ほぼ日刊イトイ新聞

60歳になって、ようやくわかった。「わたしが服をつくる意味」

「FLY、FLY、FLY」HOUSE 島地保武 PH:上原勇(サン・アド) 協力:市原湖畔美術館 2018年

ひびのこづえさんの、60歳の創作論。

第2回見せたいのは、人間の身体。

──
ダンスのパフォーマンスという
「本当にやりたいこと」を見つけたことで、
自分自身も、変わったんですか?
ひびの
コスチュームって人に着せるものですよね。

そうなると、まわりの人‥‥つまり、
着てくれる人と、
コミュニケーション取らなきゃダメなのに、
20代、30代、40代のわたしは、
着てくれる人どころか、
ほとんど他人としゃべらないような感じで。
──
そうだったんですか。
ひびの
当時は、着る人も不安だということに、
気づかなかったんです。

今では、着てくれる人には、
やさしく声をかけてあげたりしなければ
いけないって思うんだけど、
そのころは、
おもしろければ何を着せてもいい、
舞台の上で映えれば映えるほど、
インパクトが強ければ強いほどいい、
そう、思い込んでいたんです。
──
何を着せてもいいというのは‥‥。
ひびの
おもしろいかもしれないけど、
すごく重たい服とか、動きづらい服とかね。
──
なるほど。
ひびの
演劇の仕事で、コスチュームをつくる場合、
まずは台本を読み解く必要があります。

その制約のなかで、
わたしは自分を表現をしようとしています。
──
ええ。
ひびの
総合芸術と言われるように、ひとつの舞台を、
脚本、演出、舞台美術、音楽、役者、
みんなでつくっていく楽しさもありますが、
わたしは、自分のコスチュームと、
それを着る人の身体とが、
よりストレートに
コミュニケーションを取れるような表現に、
挑戦してみたかったのです。

プロのダンサーの身体と、
わたしの衣装が、戦うところを見たかった。
──
そこで、たどりついたのが、ダンス。
ひびの
わたしは、ダンサーの人に、
ずっと衣装を着ててほしいわけじゃなくて、
最終的には「脱がせたい」んです。
──
脱がせたい‥‥衣装を?
ひびの
そうです。なぜなら、
最後は、ダンサーの身体を見てほしいから。

だって、人間の身体のうつくしさの前では、
わたしの衣装なんて、
どうあがいたって、勝てっこないからです。
──
そう思われますか。
ひびの
うん、だから、人の身体を見てほしくて、
わたしは、衣装を考えています。

導入部分で、わたしの衣装で驚かせておいて、
だんだん踊っている人に集中していき、
最後は、その人の身体だけを見ていてほしい。

「LIVE BONE 」骨の服 森山開次 PH:上原勇(サン・アド) 2013年

──
そんなふうに思って、
衣装を、つくってらっしゃったんですか。
ひびの
そうなると、やっぱり、着てくれる人と
コミュニケーションを取らなければ、
いろんなことが、うまく運ばないんです。

人としゃべるのは、
今でも少し、苦手にしてるんですけど、
それでも、がんばってるうちに、
「あ、人間って、おもしろいんだなあ」
と思うようになりました(笑)。
──
たしかに、パフォーマンスの動画を見ると、
衣装の下にある、
ダンサーの身体のうつくしさを感じますね。
ひびの
でしょう? 人の身体って、すごいんです。
──
ひびのさんは、ダンサーが着て踊ることで、
ご自分の衣装が動くところを、
はじめて目の当たりにするわけですよね。
ひびの
はい。
──
そのときは、どんな気持ちですか。
ひびの
それは、もう、感動的です。
ああ、つくってよかったなって思います。

それに、わたしたちの公演では、
観ているお客さんが
とてもストレートに反応してくれるので、
そのことも、すごく楽しいです。

「WONDER WATER」イソギンチャクの服 ホワイトアスパラガス PH:中乃波木 2017年

──
目の前で踊る人体って、
思う以上に、迫力ありますものね。
ひびの
わたしたちのパフォーマンスでは、
赤ちゃんでも、ちっちゃいお子さんでも、
観に来ていいことにしてるんです。

途中で泣いちゃっても、
ちっちゃいお子さんがしゃべってても
OKですって言ってるんですが、
実際、赤ちゃんはほとんど泣かないし、
ちいさい子も、
じーっと観ていることが多いんですね。
──
子どもたちも、惹き込まれてる。
ひびの
本当に素敵なダンスは、大丈夫なんです。

子どもって、
いちばん遠慮のない批評家ですね。
──
目の前のものが、よければ見るし、
退屈だったら、ソワソワし出すし。
ひびの
そうなんです。だから怖いですよ(笑)。

作品の出来が良くなかったら、
子どもがチャチャを入れはじめますから。
──
バレちゃうんですね‥‥。
ひびの
さっき、わたし、大人が嫌いだったって
言いましたけど、
「子どもだましの、子ども向け番組」も、
同じくらい、大っ嫌いだったんです。

大人めー、子どもをバカにして‥‥って。
──
それは、まさに子どものころから?
ひびの
そう。わたしは、昔から、
大人と子どもの間には差がないと思ってて、
だから、子どもをシャットアウトする
パフォーマンスも、
それはやっぱり、ちがうなぁと思ってます。
──
なるほど。
ひびの
子どもから大人までが観て
感動する芸術作品を、
わたしたちはつくっていくべきだし、
そうすることで、アートが、
もっともっと、
みんなの身近になっていく気がするんです。

<つづきます>

2018-04-11 WED