プロ野球選手の孤独。  ──原辰徳の考えるチームプレー。
第1回 大人になった野球選手たち。



糸井 さて、いよいよ今シーズンの話ですけども、
あの、去年は、ぜんぶ優勝しちゃったっていう、
いってみれば役萬みたいな年で。
(※2012年のジャイアンツは、交流戦、
 ペナントレース、クライマックスシリーズ、
 日本シリーズ、アジアシリーズ、
 すべてに優勝し、5冠を達成)
なかなかないことだと思うんですよ。
うーん、まぁ、道のりは険しかったし、
ほんとに我々としてはね、
ぎりぎりのところで、まぁ、勝てた。
簡単ではなかったですけど、でも、
大事なゲームはことごとく取ることができた。
糸井 うん、そういう年でした。
それはよかったなと思いますね。
糸井 で、そういう年のあとというのは、
どういうふうに気持ちを切り替えて、
あるいは高いモチベーションを維持したままで
戦っていくんだろうと思うんです。
つまり、今年のジャイアンツですね。
ああ、はい。
糸井 ぜんぶに優勝した年の翌年に、
チームを率いる監督としては、
どういうビジョンを描いて、
新しいシーズンに向かっていくのか。
そのあたりの話をお聞きしたいんです。
あの、さっきも言ったように、
我々もほんとにぎりぎりの戦いのなかでね、
ああいう結果を得ることができた。
僅差の戦いではあったけれども、
しかし、相手チームというのは、
やっぱり、完全に巨人にやられたな、
と思っているでしょう。
ですから、やっぱり、
「打倒ジャイアンツ」ということを掲げて
今シーズンを迎えていると思うんです。
糸井 そうですね。
そして、私自身、2002年、2009年と、
過去に2回の日本一を経験しましたが、
つぎの年に連覇というものに挑戦しましたけれど、
いずれも、まぁ、かなわなかったと。
糸井 はい。
ですから今年はですね、
その連覇というものを、
大いに意識しろと選手に言ってます。
糸井 ああー、はい、はい。
相手チームは、当然、今年は
「打倒ジャイアンツ」ということで
向かってくるであろうと。
ローテーションも崩してでも、
エースピッチャーをジャイアンツに当ててくる。
去年、すばらしい結果を残した、
阿部、内海といった選手に対しても、
当然、研究して、マークしてくるはずだと。
糸井 そうですね。
去年、我々はすばらしい結果を残した。
けれども、やっぱり、
長所ばかりじゃなく、欠点もあった。
相手はおそらくそういったところを分析して、
「打倒ジャイアンツ」ということで、
きっと束になって向かってくるぞと。
糸井 うん、うん。
そういうことを十分にわかったうえで、
しかし、それを跳ね返すんだと。
そのつもりで戦おう、
と選手たちには言いました。
立ち向かってくる相手を跳ね返して、
「連覇を意識しよう」と。
糸井 はーー。
完全に連覇を意識して、
それを受け止め、そして、跳ね返す。
そういうふうに戦っていこう、と言いました。
まぁ、いつもは、「昨年は昨年だ」と。
糸井 うんうん、言いますよねぇ、よく。
そうですね。
「昨年は昨年、今年は横一線からのスタートだ。
 切り替えて行こうじゃないか」
というふうなことで、スタートしていくんです。
実際、前回、前々回と日本一になったあと、
そういうふうに言って切り替えていったんですが、
やはり、連覇はできなかった。
糸井 つまり、優勝した翌年というのは、
1試合1試合が、よりハードになってくるわけですね。
そのときに、「また横一線からのスタートだ」
という意識でいると、「打倒!」と思っている
相手のほうが上回ってしまう。
そのとおりです。
だから、今年はもう完全に意識して行こう、と。
相手はジャイアンツに勝つことを
はっきりと目的にして向かってくるわけですから、
こっちもそれをしっかり意識して戦うんだと。
そういうことでスタートしているんです。
糸井 選手に、それは通じてますか。
と思います。
糸井 具体的には、
どういうことがカギになってくるんでしょう。
まぁ、言えないこともあるでしょうし、
簡単にまとめられることではないと思いますが、
たとえば、守りなのか、機動力なのか‥‥。
ひとつあるのは、
2年前からボールが変わりました。
糸井 はい。
(※2011年、各球団の使用するボールを統一し、
 WBCなどの国際試合で使われる仕様に
 近づけるという目的から、
 それまで使用していたボールよりも
 低反発のボールを全球団で採用。
 結果、ホームラン数が大きく減少した)
ボールが変わったことによって、
野球というものが、変わりました。
なにが変わったのかというと、
簡単にいえば、点数が入りづらくなった。
糸井 そうですね。
その結果、「1点の重み」というものが
非常に大きくなりました。
そして、まぁ、試合の大きな傾向としては、
起死回生の逆転ホームラン、みたいな、
ドラマティックな展開も少なくなってきた。
糸井 はい。
となると、やっぱり、いかに
1点、1点を積み重ねていけるか。
そういう点では、守りの野球であり、
ひとりのプレイヤーのひと振りというよりも、
「チーム全体での攻撃力」というものが
大事になってくる。
糸井 しかし、その、「1点の重み」というものを、
全部のチームが意識はしたと思うんですけども、
それでも、紙一重の違いがあるわけですよね。
そうですね。
糸井 その違いというのは、
どういうところなんでしょうか。
やっぱりぼくは、
点が入りづらい野球になったときに、
個人の確率に任せっきりの野球をしていたのでは、
勝率が上がってこないと感じたんですね。
昨年も、シーズン序盤は、
1対0、2対1、という僅差の試合を
ことごとく落として
借金7まで行ったわけですから。
糸井 はい、はい。
そのときに、これではダメだなぁということで、
選手に任せる、という個人技の部分のほかに、
「ここは譲れない」というチームプレーの指示、
これを戦術のなかに入れていきました。
糸井 ああー。
具体的には、チームの中軸を打っている
(阿部)慎之助にバントのサインを出す。
そうすると、チームは引き締まります。
あるいは、村田にもバントのサインを出す。
糸井 ありましたねぇ。
そうするとチーム全体が、
村田さんが、阿部さんが、ということで
状況によって「譲れないチームプレー」が
あるということを、はっきりと理解する。
こういったことの積み重ねが、
非常にいい方向に作用したと思います。
糸井 違う言い方をすると、
徹頭徹尾チームプレー、自己犠牲、
ということではないわけですね。
はい。
ときに個人技、ときに譲れないチームプレー。
いまの野球においては、このバランスを
うまくとっていかなければならないと思いますね。
糸井 なるほど。
(続きます)

2013-04-10-WED