つまりUstreamで観てたら
ライブにも行きたくなっちゃった人がいたんだ。
平野 そういう動きを見てたら、
「パッケージされたCDを売る」という
これまでのビジネスが
逆に、
ものすごく難しいものに見えてきたんです。
糸井 あー、なるほどね。
平野 だって、聴いたこともないアルバムを
手に取らせて、
3000円くらいのお金を払わせて、
封を切って
中の音楽を聞きたいと思わせてはじめて、
CDが1枚、売れるわけですから。
糸井 そうですね。
平野 だから、ぜんぶフリーで見せちゃって
どうやって儲けるんですかって
聞いてくる人たちに対しては
今まで、中身を聴かせないいままに
お金払わせてきたのに比べたら
むしろ、
こっちのほうがぜんぜん勝ち目ありますよって、
言いたいんですよ。
糸井 なるほどね。
平野 今までのみなさんがやってきた方法のほうが
難しくないですかって、言いたいんです。
糸井 ‥‥なるほど。

<つづきます>

2011-07-29-FRI