とんでもない、原丈人さん。 次の時代のヒントは、この人のなかに?  第2部 「コンピュータ以上に便利な道具」と 「新しい株式市場」をつくるという話

第5回 アメリカ共和党ビジネス評議会で名誉共同議長をやっている本当の理由

糸井 会社というのものは
少なくとも「株主のものだけではない」と。
そうです。

たとえば、従業員の家族の健康まで
企業がケアするということと、
企業の業績とのあいだに、どんな関係があるのか、
数学的には説明しづらいですよね。
糸井 ええ、はい。
で、数学的にモデル化できるところだけを
取り出すのが、アメリカ型の理論経済学。

ですから、数式で説明できないような部分は、
「サイエンスじゃない」といって、
すべて、切り落としてしまうんですよ。
糸井 なるほど。
そして「会社は株主のものである」ことだけは
しっかりとロジカルに説明する。

それが、
現在のアメリカの主流を占める経済学なんです。
糸井 逆に言うと、そういった説明しづらい部分を
ロジックでカバーできるところまで、
学問のほうが追いついてないとも言えますね。
そうそう、まさしくそのとおりなんです。

でも、アメリカという国では、
アメリカンドリームを成し遂げること、
つまり
「無一文からでも、
 どれくらいのお金を稼げるか」が
ほとんど唯一の成功の証になっちゃってるから。
糸井 しかも、日本にいてさえも、
そういうアメリカ式の考えかたに対して、
「オレは納得しないぞ」って気分が、
なんだか押さえつけられちゃってますよね。
ええ、残念ですけど、たしかにそうです。

ただね、たとえば『ビジネスウィーク』みたいな
アメリカのビジネス誌に登場してくるCEOの
トップ20人くらいの平均退職金って
たぶん、百何十億円くらいだと思いますけど‥‥。
糸井 平均で?
ええ。

CEOの平均年収だって
一般社員の平均給与の400倍以上になります。
糸井 ‥‥はぁ。
お金って、そんなに、要りますか?
糸井 意味ないですよね。
そのとおり、意味がない。

もちろん、まったくなかったら困るけれど、
ある一定量を超えて持ってる意味などない。

でも、アメリカンドリームという価値観の
まっただ中にいる人には、そうは思えないんですよ。
糸井 そうなんでしょうけど‥‥。
今やアメリカでは「収入上位1%」の層によって、
「全収入の22%」が、占められています。
糸井 つまり、ものすごい貧富の差だと。
そんな社会、どう考えても、ふつうじゃない。

そればかりか「会社は株主のものである」と
信じられているおかげで、
儲かったら儲かったで、
「株主をもっと儲けさせるため」に、
「従業員をクビ」にしたりしてるんですよ。
糸井 それって、短期的には
そういう結果をもたらすのかもしれませんけど‥‥
長期的に見たら、絶対まちがってますよね。
あるいはね、在庫リスクを抱えたり、
研究開発に時間がかかるような業種じゃなく、
そういうものの必要ない
「お金そのもの」で商売をやっている。
糸井 つまり「金融」ですね。
それがいちばん儲かる職業とされてる。
糸井 うん。
アメリカでは、金融こそがもっとも効率よく、
もっとも魅力のある商売。

そこで、ハーバードやスタンフォードの
ビジネススクールを出たら、
お金を稼ぐことだけに生きがいを感じるやつは
みんな、金融の世界へ入っていくんです。
糸井 なるほどなぁ。
アメリカ型の経済体制を指して
「金融資本主義」と呼ばれるゆえんです。

でもその結果、アメリカに何が起こったか?

世界に迷惑をかけたサブプライム問題、
そして金融バブルの崩壊という出来事。

その次は
排出権取引というバブルも待っているでしょう。

地球環境保護の流れを活用して
儲けのねたを作るのだから頭はいいですよね。
糸井 うん、うん。
だから、21世紀のアメリカンドリームとは
「病」であると
ことあるごとに、主張していたんですけど‥‥。
糸井 聞く耳を持たない?
いや、アタマにくるんでしょうね。

「おまえは共産主義者か!」と
言わんばかりに、怒りだすんです。
糸井 はぁ‥‥。
イデオロギーの善し悪しは別にして、
アメリカで「共産主義者」と呼ばれることって、
ビジネスをやっていく上で、致命的。

もう、たいへんなハンデを背負わされる。
糸井 そうやって追放されていった人たちが
山ほどいますもんね。
だからわたしは、
共和党のつくった組織の名誉共同議長を
やってるんですよ。
糸井 ええ、はい、はい‥‥ああ、なるほど!
つまり、反共保守派の政党である
アメリカ共和党の議長が
共産主義者であるわけないからね。
糸井 ‥‥すごいな。
そういう効果がなかったら
別に要らないんですよ、あんな役職は。
糸井 そうか、そうか‥‥。

いくつもある原さんの肩書きを眺めながらね、
「なんだこれ?」って思ってたんですよ。

うーん、見事すぎて、気持ちいいくらいです。
わたし、共産主義者じゃないんですけどね‥‥って
いちいち説明するのも、めんどくさいでしょう。
糸井 アメリカ共和党
ビジネス・アドバイザリー・ボード評議会
名誉共同議長‥‥原丈人。
社会主義者、共産主義者のレッテルを
貼られないようにするため。

ただ、それだけの理由で、やってます。
糸井 恐れ入ったなぁ。
でもね、こうやって批判ばかりしていても
これもまた虚しいんで。
糸井 ええ。
株価の「時価総額」に汲々とするってことが
「どれだけ意味のないことか」を、
経済学的に証明してやろうと思ってるんです。
糸井 これから?
若手の学者を集めて、研究資金を与えてね。
糸井 攻勢に転じるわけですね。
現在の主流経済学派が
理論のよりどころにしている数学を使って、
「時価総額」を至上とする経済思想が
どれだけまちがっているのかを、証明する。
糸井 それができたら、一変しますよね。
その仕事に、着手したんです。
糸井 おもしろい。
パラダイムがシフトしますよ。
糸井 最高。
  <続きます!>

2008-09-12-FRI

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