BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

第1回 "ヤング・オールド"の正体

第2回 抗老期を過ぎて

第3回
老いの景色はグラデーション
上坂 「頑張る」という言葉を聞くと、
どうお思いになります?
水野 この頃は、頑張るのがいかんのやと、
よう言われるね。
上坂 私は、若い頃はがむしゃらに頑張ったんです。
この世の正義と使命感を背負いこんだみたいに。
ところがこの頃は、
「頑張ってどうする」と思うの。
これが老化、
トシをとるということじゃないかしらね。
頑張らないで平然と流されていくなんて、
若い頃にはできない芸当だった。
糸井 植物が静かに朽ちていくというイメージに
近いですかね。
上坂 もうちょっと、
いたわりのある表現はないの?(笑)
水野 僕は、生まれたものは
死んでいくのが当たり前だという意識を、
みんな、もうちょっともつべきだと思うんだ。
そして、高校の保健体育の教科書の中にも
そういうことを入れる。
糸井 「老い」と「死」を。
水野 そう。
上坂 あら、そうかしら。
死はいいとしても、
老いなんて項目は余計なことよ。
そんなの、
そのときになって考えりゃいいことで。
水野 いや僕は、観念として知っておくことは
やっぱり必要だと思う。
上坂 そんな無駄なこと……。
いえ、私も40代の頃、
自分の老いを考えて
老後の計画を立ててたんですよ。
ところが、
その頃考えた老後に対するイメージと、
実際に老いに立ち至った今の状況とは
全然違うのね。
そんなふうに違うものを
高校生に教えたってしょうがないでしょうが。
糸井 でもそうすると、
今は老いを考えるきっかけが
ないんじゃないですかね。
上坂 ほんとうの老いなんて、
字で書いても観念で説明しても、
伝わらないものだと思いますよ。
いずれみんなが個人個人の胸の中で、
「こういうものなんだ」と
自然に実感していくのが老いなんでね。
糸井 上坂さんが40代の頃、
老いに備えていたことというのは?
上坂 たとえば外国旅行に行ったりすると、
その土地の記念になるものを
買い集めたんですよ。
もし寝たきりになったら眺めて楽しもう、
過ぎた日々を思い出すよすがになるだろうって。
ところが今見ると、
「これ、どこで買ったかしら」と
さっぱり思い出せない。
そういうふうに、若いときって
全然ピントはずれのことを用意しちゃうの。
お金もいくらあればいいだろうと
考えたりしたけど、
トシをとるとお金に対する執着心は
全然なくなるし。
結局、楽しいことは何かと考えると、
一つか二つしかなくて、
それはお金でも何でもないんですよ。
糸井 ちなみに楽しいことは何ですか。
上坂 ちなまれても困るけど……。(笑)
水野 原稿を書くこととか。
上坂 そうですねぇ。
職業的に言えば、さっきも話しましたけど、
正当な反論がこっちにあった場合、
挑戦を受けたときの快感というのは
何ともいえないわね。
糸井 武士みたいだ。(笑)
上坂 あとは……
まさしくばあさんの趣味みたいですけど、
物事の核心をついて、
見事な会話のできる人と
時を過ごしたいとか……。
糸井 “言葉”にかかわってますね。
上坂 おいしいものを食べるとか温泉へ行くなんて、
それがどうした、というようなもんで
全然興味なし。
水野 ハハハ。
上坂 ちょっと前までは、
この先、私にできることは何かと考えて、
毎朝5時に起きて箒を持って
駅前を掃除しに行こうかと思ったことも
あったんです。
お掃除好きですから。
ところが、今はそんなこと全然……。
起きるとグターッとしてるし、
世のため人のためになんて、ヤダ、ヤダ。
自分がいちばん大事です。(笑)
水野 老後の過ごし方と言えば、
僕は親父が
上野の音楽学校の声楽科を出た影響で、
小さいときから
ビクターの赤盤−−クラシックのレコードで
育ってまして。
自分でもレコードは買っててね。
糸井 さっき趣味はないと……。
水野 まあちょっとあることはある。
ぼつぼつ死ぬぞという時期になったら、
午前中は書いてみたいことを原稿に書き、
午後はレコードを聴く。
そんな生活を
1年くらいやれればええなぁと思ってます。
糸井 トシをとると、
いろんなことに対し達観すると言いますが。
上坂 大きな運命に無抵抗で
流されていくみたいな気持ちになるのね、
“頑張るマン”だった私でも。
この世には人知で かなわないものがある、
ならば逆らわず、
「こんなものか」と受け止めようと
思うようになってます。
これが、老いじゃないかしら。
若い頃は簡単に
「地位も名誉もいらない」と言うけど、
この思いがほんとうに胸の奥からわいてくるのが
老いなのね。
水野 腹も立たなくなるね。
若い頃なら烈火のごとく怒ったことでも、
今は「まあ、そういうやつもおるかな」と。
糸井 それは自信と関係ありますか。
水野 いや、自信じゃない。
上坂 荒っぽい言い方をすれば、
「それがどうした。
 そんなことはどうでもいい。
 どうせどいつもこいつも死んでいくんだ」と。
老いてからの人生は
「あとはオマケだ」みたいなところがあってね。
私、“抗老期”を過ぎて、
今は老いの中期くらいなんですよ。
で、だらだらと
オマケを続けたくないとは思っているけど、
もっと老いてくると、
また感じ方が変わってくるのかもしれない。
糸井 そうか、老いも変わっていくんだ。
上坂 そこが非常に面白いところです。
糸井 まるで秋の紅葉みたいですね。
上坂 老いにすっぽり肩までつかってくるのが、
これから先でしょう。
糸井 ぬるいお湯にゆっくりと。
水野 最後はどっぷり“老いの温泉”。(笑)
(つづきます)

第4回 ヤキモチ心は枯れず

2003-03-17-MON

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