<不定期連載>料理研究家・藤井恵さんと考えるおかあさん、ちゃんとごはん食べてる?
<不定期連載>料理研究家・藤井恵さんと考えるおかあさん、ちゃんとごはん食べてる?
いっしょに考える人 料理研究家 藤井恵さん

藤井恵(ふじい・めぐみ)

料理研究家。
女子栄養大学栄養学部卒業。
大学在学中よりテレビ番組の
料理アシスタントを務める。
大学卒業と同時に22歳で結婚、
25歳で長女、29歳で次女を出産。
5年間専業主婦、子育てに専念し、
30歳でテレビのフードコーディネーターとして復帰。
以来、雑誌や書籍、テレビなどの各種メディア、
講演会などで活躍。
現在、日本テレビの『キューピー3分クッキング』の
レギュラー講師を務める。

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藤井恵さん公式サイト

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さて、前回お伝えした『単語帳式メニュー作戦!』ですが、
じつは、わたしがもたもた模索しているうちに、
母が入院することになってしまいました。

もともと心臓がよくなかったのですが、
最近になって、3ヶ月にいっぺんほどの割合で、
胸が苦しくなっては、
自分で呼んだ救急車で運ばれるということが続き、
担当の先生から、手術を勧められたとのこと。

母はこれまで一度も、体にメスを入れる、
という経験をしたことがありませんでしたし、
この歳で、胸を30cmも切るという手術について、
わたしや次兄は、当初、反対していました。
でも、先生の
「確かにリスクはゼロとは言い切れませんが、
手術をするかしないかは、ご本人の生き様ですよ」
というひとことと、
長男である兄の説得に、母も腹をくくったようです。

入院、手術に当たっては、
何度も家族で話し合いが行われたのですが、
それにしても、兄妹でこんなに頻繁に顔を合わせるなんて、
本当に久しぶりのこと。
また、母の新たな一面を知る、いい機会にもなりました。

実は、ここ最近ちょっとぼんやりしていることも
多くなった母でしたが、さすがに緊張感からか、
妙に頭がさえてきて、テンションも格段にアップ!
入院に当たっての準備にも、
ずいぶんと気合いが入ったようで、
手荷物には、歌舞伎揚げやら、磯辺焼きせんべい、
そしてなぜか、ペコちゃんマークの
ミルキーが、ぎっしり詰まっていて、まるで遠足のようです。

入院してから、病室を訪れた時、
日中の様子を看護師さんに尋ねてみると、
母は特にミルキーが気に入っているようで、
「召し上がりながら、
うとうと眠ってしまわれることもあるんですよ」
とのこと。

包み紙は、母が1枚1枚きれいにのして、
枕元に重ねているのですが、
病室で母と娘、私の母娘3代、
その紙で、ちっちゃなツルを折りながら、
他愛のないおしゃべりを交わすひとときは、
わたしも童心に帰って、なんだかほのぼの。
心配事は心配事として依然ありますが、
看護師さんに、
「親子水入らずで、うれしいでしょう?」と、尋ねられ、
「そうですねぇ」と、にっこり笑う母を見ていると、
こんな時間も悪くないものだな、と思えてきます。

さて、そうこうしているうちに、
いよいよ手術当日がやってきました。
本人はもちろんのこと、
なにせ高齢ということもありますし、
家族も朝からハラハラドキドキです。
結局、手術は8時間にもおよんだのですが、
それでも無事、成功し、
  お陰様で術後の経過も順調です。
しかし、少しずつ元気になると、
またまたクレーマー&クレーマーに逆戻り。

手術前は、看護師さんだけでなく、
わたしたち家族にもこまめにお礼の言葉を繰り返したり、
なかなかに神妙だったのですが、
体力が回復するにつれ、以前にも増しての駄々っ子っぷり。
手術が終わり、本人もほっとしたのでしょうか…。
特に病院食については不満が多く、
お肉は全部、お皿の隅っこにはじかれ、
おかゆもイヤ、魚もおいしくない、
なにを食べても味がしないと言います。

まぁ、毎日お見舞いに行っていると、わたしも慣れて、
その大人げのなさが、むしろだんだん、
かわいらしく思えたり、
おもしろくなってきたりもするわけなのですが、
今後は体力の回復を待って、リハビリが始まりますし、
とにかくしっかり食べてもらわなくては!

