原丈人さんと初対面。 考古学から『21世紀の国富論』へ。ベンチャーキャピタリストの原丈人さんと 糸井重里が会いました。 最初、コンテンツにしようなんて 考えてなかったのですが そのときの話が、とにかくおもしろかったのでした。 考古学者のたまごから 世界が舞台のベンチャーキャピタリストへ。 一歩一歩、「現場」をたしかめながら歩んできた 原さんの「これまで」と「これから」。 そこにつらぬかれている「怒り」と「希望」。  ぜひどうぞ、というおすすめの気持ちで おとどけしたいと思います。 ぜんぶで10回、まるごと吸いこんでください。 あなたなら、どんな感想を持つでしょう。


第3回 慈善事業よりも、使えるお金を大きくする方法。
いま、積極的にやろうと思ってるのは、
日本のお医者さんのプロジェクトなんです。
糸井 はぁ、お医者さんですか。
この平和な日本という国で
6年間、医学部に通ったら医者になれてしまう。

将来の食いっぱぐれもなさそうだし、
女の子にだって、もてるだろうし。
糸井 だから、医学部に入りさえすれば‥‥って。
でも、その結果ですね、
なんのために医療に携わっているのかという
自覚のないまま、
医者になってしまう人が多いじゃないですか。

糸井 医者としての理念を持ってない‥‥。
そこで、アジアのなかでもいちばん貧しい
バングラデシュという国で、
医療と教育を改善するための事業をはじめたんです。

糸井 バングラデシュ、ですか。
ええ、バングラデシュという国は
幼児死亡率が非常に高いんです。

6人に1人の子どもが
3歳までには、死んでしまう。

そんな国に、たとえば
日本の若い医学部生に行ってもらうと。
糸井 うん、うん。
かたわらで子どもたちが、バタバタ死ぬんですよ。
放っておいたら。

つまり、自分の手で子どもが死ぬのを
助けられるんです‥‥というか、助けざるを得ない。
糸井 そういう経験をしていたら、
きっと、いいお医者さんになるでしょうね。
ええ。それと、もうひとつ。

バングラデシュという国は
平均年収が100ドル、
日本円に直すと12,000円ぐらい。

GDPにすると、だいたい1人1日、1ドル強。
年でいうと400ドル前後で
ほんとうに貧しい国なんです。

人口は約1億4,000万人で、日本より多く、
面積は北海道の約1.7倍という小さな国。
糸井 最近、ニュースでもやってましたけど、
洪水で水に浸かってたりしてましたね。
で、なんで貧しいかっていうと、
ひとつ、「教育」の問題が大きいんです。
糸井 つまり、遅れている?
はい。たとえば、
大人の2人に1人以上、字が読めないんです。
糸井 識字率が、5割以下。
で、どういうところから
教育を改善しなければならないかというと‥‥
まずね、「教師」がいないんです。

学校だけなら
35,000校くらいあるんですけれど。
糸井 教える人がいないんですね。
だから、それらの学校どうしを
ワイヤレスの
ブロードバンドの先端技術でつないで‥‥。
糸井 ああ、放送大学だ。
しかも、大画面のハイビジョンでね。
日本にもまだないような技術です、これは。
糸井 すごいな‥‥それは。
で、この改善事業、「慈善事業」では、やらない。
糸井 つまり、その事業を通じて利益も上げようと、
そういうことですか。
そういうことです。
糸井 でもそれ、儲けようって動機というよりも‥‥。
非営利団体がやるような事業を
営利の組織でやることによって、
税引前利益の40%を、投下できるんです。
糸井 ようするに、非営利でやるよりも
使える金額が大きいということですね?
そのとおりです。

しかし、話だけでは信用されないので、
まずは成功例を作って、そのうえで、
そうした仕組みを
作りやすくするための法律を提言する。

ですから、そのために、
日本政府の委員会にも入ったりもしてるんですよ。
糸井 そうやって政府の側にいるのって、
やはり、そっちのほうが合理的だからですか?
たとえば、民間の経済団体の会長なんかが
首相や所管大臣に報告書を提出するとしますよね。
民間ができることは、そこで終わり。

で、その報告書どうなってます、いつも?
糸井 握りつぶされる‥‥ことが多い。
そう。テレビや新聞のうえでは、
報告書を渡してる場面なんが報道されるかもしれない。
でも、大部分、そこで「終わり」なんです。
糸井 だから、報告書を「もらう側」にいるんだ。
ええ、報告書をもらって、党で議論をしたり、
政府の委員会で政策を決定していく。

つまり、法案をつくるところにいたほうが
ぜんぜん、効率がいいんですよ。

糸井 徹底的に、合理的なんですね。
ええ、時間がないんで、わたしには。

2007-11-22-THU

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN