メイキング・オブ・VOLUME(ボリューム)  アンリさんの手帳カバーができるまでの物語です。
 
第3回 ぼくは教えたい。
 
糸井 今日、仮に、アンリさんのところに、
新人の革の職人さんが来て、または、
趣味でやってる人でもいいんですけど、
「ぼくにこれを作らせてください。
 同じものを作ってみせます。」
って、自信を持って言ったとしたら、
アンリさんは、やっぱり笑うかな?
アンリ ま、笑いはしないけれど、
真似したければ、真似したらいいじゃない
っていうような感じですね。
ぼくには興味がないことなので。
なぜなら、ぼくが興味あるのは、
「次に、何をやらなきゃいけないか」
ということなので。
もし、若い子が来て、
「同じものができる」って言っても、
もうなんとも思わない。
やったことは、過去のことなので、
その人は勝手にやればいい。
糸井 では、どこか別の場所で修行した人と、
アンリさんのところに長くいて、
同じものを作ろうっていう仲間とは、
何が一番ちがうと思いますか?
アンリ 比較っていうのは、ちょっとできないですね。
なぜかというと、
ぼくたちの工房でやっている経験っていうのは、
他では絶対できないものだからです。
世界は、ハンドメイドでやる方向とは、
ちがう方向に行ってる気がします。
ぼくたちのような工房っていうのは、
たぶん、世界中どこにもないんじゃないでしょうか。
糸井 ああー。
アンリ やはり、みんな、コストを気にしながらやっていて、
時間を、時は金なりの精神で節約して。
それも必要なものだと、ぼくはそう思いますけど、
ただ、それだけがすべてではない。
そういう精神を伝えるのは、
ぼくは自分の工房ではやっているので、たぶん、
他では経験できないんじゃないでしょうか。
糸井 アンリさんのところは、じゃあ、
速くつくるっていう発想は、
ほとんど、ないんですか。
アンリ もちろん、のろのろやるっていう意味ではなくて、
やはり、効率的にやらなきゃいけないってことは
わかってますし、
あと、無駄な時間を費やさないって気持ちは、
持ちながらは、やっています。
糸井 実際に作ってるのを見てたら、
急いではないですよね(笑)。
アンリ 普段のぼくはもっと速いんですけど(笑)。
ちょっと風邪をひいてて。
あと、みなさんに囲まれて緊張したので。
糸井 はははは。
アンリ 倍の時間がかかってしまいました(笑)。
糸井 ぼくがね、なんでこの
似たような話ばっかり訊いてるかっていうと、
あれだけ、これをしてこれをして、っていうのを、
全部発表してしまうと、
ノウハウを全部出してしまうことになるから、
「ここは見ないでくれ」
とか、途中で言うかと思ったんですよね。
そしたら、まるまる全部見せてくれたんで。
アンリ そのことに気がついてくれて、
どうもありがとう。
何度も言うんですけど、
40年、ぼくはこの仕事をやっていて、
周りの人たちとか、いろんな人たちに、
ぼくは教えます。
教えたいのです。
教えるのが大好きなんです。
糸井 ああー。
アンリ それは、やり方を伝えることですし、
伝えることは、ぼくにとっては大切なのです。
糸井 ああー。
アンリ このカバーの作り方ですとか、
どういうふうな始末の仕方をしているか、
というのは、もちろん隠すことではないです。
ただ唯一、隠したことが、ひとつあります。
それは、なぜかというと、
やっているあいだに、
「これをこうやったらいいじゃないか」、
というような、アイディアが出てきたので。
糸井 頭の中に。
アンリ それは言えません(笑)。
糸井 ああー、おもしろいなぁ、それよくわかる(笑)。
ああー、よくわかる。



いまって、マニュアルがあったり、
情報が整えば真似できるってことを前提に
世界ができてるんですよ。
だから、知的財産だとか、特許が、
守られるように守られるように、できてる。
でも、工房でカバーを作ってもらったときは、
こう、いろんな動きがあるんですけど、
あまりにも見せてくれたんで、
ちがう世界にいるかのような(笑)。
で、ぼくらもそれに共感するもんですから、
とても感動したんですよね。
アンリ やはり、何かを隠したいっていう人、
自分の知っていることや知っているものを、
人に伝えたくない人っていうのは、
未来のない人だと、ぼくは思います。
やはり、自分の知ってることを
人に伝えていくことに関して、
ケチになってしまうと、
おもしろい人間ではなくなると思うし。
糸井 おお。
アンリ ぼくが毎日思っていることは、
次にどんなバッグを作ろうか、
どんなものを作ろうか、って考えて、
でも、そこで止まってしまったら、
どんどん、どんどん濁ってしまうと、
ぼくは信じてるので、人に伝えたい。
隠すってことは、ぼくの頭の中にはないです。
吐き出していって、前に進むっていう感じです。
糸井 いままでずっと、そうやってやってきたんですね。
アンリ はい。もうそれは、
ぼくの、おかしい部分かもしれないですけど、
もう、昔からやってきたこと。
たぶん、ぼくの性格がそうなのかもしれないけど。
糸井 性格なんですね。

〈つづきます。〉
 
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2009-12-03-THU
(c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN