SAITO
もってけドロボー!
斉藤由多加の「頭のなか」。

前回に続いて、目に見えないものの話をします。
今回は、すこしエッセイ風になってしまいました。

目に見えないもの2

「斉藤さんはうちの社長といつもご一緒のようですね」
冷えた笑顔で仕事先の事務スタッフからある日いわれた。
「弊社はあなたとの会合で交際費を
 ずいぶんと負担してますよ」、
ひらたくいえば、そういう意味であった。
すこしカチンときた。
「御社との交際費はうちの会社の方が
 よっぽど多く負担していますよ」、
イヤミたっぷりにそう言い返したかった。
でもせこく思われるのが嫌で(笑)、言えなかった。

経理マンは、伝票を通して
社員の行動をすべて知っている、といわれる。
しかし、それはあくまで社内にまわされた
伝票に限った話であって、
その社員が“よそでどれだけ御馳走になっているか”とか
“どれだけ接待攻勢にあっているか”、
なんてことは伝票にはならない。知られないままである。

うちの経理にいわせると、
この会社の社長はもっと悪者である。
互いに事実を見すえているつもりでも、
二社の言い分は完全に決裂することになる。

日々仕事をしていて、
社内スタッフから手柄話や仕事先への批判などは
多々入ってくる。
だがその逆、スタッフ自身が仕事先にかけた
迷惑やミスなどはなかなか入ってこない。
過去に、憤慨した取引先の社長から
クレームをつけられる、なんてことが幾度かあった。
こちら側で見えている風景とは
まったく異なる風景が向こう側には広がっていた。
あとになって考えてみれば
そのどちらもがひどく偏っていることがわかる。

仕事でも人間関係でも顕在化するトラブルというのは、
ほんの大きな氷山の一角である。
日本語には「膿を出す」という表現があるが、
それは見えなかったものを
互いに見せ合う機会に恵まれたことをいうのだろう。
だとすればだ、膿というものは
自分の外にあることになる。
今の自分は果たして膿を他人の中に
どれくらい溜めているのだろうか?
それを知る事ことは、かなりの恐怖である。

斉藤由多加さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「齋藤由多加さんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2004-12-14-TUE

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