hawaii
ほんとうにほんとのハワイ。

■Vol.12 リリウオカラニの想い
 Hawaiian Music Part 1

ハワイ語がもともとそうであるように、
ハワイの歌もまた非常に詩的で魅力にあふれたものです。
私たちがいま楽しんでいる音楽は、
昔のハワイにはなかったものです。
ハワイにもともとあったチャントは、
歴史や伝説を後世に伝えることが第一の目的だったため
メロディよりも言葉が優先されていました。

伝道師がハワイを訪れると、
ハワイの人々はメロディを覚える才能に長けていたらしく、
あっという間にハワイ中で讃美歌が歌われるようになり、
伝道師たちを驚かせたという話も残っています。
さらに、王や女王たちは美しい歌を作り始め、
それらの名曲はいまもハワイで愛され続けています。
その中でも、数多くの歌を作ったことで知られているのが、
ハワイの最後の女王、
Lili'uokalani(リリウオカラニ)です。
彼女は世界的にも有名な“Aloha Oe”をはじめ
100を超える曲を作りました。
皆さんもよくご存知かとは思うのですが、
ここにぜひ、その歌をご紹介したいと思います。


ハワイの最後の女王、リリウオカラニ

“Aloha Oe”
Ha'aheo ka ua i na pali
誇らしげに谷を横切る雨は
Ke nihi a'e la i ka nahele
木々の間を通り抜け
E uhai ana paha i ka liko
それはまるでliko(ハワイの植物)を
探しているかのよう
Pua ahihi lehua a o uka
それ(liko)は山の花、アヒヒ・レフア
Aloha 'oe, aloha 'oe
さようなら、あなた。さようなら愛する人
E ke onaona noho I ka lipo
木陰にたたずむ愛しい人よ
A ho'i a'u au
私が去る前にもう一度あなたを抱きしめたい
A hui hou
もしもまた会うことができるなら

ハワイの言語、とくに昔のハワイ語は
とても詩的で、言葉の裏には深い意味が隠されており、
ほかの国の言葉に訳すのはとても難しいとされています。
この歌もまた、その一例といえます。
直訳してしまうとこのハワイ語が持つ
深い悲しみや叙情的な表現は失われてしまいます。
この歌は一説に、リリウオカラニが、
彼女が大切に思うふたりの人に
月明かりの下で別れを告げたときのことを
歌ったものだといわれています。
またその一方では、彼女の愛するハワイが奪われ、
1898年にアメリカ合衆国に
併合する運命となったことへの
悲しみを歌ったものだという説もあります。

たしかに、多くの人は“アロハ・オエ”を
ラブ・ソングととらえています。
でも、私はこの歌ができたという月明かりの夜、
彼女の心には、これは単なるラブ・ソングとして
流れていなかったと思うのです。

リリウオカラニはその当時、
ハワイを奪おうとする
アメリカの実業家たちの策略によって、
反逆罪という罪名で、8ヶ月もの間
イオラニ・パレスに軟禁されていました。
ある月の夜、自室のバルコニーに立ち、
かつては自由だった国、愛するハワイを想う
女王の姿が目に浮かびます。

この歌は雨について歌っていますが、
それは為す術もない女王の心、
彼女自身の辛い涙を描いたのではないでしょうか。
レフアというハワイを象徴する花はまさに彼女の民、
彼女にとって何ものにも変えがたいもののことで、
女王は雨になって最後の力を振り絞り
民に別れを告げたのではないか……。
歌の最後の部分は、木の陰に隠れている
愛する人に向けての言葉です。
その愛する人とはハワイの民そのものであり、
彼女はハワイ王国とその民がいずれ
手の届かないところにいってしまうこと、
そして予想もできない未来が待ち受けていることへの
はり裂けるほどの思いを込めたのだと
私は思わずにはいられません。


反逆罪となりアメリカ政府に
連行されるリリウオカラニ女王


幽閉されていた彼女には、
ハワイがもうハワイでなくなってしまうことが
分かっていました。
そしてこの歌は、女王が彼女の国と民に向かって、
ひっそりと悟られないように別れを告げたものだった……。
雨が優しく花びらに触れるように、
彼女はハワイの民にその涙を、そして
どうすることもできない謝罪の気持ちを
感じて欲しかったのだと思います。
リリウオカラニは、彼女の愛する人々になら
言葉の表面的な意味ではなく、
そこに秘められた深い想いを分かってもらえると
信じていたのでしょう。

みなさんに理解していただきたいのは、
ハワイの民は、心から王族の人々を愛し、
信頼していたということです。
アメリカの政府が女王を王宮の一室に軟禁したその日、
ハワイの民の心の一部は、
死んでしまったも同然でした。

ハワイ人は、カラカウア王の元で自由を取り戻し、
ハワイアンの誇りを再び手に入れました。
しかし、アメリカ合衆国によってすべてを奪われた後は、
その心さえも、
持ち続けるのがとても難しくなってしまったのです。

2000-07-01-SAT
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