HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

「すごいお母さん」の挑戦、第2弾。瀬戸内海を元気にしたい。「すごいお母さん」の挑戦、第2弾。瀬戸内海を元気にしたい。

フランスの
石屋さんを招く。

──
塩飽諸島を元気にしようと思って、
最初に行かれたのが、フランス大使館ですか。
尾崎
はい。こんなことで大使館にお話をしに行く人は
あまりいないでしょうね(笑)。
彼らもビックリしたんじゃないかと思うんですけど、
文化担当、広報担当、観光担当といった方々が
集まってくださったんです。
──
そうそうたる方々が、
尾崎さんの目の前に。
尾崎
私ひとりの力じゃないんです。
「四国夢中人」の還暦ギャルが一人で行っても、
このメンバーは集まってくれません。
地元の丸亀市から選出された国会議員さんが、
偶然にもフランス大使館の人と
よく交流されている方だったんです。
私は、自分が四国のPR活動をはじめたころから、
その国会議員さんの事務所に勝手に行って、
今回はこんなことをしました、
結果はこうでした、
というようなことを話していたんです。
──
そうだったんですね。
尾崎
それで、今回も彼のところへ行って、
「今までフランスへ行ったり、
四国にフランス人を呼んだりしていたけれども、
これからは、これまでの活動を活かして、
島の活性化をやってみたいんです」
というお話をしたんです。
そしたら、
「尾崎さん、フランス大使館に行って話しましょう。
ひょっとしたら何かヒントが
もらえるかもしれません」
と言ってもらえて。
それで一緒に行きまして、
私からお話をさせていただいたんですね。
そしたら、彼らからすごくありがたい
アイデアをもらうことができたんです。
──
どんなことでしょう。
尾崎
フランスは、
国と企業が「アーティストレジデンス」という
施設を持っているんですけど、
それは一流アーティストを
海外で研修させるための場所で、
今、ローマ、マドリッド、京都の
3ヶ所にあるそうなんです。
アーティストといっても
絵を描く人だけじゃなくて、
音楽家、小説家、映画監督といった、
あらゆるジャンルの人が対象です。
そのうち、京都に滞在しているアーティストを、
四国の塩飽諸島に招聘して、
創作活動をしてもらうのはどうだろう、
ということを
フランス大使館の方が言ってくださったんです。
──
すごいですね。
尾崎
ええ、私も耳を疑いました。
ローマ、マドリッド、京都という
豪華リストのなかに、
今後、塩飽諸島も入れてもらえる
可能性だってあるわけです。
ともかく、フランスという国が選んだアーティストを
四国にお招きできるなんて、すばらしいこと。
それも、島に来ていただくっていうのは、
大きな意味があると思いました。
──
しかも、過疎化が進む、小さな島に‥‥。
尾崎
そうなんです。
伝統と格式においては京都に優るところはありません。
でも、そんな京都に負けないものを
瀬戸内海に探すとしたら
「手つかずの自然」と「島民の優しさ」だと思うんです。
それで、やるぞ! となって、
アーティストをお迎えする準備をはじめました。
まずは丸亀市に話を持ちかけたんですけど、
行政からみると、私みたいな人間は、
背中に「要注意人物」って書かれた紙を
貼られているような人間なんですよね。
企画書を作って持って行くたびに、
「あのおばちゃんがまた来たぞ!」
という感じでしたけど、
最終的に離島対策というところにまわしてもらって、
丸亀市と四国夢中人の協働事業という形で
アーティストの迎え入れをすることになったんです。
──
すごい。
行政とも一緒に動くことになったんですね。
尾崎
はい。
それで、島の人たちとも協力しあって、
7月に最初のアーティストである
フランス人男性を迎え入れました。
私も、コーディネーター兼通訳として
一緒に行動したんですけど、
島の人にとっても、フランス人にとっても、
お互いにすごくいい経験になったんです。
ほんとにこんなことができたんだな、という感じです。
──
どんなアーティストがいらしたんですか?
尾崎
それが、
私はただ「石屋さん」だと
思っていたんですけども‥‥。
──
石屋さん?
尾崎
ええ、実際に石屋さんでもあるんですけど、
聞けば、造形作家として有名な方だったんです。
2012年に資生堂が1個105万円の
高級クリームを作ったという話、知ってますか?
──
105万円!?
いえ、すみません、知らないです。
尾崎
当時話題になったんですが、
なんと、その容器のデザインをしたのが
オリヴィエ・セヴェールさんというフランス人男性で、
その「石屋さん」だったんです。
──
へええ。すごい。
そういう依頼がいくほどの大物、ということですね。
尾崎
もうビックリしましたよ。
そういう人を案内するんだったら、
塩飽諸島のなかでも「広島」にしようと思いました。
というのも、広島には有名な石切り場があって、
青木石という、大阪城の石垣にも使われた
全国的にも有名な石が採れるんです。
──
へぇ~。
あ、じゃあ石屋さんにはぴったりですね。
尾崎
そうなんです。
石切り場は、普段は勝手に入れないんですけど、
地元の人が彼をすごく歓迎して
協力してくださったんで、
我々や外国人が入って自由に撮影することができました。
やっぱりアーティストってすごいなと思ったのは、
水の音や風の音、という目に見えないものを
すごく大切にされていて、石切り場でも、
石と対話されているような感じを受けましたね。
広島をすごく気に入ってくださって、
拾った石をパリで展示したいと言って
何十キロもフランスに送っていました。
──
それは何よりですね。
尾崎
準備はめちゃくちゃ大変だったんですけどね。
アーティストも納得、島の人も納得、
市の人も納得する滞在プランを作らないといけないんで、
その第一弾がうまくいったというのは良かったです。
ただ、それだけだと、次回につながりません。
目標は、とにかくいろんな方に
興味を持って来てもらうことです。
そこで早速、フランスのパリと
ベルギーのブリュッセルで
このフランスの石屋さんが島を巡っているシーンを
瀬戸内海のドキュメンタリーフィルムにして
上映しました。
──
尾崎さんが撮ったんですか?
尾崎
いえいえ、私はそういうのはできないから、
友達に頼みました。
カナダ人なんですけど、
外国人って映像の撮り方が違うんですよ、なんだか。
──
カナダ人の友達。
どうやって知り合ったんですか?
尾崎
それはもう、ナンパですよ。
ナンパ歴、20年ですからね(笑)。
──
また、ナンパを!
(※ナンパについて、
くわしくは前回のこちらの記事をご覧ください)
尾崎
地元に英会話のサークルがあって、
そこに彼がいたので、声をかけたんです。
で、彼と話していたら、
いまは人に英語を教えることで生計を立てているけど、
もともとはカナダのテレビ局で
働いていたというじゃありませんか。
しかも、撮影も、編集も、リポーター役も
なんでも一人でできるという人だったんです。
ドキュメンタリーの30分番組を
業者さんに頼んで作ったら、
大変なお金がかかりますよね。
私はそんな予算がないので、
彼に思い切って頼んでみたんです。
そしたら、もともとすごく映像が好きな方なんで、
「よっしゃ、やるぞ」って燃えてくれて。
──
へえー。すごいですね。
尾崎
これは塩飽諸島ではなく、
彼が個人で撮った地元の丸亀城です。
外国人に紹介するための動画なんですけど‥‥。

