SAITO
もってけドロボー!
斉藤由多加の「頭のなか」。

マック回帰への道 その4
ハッピーバースデー、マック【1】

もうすぐマック
生誕20周年!

ふと気が付けば、盆が過ぎて秋が来ている。
ということは、僕がウィンドウズへの浮気から
マックにもどって一年が過ぎたことになる。
この<マック回帰への日々>という小連載も、
尻切れとんぼのまま1年間が過ぎてしまった。
その間、僕の周囲の新型パワーブックは、
(当初僕が恐れていた通り)、続々と増え続けた。
いまメインのマシンはG4パワーブック(大)である。
大、中、小それぞれが仕事先に鎮座している。

6月くらいに、久々にアップル関係の
イベントに顔を出し、
今年がアップル・ジャパンができて
20周年だということに気付いた。
ということは、来年は
マッキントッシュ生誕20周年である。
これはなにかしなければならない、
そう思って先月に社員たちと会議をやった。

悲しいことに、いまのうちの若い開発チームは、
“プレイステーション2”とか
“ゲームキューブ”とか、
そういう機械には慣れているが、
マッキントッシュなんてぜんぜん知らない。
だから、社長の僕が
「おい、来年はマック20周年だぞ」
といっても、
「じゃ、シーマンのマック版でも急いで作って
 幕張のMac-EXPOで限定販売しましょう」
なんて話にはぜんぜんならないのである。
そもそもMac-EXPOが、もう、存在しない。

あやしげで
いかがわしくって、
最高だったぞ。

マックのいいところは、
つくったものを勝手にマックのショップや
マックエキスポ会場に持ち込んで、売れることだった。
かくいう僕も、ボイジャー社の電子出版ソフトである
「エクスパンドブック」で
たくさん電子出版物をせっせとつくっては、
箱に入れて売ったものだ。
出版社と著者をいっぺんに経験することができた。
だからマックで出ている電子出版物
(いわゆるCD-ROM)はあやしげで
いかがわしい雰囲気が溢れていた。

プレーステーション2やゲームキューブでは
そうはいかない。
億という開発予算とたくさんの審査機構を経由して、
やっと世の中に出てゆく。
あやしいといったって所詮、人工のあやしさだ。

いま僕がこうして
デジタル産業のクリエーターでござい、なんて
偉そうに会社をやっていられるのも、
マックがあってのことだ。
マックがなかったらぼくはデジタルに
興味ももたなかったろうし、
もしかしたら全世界的に
Windowsマシンも存在しなかったかもしれない。
そう考えると任天堂の宮本さんと
知り合うこともなかっただろうし、
「ほぼ日」にも連載をしていなかったにちがいない。

そんな僕はマックのお誕生日になにができるか、
ということで、一か月くらい前から知り合いの出版社に
電話をかけまくっている。
ずいぶん昔に出したマックの書籍二冊を
復刊してもらうためだ。
どちらもノンフィクションで、
うち一冊は調査から5年もかかったものだ。
でもどうせなら二冊一緒に
復刊したいと思っていたのだが、
その中で一社が好感触だったので
さっそく準備にはいった。
これに関しては、後述する。

なんだか妙だと思うのだ。

最近、ひとつ気付いたことがある。
パソコン業界全体にいえることだが、
ソフトが高機能になりすぎて、
誰も使えなくなってしまっていることだ。
PhotoShop一つとってみても、
あるいはPremiereのような
ビデオ編集ソフトにしても、プロ仕様が進み過ぎて
一般ユーザーが取り残されている。
かつてはもっと手軽なソフトだった。

そのおかげで、パソコンユーザーは完全な
「受け身」になってしまっているように思う。
ハイパーカードで当たり前だった
「イラストを描いてアニメーションをつけて
 メール添付する」、なんて芸当を
いまの環境でやろうとしたら大変だ。
高額なソフトと数週間の勉強が必要となる。
その結果、周囲の人はみな、
メールとインターネットと、
MSオフィス(といってもver2.0当時の機能程度)を
使うくらいに戻ってしまっている。
自分で何か作るといっても
DVDを焼くくらいだろう。

この10年間でかるく
100倍くらいの性能になったパソコンであるが、
はたして僕たちの何が100倍になったのだろう!?
そんな切ない気持ちになってしまった‥‥。

つづく

齋藤さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「齋藤由多加さんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ろう。

2003-09-26-FRI

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