BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


一人っ子が時代をリードする!?
(全4回)


わがまま、依存心が強い……きょうだいが
いないというだけで問題児扱いされたのも、
今は昔。少子時代の子育てのヒントとは?

ゲスト
詫摩武俊
山口正介

構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論2002年9月22日号から転載)

山口正介:
1950年東京生まれ。
桐朋学園短期大学演劇科卒業。
作家、映画評論家。
「オンシアター自由劇場」
演出部に在籍した後、
文筆業に。著書に
『たまにはリゾート気分』
『机上の映写機』などのほか、
父親の山口瞳氏との日々を
綴った『親子三人』
『ぼくの父はこうして死んだ』
などがある
詫摩武俊:
1927年千葉県生まれ。
東京国際大学教授、
東京都立大学名誉教授。
東京大学文学部
心理学科卒業後、
性格心理学を専門とし、
双生児の調査などを通して
性格がいかにして
発達するかを研究する。
編著書に
『シリーズ・人間と性格』
『ふたごの研究』
『自分を見つける心理学』
など、多数
糸井重里:
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は多岐にわたる。
当座談会の司会を担当

第1回
もう珍しい存在ではありません
糸井 僕は最近ふと、自分の周りには
一人っ子が多いなと気づきましてね。
まず、カミさんがそう。
僕の子どもも一人っ子で、
よく考えたら前のカミさんもそうだった。
僕自身も一人っ子みたいなものです。
親が二度結婚してて十歳の頃に
妹ができたんですが、歳は離れてるし、
ほとんど一人っ子として育っちゃった。
知り合いにも一人っ子が多い。
これ、一人っ子が一人っ子を
呼び寄せるんでしょうか。
山口 えっ、そうですか。
逆に僕の周りには一人っ子が
ほとんどいないんですよ。
もともと僕の世代は一人っ子が少ないから、
「一人っ子って、どういう感覚?」と
ずいぶん友達に聞かれました。
「きょうだいがいる人生を知らないから、
自分じゃどうなのかわかんない。
一人っ子は特殊に見られるの?」と聞き返すと、
「わがまま」「自分勝手だから」とかね。
母親も僕が何かすると、
「ほら、また一人っ子の悪いところが出た」と。
糸井 悪いところって?
山口 大皿料理なんかが出ると、
それを銘々が取り分けるでしょ。
ところが僕は、一人で全部
食べちゃったりするんですよ。
糸井 それ、ひどいですね。(笑)
山口 何人かいたらその人数で割って、
「だいたい自分はこのくらいだな」という計算が
できない。で、そのせいにして
たくさん食べちゃう。(笑)
糸井 僕の知ってる一人っ子はみんな、
分けっこする時に絶対に譲りますね。
二つに分けた時は、大きいほうを相手に渡す。
それは人がいいからとかじゃなくて、
「自分は足りてるから」みたいな……。
僕も、全部あげて、「ちょっとくれる?」って
いうのが一番好きですね。
でも、きょうだい同士だったら、
そういうこともあまり考えずに、
きっと自然にできるんだろうな。
先生はごきょうだいは?
詫摩 うちは四人きょうだいで、弟が二人、
妹が一人います。いとこを見渡しても、
みんなきょうだいをもってますね。
糸井 お子さんは?
詫摩 三人おりまして、長女のところに
一人っ子の孫がおります。
糸井 先生のところも、代を経るごとに
子どもの数が少なくなってきてますね。
今、少子化の時代と言われて、
一人っ子も増えています。
そこで、一人っ子ってどうなのか、
きょうだいがいることといないことの違いなどを
話し合えればと思うんですが……。
山口 さっき、糸井さんの話を聞いて意外だったのは、
僕は一人っ子同士はうまくいかないだろうと
思っていたんです。
