33の悩み、33の答え。

読者から寄せられた
数百の悩みや疑問から「33」を選びました。
そして、それらの悩みや疑問に、
33人の「はたらく人」が答えてくれました。
6月9日(火)から
毎日ひとりずつ、答えをアップしていきます。

Q022

なやみ

自分の職場が変だと思ったとき、
どう変えていったらいいと思いますか。

(25歳・教員)

職場がたのしくてしかたない、という人がうらやましいですし、どうしたらそうなれるんだろうとも思います。そこで、自分の職場が変だ、おかしい、こう変えたいと思ったとき、自分や他人・環境を、どう変えていったらいいでしょうか。もし、経験談があったら、聞いてみたいです。教員として、学校現場で3年はたらいてきましたが、自分を変えることも、まわりを変えることも、だんだんしんどくなってきました。

こたえ

孤独にならないこと、仲間を探すこと。
ユーモアのちからを借りて、
みんなが乗れる、
楽しい目標やストーリーをつくること。

こたえた人中原淳さん(人材開発・組織開発/立教大学教授)

中原
この場合、大事なことがふたつ、あると思います。
──
ぜひ、教えてください。
中原
まず「同じ船に乗ってくれる仲間」を見つけること。
孤独になってしまうのが、いちばんよくない。

組織の中でどんなに声を上げようと
「孤独」になったら、絶対に何にも変わらないです。
──
なるほど。孤軍奮闘では、うまくいかないと。
中原
はい。「同じ船」で冒険してくれる仲間を
探すことです。

で、仲間を探すときには
「ヨコ」と「タテ」の方向性があると思います。
──
ヨコとタテ。
中原
まず、同僚ですね。
つまり「水平方向」に仲間をつくること。
──
それが、ヨコの仲間。
中原
そして、管理職です。
つまり垂直方向にも仲間をつくる。

これは、かなり大きいことです。
──
タテつまり「上の人」に、わかってもらうこと?
中原
管理職を動かすことは
「組織を変える」際には、きわめて重要です。

英語では「マネージングアップ」とか
「ボスマネジメント」とも言いますね。
──
なるほど。
中原
ようするに
「自分と同じ船に乗ってくれる仲間」には
「同僚・同期」と
「上司・ボス」が必要だということです。

水平方向と垂直方向の2正面作戦で、
仲間を探しに行くのがいいと思います。
──
単なる「上下の衝突」になってしまわないためにも。
中原
そして、もうひとつの重要なこと。
それは、職場が「変だ」と思っても、
そのまま「変です」と言わないこと。
──
はー‥‥。
中原
職場とは、
さまざまな利害関係が渦巻いている場です。

「同じ船」に乗ってもらうためには、
相手の利害や関心に応じて、
自分の思いを「翻訳」しなくてはなりません。
無駄に「変だ」と言ってしまうと、
周囲の怒りや反感を買うだけになってしまいます。
──
たしかに、そうなんでしょうね。
中原
その職場ではたらいてきた人たちにとって
「ここ、変ですよ」なんて言われたら、
自分自身を否定されているような気になるはず。

そんなことをしたら
「心理的な抵抗感」を生みだしてしまい、
組織はもっと「頑な」になっていきます。
──
言ってることは「正しい」かもしれないのに、
聞き入れてもらえなくなってしまうと。
中原
自分が「正しい」と思うことをいうときほど、
「相手の立場」に立っても「正しいか」を考えること。

そして、職場のみんなが乗れる
「あかるいストーリー」をつくってあげることが
重要かなと思います。
──
なるほど。あかるいストーリー。
中原
質問の方は教員だということですが、
今、教育現場では
「長時間労働」の問題が深刻なんです。

学校の先生って、「11時間40分」くらい、
はたらいている地域もあるんですよ。
──
え、平均で、ですか。
中原
そう。めちゃくちゃでしょう。
平均ですから、当然、もっと長い日もある。
──
それは、大変……。
中原
でも、そこで
「こんなに労働時間が長いなんて、
絶対におかしい!」
と職員室で叫んだところで、
むずかしいと思うんです。

他の先生方を動かすことは。
──
ええ。
中原
多くの先生方は、それまで、
そうやって子どもたちと接してきたんです。
そこには個人の思いや考え、
過去の経験が積み重なっている。

