BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


掃除名人のヒミツ
(全4回)


暮れの大掃除シーズン到来!
開かずの押し入れ、気になるタンス‥‥
始末の得意な人も、そうでない人も
まずは頭の整理から

ゲスト
辰巳渚
西川勢津子

構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論
2000年12月22日〜2001年1月7日
合併特大号から転載)

西川勢津子:
家事評論家。1922年生まれ。
日本女子大学卒業。
生化学の研究生活を経て、
著述翻訳業に従事。
昭和30年代、西独の掃除法を
紹介して、大きな反響を呼ぶ。
以来、家事全般の評論家として
活躍している。
『勢津子おばさんの
 パソコン入門知恵袋』
『おばあさんの暮らしの実験室』
など、著書多数
辰巳渚:
著述業。1965年福井県生まれ、
東京都出身。
お茶の水女子大学文教育学部卒業。
マーケティング雑誌記者、
筑摩書房勤務を経て、
フリーのマーケティングプランナー
として独立。今年4月に著した
『「捨てる!」技術』
(宝島社新書)が
100万部を超えるベストセラー
となり、話題に。
現在、続編を準備中
糸井重里:
コピーライター。
1948年、群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は多岐にわたる。
当座談会の司会を担当

掃除名人のヒミツ
第1回
嫌いこそ工夫の母なり?
糸井 掃除や整理、片づけることって、
「いつか、やらなきゃいけない」
と思ってるんだけど、なかなかできない。
これ、英会話に似てますね。
それに僕を含めて男は、
家の中では「やらねば」という
義務感を持った人、先に気づいた人――
たいていの場合はカミさんがやってしまうんで、
しなくてすんでたりして。図々しい話ですが。
辰巳さんは、著書『「捨てる!」技術』で、
「捨てることを肯定しよう」と提案しています。
いわく、「“とりあえず取っておく”は禁句」
「“いつか使うかも”の“いつか”なんてこない」
「“捨てる基準”を決めよう」……。
辰巳 はい。
西川 私なんか、渚さんから見れば、
ゴミの中に座ってるようなものですよ。
糸井 えっ、掃除のプロなのに?
西川 お掃除そのものは、いろんな新兵器があるから、
アッという間にできちゃうの。
だけど整理整頓はなかなかねぇ。
山のように本は積み上げてあるし、
捨ててしまったあとで、
「しまった」と思うことがいっぱいあるから、
なかなか捨てられないんです。
渚さんは、それがおありにならない?
辰巳 いえ、もちろんあります。
仕事の資料で使った本なんか、
いらないと思って捨てても、
その後、「あそこにあの数字が載ってた」とか、
しょっちゅうです。
西川 あら、そうなんですか。
糸井 僕も整理はダメで、
現状がどのくらいひどいかと言うと、
何があるか、何を持っているか、知らないんです。
その日一日何をするか、それだけは知ってる。
まるで犬の散歩のように生きてるわけですね(笑)。
で、あとは忘れる。
何かを蓄積してる実感があると、
あとで整理しなきゃと思いますよね。
それがもう、怖い。
辰巳 よーくわかります。私もそのようなものです。
糸井 「私もそう」なんですか。
辰巳 書いた本のせいで、
私が非常に整理整頓が上手で、
モノに対する未練もまったくなく、
どんどん捨てて、
ほしいものがあれば「また買えばいいわ」
と考える人間に思われてるみたいですけど、
実はまったく逆なんです。
糸井 あらま、そうなんだ。
辰巳 自分で整理できるキャパシティが
とても少ないので、
モノを減らす方向で考えてたんですね。
いらないモノがなければ、
たとえ整理出来なくても、
何とかモノと上手につき合っていけるかな
と考えたんです。
本質は、母が作ってくれた洋服とか、
食費を惜しんで買った本などが
愛しくてしょうがない性質で、
20代の頃までは、全部ため込んでいました。
だけど、そこに安住してると、
なかなか自分らしい生活を築いていけない
という反省もあって、
思い切って捨てることを決意したんです。
