第7回 ゼロになって、もがく時期。

糸井
出口さんは、40代のときに
ほとんどの本を捨てたということですけど、
読書家である出口さんが
今でも「本」に対して恩を感じているのは、
すごく感じるんです。
出口
ええ、恩人です。
糸井
でも、本をお読みになって得た知見を
みんなに伝えてますから、
それって
本に対しても「恩返し」してますよね。
出口
そうなんでしょうか。
糸井
出口さんは、記憶力がいいんですけど
ぼくは、本当に記憶力がわるいんです。

本を読んでも、中身を忘れちゃうんです。
「よかった」くらいしか憶えていない。
出口
いやいや、それで十分だと思いますよ。

ぼくだって、本当におもしろい本は
「めちゃめちゃおもしろかった」くらいしか、
憶えてませんから。
糸井
そうですか。
出口
かえって、
つまらないのに名著とされている本のほうが
「何で、これが?」とか考えながら読むので
妙に内容を覚えていたりします(笑)。
糸井
なるほど(笑)。

今日のお話、
キーワードはいろいろ出てきましたけど
ひとつ挙げるとすれば
「楽」とか「おもしろい」ですよね。
出口
死ぬ直前、意識がなくなる前に
「あんなこと、やっとけばよかったよなあ」
と後悔するのはイヤなので
「悔いなし遺産なし」とかアホなことを
言ってるんですけど、
やっぱり、やりたいことはやっといたほうが
絶対に、おもしろいと思います。
糸井
楽しいことをしている時間は短いって
よく言いますけど、
極論すると「ゼロ」に近づくと思うんです。
出口
なるほど。
糸井
3日くらい、ずっと一緒にいたのに、
「キミといる時間は本当にあっという間だった」
という場合の「キミ」は
本当に「最高のキミ」だったんだと思うんです。

その理屈で言うと、死ぬ直前に
「うわあ、短かった!
 俺、生きてなかったような気さえする!」と
言えたら最高ですよね。
出口
それは、すごい境地ですね(笑)。
糸井
たしかに「人生、思えば長かった」とか、
口では言えるんだけど
それは、やっぱり「数えてる」んですよ。
出口
なるほど。
糸井
つまり、数え挙げればいっぱいあるんです。

でも「去年1年、俺、何やったんだろう?」
と思い返すと、
やっぱり「あっという間だった」なんです。
出口
ええ。
糸井
だから、ぼくはぼくなりに
楽しくやってたんだろうなって、思います。
出口
それって、いちばん充実してるのかも。
糸井
死ぬ前に「俺、生きたっけ?」って(笑)。
出口
そう思えたら、最高なんでしょうね。
糸井
ぼく、むかしからよく言ってるんですけど
若いときのツケの請求書が
40代で、ドカッと一気に来るんですよ。
出口
ああ、そうかもしれません。
糸井
一回、疲れのピークが来るのも40代。
出口
その意味でも
「ツケをぜんぶまとめて払うタイミング」が
「40代」なのかもしれませんね。
糸井
たしかに借りがあったなあってところから、
請求書がぜんぶ来て
ぜんぶスッキリ払ってゼロになるんだけど
経験だけは残るから、後半も走れる。

すくなくともぼくの40代は、そんなふうでした。
出口
いやあ、わかります。すごく、そう思いますね。
糸井
‥‥いま、同い年という感じがすごくしました。
一同
(笑)
出口
ぼくが、40代の前半で本をぜんぶ捨てて
ロンドンへ行ったのも、
それまでのツケを払って、
溜まった「しがらみ」のようなものを
一回キレイにしたかったのかも。
糸井
今日のお話って、大きく、漠然とは
「のびのびしたい」ってことじゃないですか。
出口
ええ。
糸井
仕事でも、のびのびさせずにやったことって
自分にも他人にも、無理をさせてる。

昨日、ある会社の社長と話をしていたとき、
「社員に向かって
 すべてを思うように動かせる社長なんて
 世の中にひとりもいないです」
と言ってましたけど
それは、みごとに、その通りだと思います。

社長なんだから
何でもやれるだろうって思われがちだけど。
出口
ええ。それはぜんぜん、ちがいますよね。

よく、会社の「えらい人」が
若いやつを鍛えてやるとか言いますけど。
糸井
ええ。
出口
ぼく、そういう言い方をするような人には
「それを会社でやる前に
 家で、自分のパートナーにやってごらん」
と言うことにしてるんです。

だって、そんなことしたら
逃げられちゃうかもしれませんもん。
糸井
ええ、ええ。
出口
あとは「あそびは大事」ってことでしょうか。
糸井
それと「放し飼い」のすすめ、と。
出口
衣食「楽」足りて礼節を知り、
40代は、ツケを払ってキレイになる時期。
糸井
ゼロになって、もがく時期ですよね。
で、50になると、けっこう何でもできるぞ、と。
出口
そう思います。
糸井
いやあ、とっても、おもしろかったです。
今日は、ありがとうございました。
出口
こちらこそ、楽しかったです。
何を話したか忘れちゃったくらいに(笑)。
<終わります>
2015-03-03-TUE

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この連載のタイトルにも
「何でもできる50歳」とありますが、
本書の副題には
「『無敵の50代』になるための仕事と人生の基本」
とつけられています。
目次からいくつか拾ってみると
「50代ほど起業に向いた年齢はない」
「40代になったら得意分野を捨てる」
「仕事は楽しさで決まる」
‥‥などなど、
今回の対談で話されていることが
いっそう深く、詳しく語られています。
いま40代の人も、これから40代になる人も
「50歳は人生の真ん中」という
出口さんの言葉に希望を感じ、
同時に、やる気を掻き立てられるはず。
本連載を「副音声」のようにして読んだら
いっそう、おもしろいと思います。

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