糸井 うまくいってるかどうかは知りませんけど、
一人っ子同士だと、相手に触りすぎない
ということを、お互いにルールとして
もちやすいんですね。
山口 あ、僕、触られるの嫌いです、
精神的にも肉体的にも。
たとえば女性とおつき合いしてる時、
二人の間でトラブルがあったりしますね。
そうすると、「ちょっと待って。
一人で考えさせてくれ」となっちゃう。
でも僕がおつき合いした女性は、
みなさんきょうだいがいましたけど、
「一緒に考えようよ」と言う。
「いや、一人で考える時間がほしい」と
主張すると、「私が嫌いになったのね」って
とられる。それでダメになっちゃうんですよ。
糸井 相手からすると、
「なんで私に言ってくれないの!」と。
山口 そう。一緒に考えて、ある結論が出れば
いいんだろうけど、僕は一人で考えたいんです。
なのに、それを許してくれない。
これが許されないとしたら、
今後の生活も大変だよな、
と思っちゃうんですよね。
僕が独身なのはそのため、
とまでは言いませんが。
糸井 それ、わかりますよ。
山口 だいぶ前、一度だけ、一人っ子の女性と
つき合ったことがありました。
劇団にいた二十代の頃で、舞台袖にいると
彼女が「飲む?」ってヤクルトをくれた。
僕がそれを一気に飲んだら、すごく怒られてね。
「二人で飲みたかったのに」って。
糸井 でも、ヤクルト一本を二人で飲むのは
難しいよね。(笑)
山口 それが原因で破局。ってわけでもないけど。
(笑)
糸井 その女性は一人っ子だったんですよね。
誰かと、小さいものを分け合う、
ということをしてみたかったんだ。
山口 きょうだいのいる人だったら、
ヤクルトは二人で分けられないことは
わかってるんじゃないかなぁ。
糸井 先生、こういう話を聞いていて、
どう思われますか?
詫摩 そういう風に、一人っ子を話題にするのは
日本が一番多いんじゃないですか。
「あなたは一人っ子ですか?」という会話は
日常よく耳にしますし、きょうだいの関係にも
こだわりやすい国だという気がします。
欧米ですと、日本で言うほど
「一人っ子、一人っ子」とは言いません。
つまり、関心がないんです。
糸井 あ、そうですか。
詫摩 きょうだいを指す言葉にしても、
英語圏なら「私には二人のブラザーと
一人のシスターがいる」と、
男のきょうだい、女のきょうだいは
一括してしまいます。
これが日本では、「兄が一人と弟が一人、
そして妹も一人おります」となる。
つまり、自分から見て上か下かを
重視した言い方です。
きょうだい同士の呼び方も、
欧米では互いに名前の呼び捨てですけど、
日本では下の者が上のきょうだいを呼ぶ時は、
「お兄さん」「お姉さん」です。
序列を重要視する傾向のあらわれで、
かつて長男がきょうだいの中でも
特別な地位を与えられていた伝統が、
今もって考え方として残っているからでしょう。
糸井 日本はきょうだいにこだわる……。
詫摩 それと、「一人っ子」というのは、
今やずいぶんクラシックなテーマだと
思いました。
心理学の分野で一人っ子のことが
問題にされましたのは今から百年以上も前です。
十九世紀の終わり頃、アメリカに
スタンレー・ホールという心理学者が
おりまして、ドイツに留学した後、
アメリカで心理学の基礎を作った人ですが、
彼は、「一人っ子であるということは、
そのこと自体がすでに病気である」と
言ったんですね。
糸井 おっと。(笑)
詫摩 これはたいへん有名な言葉として残りまして、
日本でも一人っ子の研究をする方が
ぽつぽつ出てきました。
でも最近は、一人っ子の調査、研究というのは
あまり流行りません。
糸井 流行りませんか。
詫摩 ええ。
今はもう一人っ子は珍しくもないですし、
いろんなケースを集めることはできても、
一人っ子の特徴について、
総括的に結論を出すことはできなくなってます。
私なんかの戦前の中学時代は、
生徒八十人のうち、