糸井 ある種の危機感から、
そういう発想に至ったんですね。
辰巳 私、フリーですから家で仕事してますでしょう。
あるはずの資料がどこにあるかわからなくて、
困ることがあったんですよ。
それに主婦でもあり、
2歳の子どももいますから、
家の中を心地よくしたい気持ちもありました。
モノがいっぱいだと、うまく掃除もできませんし。
加えて、マーケッターという仕事柄、
モノを売る側の本音、買う側の本音を知るほどに、
このままモノにふりまわされていいのかという
思いもあります。
いろんな危機意識があったんですね。
糸井 要するに、モノや情報が多すぎると、
とっちらかっちゃって、どうしていいか
わからなくなるタイプだったんですね。
西川さんもさっき、
そんなことをおっしゃってましたが。
西川 ええ、整理整頓はぜんぜんできないし、
掃除も嫌い。
辰巳 わぁ、安心したあ。(笑)
西川 私、家事の中で、食べることに関してするのは、
とても好きなんですね。
だけど主人はいわゆるグルメじゃなくて、
むしろ身辺をきれいにしておくことにこだわる人。
それで結婚した時から、やれ部屋が汚いとか、
もっときれいにしろとか、もう怒られっぱなし。
糸井 はあ、言ってみたいもんだ。(笑)
西川 それで、家はきれいにしなくちゃ
いけないんだなぁって。
普通の主婦が
そう思ってただけのことなんですけどね。
それが40何年前、創刊したばかりの
『家庭画報』の編集者と知り合って、
何か新しい記事を作りたいから手伝ってくれ
と言われまして。
日本とドイツの婦人誌を丹念に調べてみましたら、
ドイツの婦人誌には掃除のことが
ものすごくたくさん載ってる。
私自身も知りたかったものだから、
「毎月ひとつずつ、
 お掃除のことを紹介しましょう」
とやってるうちに、
それが専門になっちゃったんですよ。
糸井 じゃあ主婦の自然な知恵というより、
知識としてスタートしたんですね。
西川 まあ、ゴミの中からスタートしたわけです。(笑)
糸井 で、始めてみたら、掃除が面白くなりましたか?
西川 面白いはずはないですよ。(笑)
糸井 そうか、「掃除法を知ること」が面白かったんだ。
西川 私、大学の専攻が生物化学だったので、
界面活性剤を上手に使い分けると、
非常にお掃除が簡単にできることを発見したり、
掃除用具の原理を分析したりするのが楽しくて。
そんなことから、のめり込んでいったんです。
糸井 最近は掃除用具も進化して、
いろいろなものが出ていますね。
そういうのは全部、試してみるんですか。
西川 もちろん。
原稿を書く時、最高・最新のものをご紹介する
というのが、私のキャッチフレーズですから。
辰巳 いちばんおすすめの最新兵器は?
西川 蒸気を高圧でシューッと噴射して
汚れを落とす道具。
スチームガンみたいなものですね。
ひどい油汚れでも、住まいの洗剤を吹きつけて、
このスチームガンを噴射すると、
たちまちきれいになります。
通販でも売ってますよ。
それも9800円のじゃなく、
1万9800円のを買わなくちゃダメです。
糸井 ちょっとお得な情報。(笑)
西川 お風呂場やトイレの掃除にもいいですよ。
糸井 タイルなんか、きれいになりそうだ。
浴槽の風呂アカも落ちるんですか。
西川 材質にもよりますけど、まあ大丈夫ですね。
これだと、1年に2回くらい使うだけで
いいんですよ。
糸井 でも多分ホーローはダメですよね。
西川 原則は大丈夫ですが、
安いホーローで古くなったのはダメなんです。
糸井 うち、ホーローなのよ。
辰巳 糸井さん、なんか熱心で……。
糸井 風呂場担当は僕なの。
風呂に関しては力仕事なんで、
朝方の5時くらいに時々やってるんです。
ちょっとしたレクリエーションですね。
気まぐれにやるから、
あまりありがたがられないですけど。
辰巳 お風呂場だけはやるっていう男性、
わりと多いですよね。
  (つづく)

第2回 捨てる人、捨てない人

第3回 「あとで」じゃなく「今」やる

第4回 大切なものの順序

2004-03-04-THU

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