とんでもない、原丈人さん。 次の時代のヒントは、この人のなかに?  第2部 「コンピュータ以上に便利な道具」と 「新しい株式市場」をつくるという話

第2回 掘り出した壷を復元するために 世界初のデータベース技術を開発

医学、分子生物学の世界的な権威である
京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)教授や
東京大学の上代淑人教授、新井賢一教授や、
ノーベル賞を受賞したシドニー・ブレンナー教授など、
みんな、わたしの師匠である
アーサー・コーンバーグ先生に紹介いただきました。
糸井 つまり第一級の研究者と同門なわけですね。
コーンバーグ先生、
そういう世界的な研究者たちに、
電話や手紙で、わたしのことを紹介してくれるんです。

で、わたしには「おもしろいから、会ってこい」と。
糸井 「紹介しといたから」と(笑)。
他ならぬコーンバーグ先生からの口添えですから、
こんな門外漢にも会ってくれて、
わたしの考古学の話なんか聞いてくれたりしてね‥‥。

とくに、京大の本庶先生が会長のとき、
日本生化学会で基調講演ををすることになったり、
ハーバード医学部や、
サンタフェ研究所で話したり‥‥。
糸井 元考古学者が、何を話すんですか?
「ライフサイエンスと
 インフォメーションテクノロジーは
 根本原理がいっしょです」と。
糸井 へぇ。
‥‥そんなね、専門家の集まる場所で
今まで誰からも聞いたことのない話を
大真面目でするやつが出てくると
これがけっこう、いい反応でかえってくるんです。
糸井 もとはといえば「虫刺されでこまる」から‥‥
生化学会で基調講演ですか。
まぁ、そうです(笑)。
糸井 原さんって、いろんな経験をされてるだけじゃなくて、
それらを、かならず「実用」につなげますよね。
運がいいのかもしれないね。
糸井 いやいや、そのお仕事のひとつひとつで
おおぜいの人を助けているし、
しかも、ビジネスとして
きちんと成り立たせてるじゃないですか。
いちばん大切にしていることですから、それは。
糸井 なにより、原さん自身、楽しんでらっしゃる。

今日は、そのあたりのこと‥‥つまり
「原さんのお仕事のしくみ」と言ったらいいのかな、
そんなことについて
ちょっと聞かせていただけたらなと思って。
うーん‥‥わたしの仕事について言いますとね、
いろんなところで
やはり「そもそもの原点」に立ち戻るんですよ。
糸井 つまり、考古学?
とくに「技術開発」について言えば、
考古学に使えないものには、あんまり興味ない。
糸井 ほう‥‥。
そうですね、なにか例を挙げると‥‥。

たとえば、掘り出した「壷」のカケラから
もとのかたちを復元するのって、
ものすごく技術が必要だし、時間もかかる。
糸井 そうでしょうね。
このガラスのコップが割れたとしましょう。

割れたのが、この「1個」だけだったとしても
もとに戻すのって、ほんとにタイヘン。
糸井 ええ。
つまり、1個だけでもタイヘンなのに、
じつは、2つも3つも割れてたら?

コップのカケラの山から、
「もともと2つだったのか、3つだったのか」を
判定するだけでも、
タイヘンそうだと思いませんか?
糸井 思います。
そこで「壷のカケラ」という「かたち」を
情報として扱うことのできるデータベースを
つくろうと思ったわけです。
糸井 それはつまり、効率よく壷を復元するために?
そうです。

でも、それまでのデータベースといったら、
「文字」と「数字」しか扱えない。

「壷のカケラ」という「かたち」を扱うには‥‥。
糸井 「そういうデータベース」を
開発しなければならないわけだ。
ちょっと専門的になりますが、
「オブジェクト指向データベース」と
呼ばれているものです。
糸井 ほう、ほう。
で、そうと決めたら、
「そういうデータベースを研究している人」を
探しにいくんですよ、まずはね。
糸井 はじめは「人」なんですね。
そう、人ありき。
糸井 前回おうかがいした「XVD」のときも、
ロシアで研究者を見つけ出し‥‥。
はい。で、そういう研究者を見つけ出し、
「かたち」を集積管理できる
オブジェクト指向データベースを完成させた。
糸井 おお、できたんですか。
でも、それまでの「文字」や「数字」を扱う
「リレーショナルデータベース」とは
そもそもの原理がちがうために、
こんどは「互換性がとれない」という問題が生じて。
糸井 また、困っちゃったんだ。
英語とフランス語でしゃべりあってるみたいで、
コミュニケーションがスムーズにいかなくて、
お互いに意味がわからず、まことに不便なわけ。

次はだから、そのふたつをつなごうと。
糸井 「かたち」と「数字」を。
新しい「オブジェクト指向データベース」と
従来の「リレーショナルデータベース」を
たがいに翻訳するような
最新の数学を研究している人を、見つけ出して。
糸井 こんどは、その役割の人なんですね。
ま、細かいところははしょりますけど、
そんなふうにして、
世界ではじめての
「オブジェクト指向型かつリレーショナル」な
データベース技術を、完成させたんです。

当時、1993年のことでしたけどね。
糸井 ほぉ‥‥。
その会社は、
のちにインフォーミックスという会社と合併し、
最終的にIBMといっしょになった。

そして、われわれが完成させたデータベースは、
世界第2のソフトウェア会社である
オラクルに採用され、
世界中の企業や官庁、学校など
ありとあらゆる場面で、
いろんな用途に、使われるようになったんです。
糸井 なるほどなぁ。
まぁでも、そうやって完成させた
「オブジェクト指向型かつリレーショナル」な
データベース技術でも
「まだまだダメだ」ということが、
90年代の終わりくらいには
わたしには、わかってきたんですけどね。
糸井 はじまりは‥‥ツボ。
そう。
糸井 壷のカケラですよね。
そうです。
糸井 たまんないなぁ。
だからやっぱり考古学なんです、わたしは。
糸井 いままで、何人もの考古学者たちが
「壷のカケラ」を見つめてきたと思うんですよ。

どうにかして、少しでも、
復元の手がかりをつかもうと思って。
考古学者なら、当然ですけどね。
糸井 でも、原さんは「壷のカケラ」を見つめなかった。
だって、いっぱいありすぎるからね(笑)。
糸井 代わりに、
まだ見ぬ新たな「データベース」を見つめた。
うん。
<続きます!>

2008-09-09-TUE

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