hawaii
ほんとうにほんとのハワイ。

■Vol.3
すべての人のために ―― Hewahewa(ヘヴァヘヴァ)


私の父はオアフ島で生まれてすぐに、
親戚の多くが住んでいるマウイ島に引越してきました。
父の母、つまり私の祖母は
父がまだ赤ん坊だった頃祖父と離婚したので、
父は祖母のほうの親戚の中で育ちました。
祖母のもとの苗字はAikau(アイカウ)。
この苗字は、前回お話した
Hewahewa(ヘヴァヘヴァ)の息子、
Aikauakalaninui'aimoku
(アイカウ アカラニヌイ アイモク)の
名にちなんでいます。
“ヘヴァヘヴァ”は私の親族には
とても身近な名前です。
それというのも、私の祖母の兄が
この名前を受け継いでいるからなのです。

さて、最初のヘヴァヘヴァは
ハワイの歴史を大きく変えた人物です。
彼はkapu(カプ=ハワイの聖なる掟)を壊し、
ハワイにキリスト教を取り入れました。

カメハメハ1世の死後、
彼がもっとも愛した第3夫人の
Ka'ahumanu(カアフマヌ)に、
ほんの短い間政権が委ねられました。
第1夫人Keopuolani(ケオプオラニ)との間の息子
Liholiho(リホリホ=カメハメハ2世)が
当時あまりにも幼かったため、
成長するまでの何年かを埋める役割だったのです。
第1夫人のケオプオラニは、
ハワイの先住民族の血を引いており(パアオたちが
渡ってくる以前に、ハワイにはもともと
住んでいる人たちがいました)、多くの王族の中でも
もっとも高貴な一族の出身でした。
それは、夫であるカメハメハよりもずっと
位の高いものだったので、
カメハメハは自分の妻と話をするためには、
服を脱ぎ、床にひれ伏さなければなりませんでした。

当時の最高権力を持つカアフマヌ、
カメハメハ第1夫人のケオプオラニ、
次代の王リホリホ、そしてヘヴァヘヴァの4人は、
わずかな過ちを死で償わなければならないという、
あまりに戒律の厳しいハワイの宗教に疑問を持っていました。
しかも、海の向こうから次々と
異文化の人たちがやって来る。
厳しすぎるハワイの宗教から
人々の心が離れていくのは時間の問題だと考えました。

そんなある日、ヘヴァヘヴァの夢に神が現れてこう告げます。
「このままではハワイの民に恐ろしい不幸が訪れる。
 民を守るためには宗教を捨てなければならない」。

神託を受けたヘヴァヘヴァは、
ハワイの誰もが従うだけの地位を持つ3人、
カアフマヌ、ケオプオラニ、リホリホとともに
数々のタブーを打ち崩し、宗教の象徴である寺院を焼き、
ハワイの宗教の歴史に終止符を打ちました。
タヒチから渡りハワイに宗教をもたらしたパアオ。
その血族が600年ののち
宗教を葬り去ったのです。

ハワイの古代宗教には千以上もの神がいて、
その中には、生贄を必要とする神もいました。
ヘヴァヘヴァはスピリチュアルな力を持っていたとされ、
彼は白人がハワイにやって来ることも、
ハワイにどんな未来が待っているのかも、
見抜いていたといいます。
時代の流れの中で、古代宗教の野蛮ともいえる
側面を疑問視していたのも確かです。
でも、その一方で自分の先祖がタヒチから伝えた宗教を
捨て去ることは、そのまま彼のすべて
地位も権力も一緒に失うことを意味していました。
ハワイの宗教を時代に合わせて変容させることも
彼の力ならできたはずです。

しかし、ヘヴァヘヴァは捨てることを選んだ。
それは、想像できないほど大変な
決断だったのでしょう。
彼の夢枕に立ったのは、
一体どんな神だったのでしょうか。
ハワイの神のひとりが民を救うために
自分たち神々をもう信じなくていい、と
告げたのでしょうか……?
それについては、誰にもわかりません。
でも、宗教に関してたくさんの血を
流さずに済んだことは事実です。
その後のハワイの運命は
非常に厳しいものになっていくわけですが、
彼の選択がなかったら、そこに宗教の争いも加わり
もっと恐ろしい結果になっていたかもしれません。

そうしてリタイアしたヘヴァヘヴァは、
オアフの美しい海沿いの土地Waimea(ワイメア)で
新しい神の到来を待つことにしました。
すると大勢の伝道師を乗せた船
Thaddeus(サディアス)が海岸に近づいてきたのです。
彼はそれこそ、待ち望んでいた神を
伝えに来た者たちだと判断し、
伝道師たちが王に謁見するための手助けをしました。

「私は、私たちが信じていた神々が
 本当に人々が望むものを与えてくれないことを
 知っていました。しかし、宗教というものは
 理屈には関係なく伝統として代々伝えられ、
 疑問を持つことさえ許されないのです。
 私自身は、この世には唯一絶対の神がいることを
 ずっと感じていたのです」
神について、ヘヴァヘヴァはそう語ったと言われています。

ヘヴァヘヴァについての記録は
決して多く残っているわけではありませんが、
はっきりしていることは、
彼は権力を欲しいままにできる材料が
揃っていたにも関わらず、
そういったことには見向きもせず、
ただ神について知りたいという思いに
突き動かされていたということ。
さらに彼は、時代がものすごい速さで
変わっていくことを知っていたし、
古いものが新しいものに
飲み込まれてしまうこともわかっていたのです。

ヘヴァヘヴァの末裔の中に、
やはり周囲の人々を大切にし、それらを守るために
いつもベストを尽くした人物がいます。
私の父の従弟Edward Ryan Aikau
(エドワード・ライアン・アイカウ)。
人々は皆、親しみと尊敬を込めて
彼を“エディ”と呼びます。
エディもまた、ヘヴァヘヴァと同じように
心の内に壮大な夢と熱い思いを秘めた人でした。
彼は荒れ狂う未来にも
恐れることなく飛び込んでいくだけの
力と勇気を持っていました。
そんな彼を知っている人は皆、こう言うのです。
“Eddie Would Go!”
「エディならやるはずだ」と。

2000-05-31-WED

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