第6回 メイド・イン・ミー。
糸井 ものって、捨てられるんですよ。
だいたいのものは、捨てようと思えば、
冷蔵庫でもテレビでも捨てられる。
だけど、アンリさんのものって、
ゴミ箱に捨てられないですよね。
アンリ 素材の革は、生きているから。
糸井 そうか。そうですね。
生きている感覚ですね。
アンリ 生きているからこそ、使っていくうちに、
いろいろなものが合わさって革も育っていく。
自分の体の一部分になるんでしょう。
いわばこの自然のもの、
石だとか、木だとか、
そういうものも全て生きていますものね。
糸井 そうですね。
アンリ これは、日本には古くからある考え方ですよね。
1つのものに魂が宿るとか、そういうのって
やはり日本の文化からですからね。
どんなところにも神様がいるっていう。
糸井 うん、逆に僕らが日本人として
理解していることってのは、
西洋のお客さんたちはどう思ってるんでしょう。
アンリ イタリア人は特に
ファッション・ヴィクティムですからね。
糸井 うん?
アンリ とても流行に惑わされやすいんです。
ファッションの世界に踊らされていると僕は思う。
日本では、世界的に有名なブランドではないお店でも、
ちゃんと成り立っていますよね。
ちゃんとそれぞれの顔があって。
でもイタリアはそういうお店って
とても少ないんです。
糸井 そうなんですか。
アンリ イタリア人はブランドを買います。
それも、あの奥さんが持ってたから、
じゃ私も持つわっていうような感覚で。
もちろん、そういう人は、
日本にもいると思いますが、
イタリアは日本とは比べものにならないです。
これは僕が言ってるだけじゃなくて、
イタリアの人たちもそう言っていますね。
糸井 そうですか。そういう中で、
アンリさんの作るものって、
東洋の宗教みたいに見られてるんでしょうか。
アンリ もう、ラスト・サムライですよ(笑)。
  henri
糸井 それは、もしかしたら当たってるかもしれない。
アンリさんがモチーフにしているものって、
ネイティブ・アメリカン的な要素もあるし、
南米的でもあるし、
どうもモンゴロイド系の血を感じますよ。
アンリ 自負してるわけじゃないんですけれども、
ユニーク(唯一無二)な、
どこにもないものをやってると思います。
自惚れではないんですけれども。
ニューヨークのバーニーズ・ニューヨークが
長いこと、ぼくのつくるものを
扱ってくれているんですが、
彼らは、バーニーズの顔だと言ってくれるんです。
糸井 西欧人にとっては、
とっても変わった何かがあるんでしょうね。
アンリ 今という時代に、すべて手仕事というのは。
糸井 異常なんでしょうね。
アンリ きわめて異常(笑)、そうですね。
地味ですし。
今、イタリアで大変な問題になっているのは、
国営テレビが番組を通して告発したんですが、
「メイド・イン・イタリーの真実味」ということ。
ある有名ブランドが、
安くつくらせたメイド・イン・チャイナの製品を、
不法に輸入して、
製品表示をメイド・イン・イタリーに付け替えて
高い価格で販売しているというものなんです。
全行程のなかで30%だけイタリアでやれば
メイド・イン・イタリーと付けていい、
という決まりがあるんですよ。
糸井 日本の食品でもそれに近い問題がありました。
アンリ 今、少なくなっている職人さんは、
それに対して反発しますよね。当然ね。
イタリアの文化はどうなるんだと憤っています。
これでは手作業というものが
どんどんどん廃れていってしまう、
それはイタリアが守らなくてはだめなんだと。
今、そのイタリアの法律を
変えてくれるようにっていう動きになっています。
糸井 アンリさんは、どこで作ろうが、
アンリさん作なんですよね。
チベットで作ろうが、日本で作ろうが、
メイド・イン・ミーですよね。
アンリ メイド・イン・ミー(笑)。
ありがとう。
  (つづきます。)
協力:Henry Cuir 青山本店

2008-11-07-FRI