▲こちらがその動画です。

──
すごい。ちゃんと作られてますね。
尾崎
やっぱり、外国人が見るんだから、
外国人が面白いと思うものを撮らないと
意味がないんですよね。
ぜひ、彼が撮った塩飽諸島の動画を観てください。
これはフランス人が来る前のものですけど。
▲塩飽諸島(広島、小手島、手島を巡った動画です)
──
(動画を観て)
‥‥ああ、いいですね。
私の故郷でもあるんですけど、
瀬戸内海がこんなにも美しいんだって
あらためて、びっくりしました。
尾崎
説明するより、これを観てもらったほうが、
どんな雰囲気の島かわかるでしょう?
──
はい。海も、すごくきれいで。
尾崎
美しい場所ですよね。
文化も歴史もあるこの場所が、
このまま放っておいたら、
荒れ果てた無人島になるかもしれない。
そう考えたら、自分にできることをやりたいんです。
今回の招聘プロジェクトでは、
訪れたフランス人も喜んでましたし、
島の人もいっしょになって楽しみました。
自治会長さんの家で懇親会をしたんですけど、
地元の漁師さんが捕ってきた鯛で
鯛素麺を作ってもてなしてくださったんです。

▲フランス人アーティストと島を巡ったときの様子。

──
ああ、いいですね。
地元の方もみなさん一緒に楽しまれたんですね。
尾崎
そうなんです。
それと、瀬戸大橋の下に
渦(うず)になっている場所があるんですけど、
フランス人にとっても、
渦って生まれて初めて見るから、
ものすごくおもしろかったみたいです。

▲瀬戸大橋の下に発生した渦を撮る。

尾崎
そのときに撮った動画を
フランス大使館に持って行って、
「大使館のご支援のおかげで、
こんなに素晴らしい滞在ができました」
ということをお伝えしました。
「瀬戸内海という選択肢もありかな」
と思っていただけたらうれしいですね。
ただ人を呼ぶだけだと意味がありませんから、
常に次のことを考えて、
どうやったら島おこしができるかというのを、
島の方々と意見交換をしています。

▲島の写真を見せて説明をしてくださいました。

──
あの、島おこしって、
いろんな考えの人がいると思うんですけど、
たとえば、
「知らない人がたくさん来ることで、
騒がしい場所にしてほしくない」
といった意見とかは出てないんでしょうか。
尾崎
そういう方も
なかにはいらっしゃると思うんですが、
これまで私がお会いした島の方はみなさん
「どうにかせにゃならんが、
わしらではどうにもならん」
って言うんです。
やっぱりね、10軒中2軒しか
光が灯らない光景というのは
想像を絶する寂しさがあります。
どうにもならないところまで来ているから、
少しでも人が来てくれるなら、
協力を惜しまない、っておっしゃってくださって。
──
次のステップとしては、
どんなことを考えてらっしゃるんですか。
尾崎
はじめて来たアーティストが、
たまたま石の作家だったので、
青木石で有名な広島を案内したけど、
いずれ私は塩飽諸島全体を、
アーティストが滞在する島にしたいんです。
たとえば、空家の1つ1つをアーティストに
自由に作り替えて住んでもらう、
というのを考えています。
最終的には、島の空家を全部アートにして、
島のおじいちゃんたち主催のコンクールとかもしたいです。
現地の人がそっちのけで、
観光客だけに受けるものを作っても仕方ない。
現地の高齢者も楽しめるかどうか、
というところが大事で、
難しいけど、やりがいがありますね。
塩飽諸島には、「広島」の他にも
「本島(ほんじま)」「手島(てしま)」
「小手島(おてしま)」「牛島(うしじま)」
といった28の島々があります。
直接見たほうが早いと思うので、
ぜひぜひ来てください。
島のみなさんと一緒に案内しますよ。
(つづきます。
このあと、香川県に行って、
実際に島を案内してもらいました。
次回は島めぐりの様子をお届けします)

2017-01-24-TUE