SAITO
もってけドロボー!
斉藤由多加の「頭のなか」。

第7回 マクドナルドの話

●マクドナルドの店長はゲームである
「申し訳ございません。フィレオフィッシュは
3分少々お待ちいただきますがよろしいでしょうか?」
マクドナルドで注文すると店員からそう確認される。
俺のオフィスのある表参道(激混み地区)では
いつもこうです。
「だったら、結構です」
原稿を今日の昼までにいれなければならない私は、
大好きなフィレオフィッシュをあきらめ、
ビッグマックのバリューセットを抱えて
そそくさとオフィスに戻ったのであります。

●マクドナルドの店長というゲーム
「20分の命のハンバーガーをどう売り抜くか。
しかも客は3分しか待たないとして……」。
帰り道、自分が店長だったら、と考えてしまった私は、
シミュレーションゲームをつくっている気分になりました。
「ファーストフードは薄利多売ビジネスだ。
数を売らなければならない」。
そんなことは誰でもわかっていることです。
「マクドナルドには綿密なマニュアルがあるらしいから、
その味はいいとして、店長である俺にとっての敵は、
数分で不良在庫になってしまうハンバーガーそのものだ、
ということだ」。
そう気づいた僕は、店長に向いているのかもしれない、
と思ったりします。

で、ポイントは、
オーダーを受けてから作っていては
営業効率ががくんと落ちてしまう、

かといって
過剰に作ってはロスが増大する。

かつ
冷めてしまって味が落ちたのでは
たちまち客ばなれを起こしてしまう。

そういう条件の中、
一店舗の利益を最大にするためのゲームというわけです。
「これはコンピュータゲームになる」
と思った人はまだ甘い。
理由は後で話すことにして本題に戻りましょう。

こういった予測計算をいくら綿密にしていても、
品切れを100%回避することはできないのが現実です。
そういう時に登場するのがこの
「3分少々……」
という確認というわけです。
マクドナルドのマニュアルはすごいな、
と思ってしまうのは、ここ、
つまり、この品切れの時なのです。

●「3分少々お待ちいただきますがよろしいでしょうか?」
という選択枝わずかな質問だが、
こう聞かれて、いつも僕は救われています。
未来を選択する選択肢を与えられているのです。
急いでいるときはキャンセルするし (事実今日はそうした)、
時間がある時はそのままぼうっとしていればよい。
急いでいるものにとって、
未来を選択することは重要なことなのです。

●キーワードはリピーター確保
この「3分少々……」という言葉ですが、
実際に計ってみると、けっこういい加減である。
だが、それは問題ではない。
いつ来るかわからない不安からは
開放されていることが重要なのです。
そこいらのレストランのような
「オーダー漏れ」は一度もないですし。
料理の来なかったレストランには二度と行かないが、
明日の昼も僕はマクドナルドに行くでしょう。
多売によって成り立っているチェーンにとって
もっとも避けるべきは、リピート客を
失うことなのである……またも店長に向いているのでは?
と思ってしまうのであった。

1999-03-30-TUE

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