それを「変です」と言われても、
素直には聞き入れられないと思います、ふつう。
──
そう思います。
中原
そういうときにこそ
「あかるいストーリー」が必要なんです。

もし、労働時間を短縮したら
「こんないいこと」が
子どもにも、自分にも、
学校にも起こるかもしれないという、ストーリーが。
──
そのストーリーのもとで、
ヨコとタテとに
仲間を見つけにいくことから、はじめる。
中原
まず、はたらきかけるのは「タテ」でしょうね。
管理職や、上の先生で、
思いを共有できる人はいないでしょうか。

そのうえで、彼や彼女を中心にして、
何らかの取り組みをはじめることも一計です。
基本は「できることから、無理せず、はじめる」
じゃないでしょうか。
──
できることから。
中原
最初から、あまりハードルをあげてもね。
ほんの少しのことでいいから、
はたらきかたを見直す努力を、
できるところからはじめる。

目を三角にしながら怒りに震えて
「労働時間、短縮!」って
シュプレヒコールを上げるよりも、
仲間を増やしていくのがいいと思います。
──
たしかに、深刻な訴えばっかりでは
「乗っかりにくい」し、
そこに「あかるいストーリー」があれば、
乗っかれそうな気がします。
中原
組織を内部から変えるときって
「心理戦」なんです。

組織を変えるのは
「人の心」を扱わなきゃならないんです。
だから、むずかしい。
──
組織というものは
「そんなに急には変わらない」ものですか。
中原
急には、むずかしいでしょうね。
組織というのは、
もともと変わりにくいものですし、
どんなにフレキシブルな組織でも
自己変革にはそれなりの時間がかかります。

今、トヨタさんが
「クルマの会社」じゃなくて
「モビリティカンパニー」になるんだって
言ってますよね。
──
ええ、テレビでCMもやってますね。
中原
社長の豊田章男さんが旗振り役ですけど、
すごく苦労なさっていると思うんですよ。
頭が下がります。

組合との団交のときに
「席次」を変えたりとか、
中間管理職にはたらきかけたりとか。
細かいチューニングを続けてらっしゃいますので。
──
大きな組織の意思決定には、
やはり時間がかかるんですね。
中原
組織というのは、
一人では達成できない目標に向かって、
大勢のちからを合わせ、
成し遂げるための集団ですよね。

人が入れ替わったり、環境が変わったくらいで、
簡単に変わっちゃダメな側面もあるんです。
──
組織とは、そもそも「頑固」であると。

人間って、
簡単に現状を変えられないくらいには
「保守的」だということでしょうか。
中原
組織の変革には、
手間と時間がどうしてもかかります。

だからこそ、みんなを巻き込んでいけるような
「ぐっとくる目標」
「あかるいゴール」が必要なんじゃないかな。
──
孤軍奮闘に陥ることなく、
水平方向と垂直方向に「仲間」を見つけ、
あかるいゴールを掲げること。
中原
それでも変わらず、
そのことに納得できないなら、
みずから「居場所を変える」ことを考えたほうが
いいかもしれないですね。
──
職場を変えるということですね。

ちなみに、先生が
「学び」とか「人材開発」の研究をはじめたのは、
どうしてなんですか?
中原
誰もやってなかったからですね。

そして、
ぼくがやらないと、誰もやらない、とも思った。
──
そうなんですか。
じゃ、先生がはじめたんですか。
中原
人材開発という研究領域を立ち上げようと
奮闘してきたことは、たしかです。
人材開発という研究領域は
「学び・教育」と
「経営・組織」のちょうど中間にある研究。

でも、そのどちらでもないんです。
──
と言いますと?
中原
「学び・教育」の観点からすると
「会社って、金儲けの場でしょ?
会社は、人の学びの場じゃないよね」と考える。

他方で「経営・組織」の観点からすると
「出入りの激しい人の学びに投資するくらいなら、
人は変わったとしてもまわる組織をつくり出そう」
と考える。
──
なるほど。
中原
だから「人材開発」って、
エアポケットみたいな領域だったんです。