そこで、その病院食がどのようなものなのか、
もしかしたら、本当にすごく薄味だったり、
ぼんやりとした味つけだったりするのかもしれないので、
とりあえず、ある日の夕食を、
ちょっぴりずつ取り分けて、試食してみました。
ちなみに、この日のメニューは、
『魚のごまマヨ焼き』、『絹さやソテー』、
『白菜、きゅうり、にんじん、ツナのしょうゆ和え』
『つぼ漬け』、『すまし汁』、『ご飯』
というラインナップでしたが、あにはからんや、
味はしっかり塩分があり、魚は保温され、
和え物はちゃんと冷たくなっていましたし、
歯ごたえなども、バリエーションをつけて
考えられているように感じました。
わたしが「おいしいじゃない」と言うと、
半分食べたところで「もう飽きたわ」、
とつぶやきつつ、こちらをチラ見。
わたしの表情に怖れをなしたのか、
「漬物とご飯はおいしいわ」と言って、
なんとか食べきりましたが、
他のおかずは、ほとんど手つかずです。
よく飲み込めないらしいというのも一因のようですが、
その一方で、錠剤10粒は、びっくりの一気飲み!
もう、なにがなにやらです。

あと、 肉は臭いがイヤで、
魚はパサついて食べにくいらしいので、
肉は臭みが出ないよう調理したり、
魚については、うっかり見落としていましたが、
ふんわりトロリ調理も取り入れてみようかな?
などなど、いろいろアイデアが湧いてきたのも収穫です。

そして、ほどなく担当の先生からは、
「リハビリが順調に進んで、
ひとりで50m、歩けるようになったら退院ですよ」
と言われました。
術後の経過も良く、
リハビリ病院に1週間くらい入院すると思っていたのですが
それも必要なさそうで、
無事に帰宅できる運びとなりました。

とはいえ、入院するのがわかっていながら、
炊飯器にご飯を入れたまま、保温にしていた母です。
母の入院後、掃除のために実家を訪れて見た、
キッチンに置き去りにされたままの、
食材のあり様からすると、どう考えても、術後の今、
ましてや、ごはんの自活は厳しそう。
看護師さんにも、「お一人暮らし、大丈夫でしょうか」
と言われました。

いずれにしても、なにか策を講じる必要はあり、
とりあえず、ウィークデイはデイサービスで
朝から夕方までお願いするにしても、
夕方以降はひとりになってしまうため、
1~2ヶ月間は、家族が交代で泊まることにしました。

▲退院後の母への差し入れです。自家製太刀魚の一夜干しと
梅干しの炊き込みご飯は、籠のお弁当箱に笹を敷いて詰めました。
あとは小松菜と黄菊のお浸しと、卵焼き。
気持ちが明るくなるような、かわいい赤いチェックのクロスで包み、
この日のお届け当番は娘に頼みました。

▲一応、一日に一回は、誰かが顔を出すことになっているので、
おかずごとにタッパーに詰めて、わたしがいなくても、
その日のお当番さんに取り分けてもらうスタイルにしました。

▲洗い物が少なくて済むように、中華丼や三色そぼろなど、
ワンディッシュで食べられるものを小分けにしてデリバリー。
食べ忘れのないように、冷凍室と冷蔵室にあるものを
1回分ずつ付箋にかき分け、冷蔵庫の正面扉に貼って、
「食べたらはがしてね」と伝えました。

しかし現実はキビシイ!
どうしたら忘れずに食べてもらえるか、
トライ&チャレンジしましたが、
うーん、なんだか母にいろいろ
ごまかされている感じです。
とにかく食欲もなく、寝たり起きたりで、
ドクターにこのままだと寝たきりになると
脅されたようですが、
おかずはほとんど手つかずで、
届けた中華丼のあんや、三色そぼろも、
結局、全部兄が平らげたそうで、
本人は好物のお味噌汁しか食べていないようです。
もちろん、なにも食べないよりはずっといいのですが、
先日は、わたしが作り置いたお味噌汁を
煮返すために火にかけていたことを忘れたらしく、
炭になっていました。
「眠っちゃったの?」と聞くと、
「そんなことないわ」と言っていましたが、
おいたをした犬の目をしていました。

挙げ句の果てに、
「男の子は優しいけど女の子は怖いわ」なんて言われ‥‥。
なるほど。それならこちらにも考えがあります。
母をボケさせない為に
わたしはあえて、意地悪な娘に徹することにしました(笑)。

それにしても、
これって自分の母だからこそ、
こんなにお互いに好きにやって言い合っていますが
お舅さん、お姑さんだったら、本当に大変なことです。

さぁ、さらにディープな、
デリバリーごはんの実践、始まります!
ワガママ母さんとの戦いです。

(次回に続きます)

藤井恵さんによる
「おかあさん、ちゃんとごはん食べてる?」は
今回でひとまずおしまいです。
お読みくださったみなさん、
本当にありがとうございました。
よろしければ、ぜひ感想のメールをお送りください。
藤井さんにお届けいたします)