一人っ子は二人だけだったんですけどね。
同窓会名簿を見ると数字の入った名前が
多いですよ。信二とか賢三、四郎とか。
一人っ子の場合でも、
数字の「一」が入っている。
山口 一郎、昭一……とか。
詫摩 もっと産む予定だったのが、
何かの事情であとが続かなくなったのか。
いずれにしても、きょうだいがたくさんいるのが
普通でした。だから、一人っ子は肩身が狭いと
思っていたんではないでしょうか。
一人っ子のお母さんも、子どもにきょうだいを
与えなかったことに対して
一種の罪悪感をもっている。
その背景を探ってみると、
子どもは労働力として必要だし、
人口が増えるのは国家発展の基礎である、
という考え方があります。
糸井 生産志向。
山口 「産めよ殖やせよ」ですね。
糸井 じゃあ、先ほどのホール説も、
時代のイデオロギーと関係あるのかな。
詫摩 そうですね、十九世紀の終わりですから、
国を強くしようとした時代でありました。
日本の場合では、江戸時代中期は
人口三千万人くらいで、
後期までほとんど変わりません。
それが明治に入ると、富国強兵策のもと
急速に人口が膨張していった。
そういった状況がきょうだいの増加と
関係あるし、一人っ子に対する
世間の風当たりとも
結びついていたんじゃないでしょうか。
糸井 今、思ったんですが、落語の噺って
ほとんど江戸の職人の家を舞台にして、
明治・大正に創られてますけど、
出てくる子どもは、たいがい一人っ子です。
『子別れ』にしろ『文七元結』にしろ、
基本的に夫婦がいて子どもが一人いて、
三角形の構造で家庭が形成されている。
これ、明治まで人口が少なかったことと
関係あるのかなあ。
まぁ、創り手の都合なのかもしれませんけど。
詫摩 また、明治・大正・昭和の初期というのは
多産多死の時代でね。
子どもがたくさん生まれる一方で、
栄養状態の悪さや病気で死ぬ人も多かった。
だからスペアとしてきょうだいを
たくさんつくっておけ、ということも
あったんでしょう。
明治五年生まれの私の祖母は、
「いつも湯上がり、死なぬ子ひとり」という諺を
よく口にしてました。
湯上がりのさっぱりした気分と同じように、
絶対に死なない子どもが一人いるのが好ましい、
といった意味で、いかに子どもを育てるのが
大変だったかということですね。
山口 僕の父や母でも、きょうだいが
小さい頃に病死してますね。
それで、その子が一番かわいかった、
優秀だったって。(笑)
詫摩 今は子どもの死亡が少なくなりましたし、
家を継がせるという考え方も薄れてきた。
少ない子どもを大事に手をかけて
育てる時代ですから、一人っ子は何も
特別な存在ではなくなってきています。
山口 僕が一人っ子であることも、
かつてのきょうだいが多い時代の文脈で
語られてきたんですね。
中学の社会の時間だったか、
ある国が一人っ子政策をとって失敗した
というような話が出てきたんですよ。
同じ大きさのパイなら、分ける人数は
少ないほうが豊かになるという発想で
やってみたら、実際にはひどく国力が落ちた。
そう説明しながら、先生が僕のほうを
ちらちら見てるんです、
一人っ子だと知っているから。
国は違うけど、おまえが失敗の根源だ、
みたいな。イヤミなやつだと思ったな。(笑)
詫摩 話はそれますが、一人っ子が増えて、
世界で一番困ってるのは
ローマ法王だという話があります。
カソリックで神父になるには結婚は禁止で、
神の子として育てられなければいけません。
男の子が二、三人いれば、
「一人くらいは神の子にしましょう」
となるのが、「たった一人しかいないんだから、
神様よりはうちに置いておこう」と。
それで修道院がガラガラなんていう話も
あるそうです。
  (つづく)

2004-07-06-TUE

第2回 私の中の一人っ子成分

第3回 男同士だって仲良くしたい!?

第4回 孤独の隣に連帯はある

BACK
戻る