でも、新橋の飲み屋のサラリーマンの愚痴を
聞いていたら、たいがい
「あいつはできる、あいつはできない」とか
「仕事のスキルがうんぬん」みたいな、
人材の話ばっかりなんですよ。
──
そうかもしれない。
中原
つまり、はたらく人びとのイシューなのに、
学術的なイシューになってなかったんです。
──
そこで「人材開発」という学問領域を、
立ち上げようとしたんですか。
中原
既存の学問分野の体系の下でやってく気が、
あんまりなかったんでしょうね。
新たな「領域」をつくっていこうと思っていました。

それ以来「人材開発」や「組織開発」について
研究してるんですが……
今やっと「領域」としての認知が
広まりつつあるところかな。
──
じゃあ今、
先生も「仲間を集めているところ」ですか。
中原
そうですね、そういう意味では。

前の職場の東大でも、
人材開発の研究者養成を行っていましたが、
それを、さらに広めたかった。
そこで、立教大学に
昨年度から研究室のみんなで移籍し、
研究をしています。
──
研究室ごと。
中原
立教大学は、リーダーシップ研究が盛んで
「人」に関心のある方が多い印象を持ちます。

2020年からは、
人材開発・組織開発・リーダーシップ開発を
行うことのできる
プロフェッショナルを養成するための大学院コース
「リーダーシップ開発コース」
も立ち上がりました。
──
つまり先生も、
この質問に対する実践者のひとり、
なわけですね。

既存の大学教育にはなかった、
新たな「学」を立ち上げつつあるという点で。
中原
だから「仲間を増やす」という意味では、
まずは大学院生を育てて、
いろんな視点から
研究を盛り上げてもらうところから、
はじめようと。

その後、
大学院に専門のコースもできたんですが、
まあ、やっぱり、
なかなか長い旅になりますね(笑)。
──
先生のゼミに入りたい学生を増やすには
「おもしろそうだな」
と思われることが重要なんでしょうね、
今日の話でいうと。
中原
今の新型コロナウィルスの感染拡大で、
今年の学部ゼミは、
すべて「オンライン」にしちゃいました。

学生と相談して、
彼らが動いてくれて、実現したんです。
──
おお、すべて、ですか。
中原
それも、さっきの話と同じで
「コロナウィルス感染拡大によって、
教室に大勢で集まれません。
なので、
ゼミもオンラインでしか開催できません」
と言ったって、
ぜんぜん楽しそうじゃないですよね。
──
後ろ向きですもんね。表現が。
中原
それじゃあ、誰も「乗ってくれない」です。

だから「中原のゼミでは、
すべてをオンラインでやることに挑戦します。
そして、世界トップクラスの
オンライン・ゼミを目指したいと思います」
と言ってるんです。
──
あかるいゴール!
中原
挑戦しがいのある目標、
みんなが燃えるストーリーを掲げること。

そういうことが、
やっぱり、大切なんだろうなと思います。
【2020年3月31日 東京都豊島区にて】

このコンテンツは、
ほんとうは‥‥‥‥。

今回の展覧会のメインの展示となる
「33の悩み、33の答え。」
は、「答え」の「エッセンス」を抽出し、
会場(PARCO MUSEUM TOKYO)の
壁や床を埋め尽くすように
展示しようと思っていました。
(画像は、途中段階のデザインです)

照明もちょっと薄暗くして、
33の悩みと答えでいっぱいの森の中を
自由に歩きまわったり、
どっちだろうって
さまよったりしていただいたあと、
最後は、
明るい光に満ちた「森の外」へ出ていく、
そんな空間をつくろうと思ってました。

そして、このページでお読みいただいた
インタビュー全文を、
展覧会の公式図録に掲載しようか‥‥と。
PARCO MUSEUM TOKYOでの開催は
中止とはなりましたが、
展覧会の公式図録は、現在、製作中です。

書籍なので一般の書店にも流通しますが、
ほぼ日ストアでは、
特別なケースに入った「特別版」を
限定受注販売いたします。
8月上旬の出荷で、
ただいま、こちらのページ
ご予約を承っております。

和田ラヂヲ先生による描きおろし
「はたらく4コマ漫画」も収録してます!
どうぞ、おたのしみに。