へなちょこ雑貨店。
一寸の虫の五分のたましい物語。

第17回 内装その4―壁がシマシマ!?

毎度ご来店ありがとうございます。

早いもので今年も、というか「今世紀」も
残すところあと4ヶ月をきりました。
26 two-sixは世紀を越えることができるのか!?

さてそんな今世紀最後の年が明けたころのお話です。
あれだけ騒いだおかげで「Y2K問題」は
大きな事故を起こさずに済みましたね。
しかしわたしたちには起きてしまったのです。

ああ、今思い出してもどきどきする。

昨年の12月いっぱいで
ひとまずバイトを辞めていたわたしは、
シロウト棟梁ゴチョウの休みの日を
すべてじぶんたちのものとし、
内装の続きをする日程を組みました。
忘れもしない1月8日、事件は現場で起きました。

その日もゴチョウのほかに“意外な助っ人”シカちゃんも
参加してくれる予定になっていました。
オオタケが、バイトの都合上、
毎回内装工事に参加できるわけではないことを思うと、
彼女は心強い味方でした。
その日わたしは彼らより先にジャンクヤードに到着し、
シャッターを開けました。
およそ2週間もの間、みんなの都合が合わなかったため
締め切りにしていた店内には
塗料のにおいがたちこめています。
シャッターを全開にして作業をするのは
「本来控えめな」わたしにはためらわれ、
下の部分7〜80cmほどだけ開けて、
みんなの到着を待っていました。
ホットコーヒーの缶を開けて一息ついたとき、
ソレは目に飛び込んで来ました。

!!!

か、壁がシマシマ。


年末にあれだけきっちりと貼り込んでおいた「壁板」が
見事に縮んで、もとの白壁がまるだしなのです。
薄茶と白色のシマシマ模様。
その白色部分の「すき間」はゆうに1cmほどありました。
あとで聞いたところによると、未製材の木材はふつう、
乾燥させてから使用するそうです。
言われてみればそうでしょうとも。
しかし知らなかったのです。
みなさまも今後なにかの役に立つかもしれないので、
どうか覚えておいてくださいまし。
未製材の材木は、ものすごく縮みます。
しかも今回のわたしたちのように、
塗料で十分に水分を含ませたのちに、
乾燥のはげしい冬に放置したなら効果てきめん。

その時わたしのアタマの中を駆けめぐったことばは、
ぜ・ん・ぶ・や・り・な・お・し。

本当?
すべてはがしてはじめから貼り直すしか手だてはないのか?
シマシマ模様の壁に片手をついたまま立ちつくすこと5分。
今日は午前中に用事がある、と言っていたゴチョウが
到着するのは昼過ぎになるでしょう。
どうするべきなのか誰か教えて。

そこへシカちゃんがやってきました。
彼女はあろうことか、まさかの事態にボーゼンとしている
わたしを見て、文字通り「爆笑」したのでした。
おうおう、なにがそんなに面白い?

「だって、そんなにボーゼンとしてる人を、
こんなに間近で見たの初めてなんだもん」。

ああ、そう。
そして彼女は強かった。
「いいじゃん、また貼ればー」
と言うやいなや上着を脱ぎ、めりめりと音を立てて
長さ5cmの釘を抜き始めたのでした。
シカちゃん、あんたって人は。

数時間後、2人ですべての壁をはがし、
そしてある程度のところまで再度貼り込んだところで
昼食をとることにしました。
近くの店で食事を済ませて店に戻ると、
わたしたちのいぬ間に到着した棟梁ゴチョウが
黙って残りの壁を貼り込んでいてくれました。
わたしが興奮ぎみに
「えらいことになっててさー」
と今日の顛末を話して聞かせると、思いのほかあっさり
「そうなるかもしれないとは思っていた」
などと言う。

なんだい、あわてたのはわたしだけかい。



しかし、材木に関してはこれだけではありませんでした。
木というものは年輪がありまして、
古い木ほど太くなりますね。
ということは太い木はそれだけ貴重なわけです。
つまり、高価である。
そんなこともちょっと考えれば分かろうはずなんですが、
まったくアタマに浮かべないままお願いしたところ、
材木問屋さんはわたしたちが出せる金額に合わせるために、
なにも言わずにある判断をされたようでした。

幅の大きい材木に関しては、
2枚もしくはそれ以上の「いかだ」をつくって使うべし。
(たとえば天板1枚で発注したところを、
横に同じ長さの板を並べ、金具でつなげろ、ってことです)

壁用の厚さの薄いものは、
たまたま在庫(?)があったのか、
わたしたちが発注したとおり、
幅30cmのものが来たのですが、
棚用にと考えていた厚さ2〜3cmのものは
どれも「いかだ」にするのを前提にして到着しました。

「ぎょえ〜、そんなことしてたら
開店予定日までに間に合わない〜」
わたしたちは全員真っ青になりました。
しかし、あせったところでここに別の板はないのです。

仕方がないので、それらの板をつなげるために
「一文字金具」を購入し、ひたすら「いかだづくり」です。
はじめは金具についてきたネジを
ひとつひとつしめていたのですが、
とてもじゃないが、手間がかかりすぎるということで、
棟梁ゴチョウの指示により、
短い釘を打ち込むことにしました。

おお?
これは意外といいではないか。

この「いかだ作戦」が意外な効果をもたらしました。
なんだかなにやら、とてもかっこいい。
かえって1枚の板をただ「棚」として
棚受けにのせるよりも、金具で止められた板の方が
かっこいいのです。
これはなんとも結果オーライ。



そしてこの後もわたしたちのこまごまとした失敗は
いくつも発生しました。
「精巧な」図面から起こした
「精巧な」設計図のはずなのに、いざ組み立ててみると、
棚の後ろの面と天板があべこべになっていて、
ものすごいひらべったい「箱」ができてしまいました。



いくらなんでもこれでは商品をおくことができないので、
あまっている板でまったく別のかたちの箱を作製しました。

心配していた「床材(鉄板)の足りないところ」は、
必要な数量だけ発注したのに、
どういうわけか余った板を敷くことで、解決。
これまた結果オーライ。
ふふん。

じつはすべて貼り直した壁板もその後も
びみょうに縮み続けていました。
ぱしっというラップ音を響かせて。
でも、「それっぽい効果」を狙って
びみょうに厚さを変化させたことにより、陰ができて、
多少ではありますが目立たなくなっている、と
本人たちは思っています。
まあ、白い壁、今も5mmほどは見えてるんですが。

細かい(大きい?)失敗をいちいち悔やんでいては
先に進みません。
余計なところでおちこんでいると、
「そもそも会社を辞めたことさえ失敗なんじゃ‥‥」
などということまで考えてしまいかねないので、
たいがいのことは「結果オーライ」ということにして
納得しました。
このことばはわたしたちのマジックワードとして
チカラを持っていました。
けっして妥協ではありません。
じぶんたちの店に妥協するこたあないですから。

とにかく開店の日は迫っています。
じつはこの時点でまだ商材が手元にありません。
暖房もろくにきかない真冬の店内で棚をつくってくれている
ほかのメンバーには悪いが、
そろそろ某州に旅立つ日が迫っています。
オオタケとわたしは、みんなにあとを任せて買い物、
じゃなくて買い付けに行くのでした。

(つづく)


「SalesBooks」

やっぱり紙質の悪い、
請求書や販売明細書。
でもちゃんと複写式です。
米国の個人商店で、
レシート下さい、というと、
たいがいこの手のモノに、
読みづらい字で
いっぱいいっぱいに
記入してくれます。

2000-09-10-SUN

BACK
戻る