鈴木慶一 アンサー・インタビュー 第2回 ひとり数千万の借金を負ったんだよ。


金はない 金はない
金はない 金はない

「生まれてきたときゃ はだかじゃないか」
聞いたような 言葉かけるよ
「オレたちは 他人じゃないか」
「はだかじゃないか」
‥‥よくわからない

金はない 金はない
金はない 金はない

「ゆうがたフレンド」より

── 音楽産業という沈みゆく船の上で
慶一さんは努力が足りないと
糸井重里は言ってますよ。

糸井重里の
言い分
慶一くんは、いかにも
そういうことができそうだけれど
できてないですよ。
努力が足りないのよ!
── そんな言わせておいて
いいんですか!
慶一 いやいや、ほんとにね、
かつてはそうだったんだ。
努力なんて大嫌いで。
そうだったんだけど、
いまは、努力、
しないわけにはいかないよね。
元々凡才努力家集団だと思うけど、
努力が表に見えるのをずっと避けてきた。
でもいまやありのままだ。
去年自分たちで
レコード会社をつくってから、
広報活動が急激に増えた。
自然に入ってくるのと、
たった1人のマネージャーの努力と
両方あると思うけど。
30年やっているとね、
それまでにつくってきた
ロング・アンド・ワインディングロードに
足跡が残ってるんだよ。
メジャーなレコード会社にいた
初期のころにつくってきた
キャンペーンの道に足跡が。
90年代以降、そういうことは
メジャーではお金の無駄
みたいになっちゃったのが、
今、自分たちで会社をつくって
広報活動をしようというときに生きている。
あとたまたま自分が
ムーンライダーズのスポークスマン
みたいなことになって、
それを30年やっているから、
初めて会った人に対しても、
それなりにしゃべるっていうような
技術も培われてしまったんだけど、
30年間ずっと、作業が終わった後の作業、
その点において他のメンバーよりはるかに
労働量は多いんだよ。
俺は、そういうのにむいてるんで、
ぼんやりやってはいるが、
やった分よかったなって。
それをやっていなかったら
違うことになってたろうね。
糸井重里の
言い分
実際、オレは慶一くんに
「漁師町でコンサートをやれ!」って
真剣に言ってみたことがある。
── 糸井はそう慶一さんに言ったと。
慶一 言われたこと、ある!(笑)
「漁師町でライブやって、
 漁師の人たちに聞いてもらえ」って。
聞いてもらって感動してもらえたら
すごいってことだよね。
あとスズナリ(劇場)に行って
よその芝居の休憩時間にライブやって
聞いてもらったらいいと。
‥‥その言い回しは
非常に大瀧(詠一)さんと
似ていると思ったな。
── (笑)。
慶一 団塊からの無理難題を!
── 「そんなこと無理だってわかってるよ」
って本人も言ってます(笑)。
慶一 漁師町でやる分はいいけども、
たとえばプロデューサーを迎えて
ムーンライダーズを動かそうとしても
頓挫しちゃうのは、
他のメンバーは他の仕事を
いっぱいしているってことだよね。
30周年ともなればみんなやるけども、
それでへとへとになってると思うよ、今。
俺は完全に割り切って
ムーンライダーズのレコーディングだったら
すべての仕事をなくしちゃうけど、
誰かはそうしてないと、先に進まないし、
満足するクオリティは、たもてない。
みんな、他の仕事が入っているから
スケジュールの調整が大変だ、
っていうのは多々あるよね。
この両輪で駆動しているってのが、
外から見てると、じれったい。
で、無茶をやれって言うわけだ。
しかし、ムーンライダーズだけを
やれって命令はくだせないよ、俺からは。
それこそ、大英断なんだろうが。
── 6人のマネージメントは
全部違うんですよね。
ならそういう仕組みをつくるのは?
6人全員をひとつのプロダクションとして。
慶一 それをやって
ひとり数千万の借金を負ったんだよ。
── ひとり数千万?! でかいですね。
慶一 でかいよ。
1993年から、21世紀まで
払い続けた人もいると思う。
自分たちでつくった会社で
莫大な赤字を背負ったんだよ。
具体的なことは言えないけれども。
── 今はどういうかたちで慶一さんたちは
CDをつくったりしているんですか。
慶一 ええと、簡単だよ、すごく。
アルバムもつくるじゃない、
それを売るじゃない、
それで制作費引くと余りが出るじゃない、
それと、その他の入金、
例えば出演料とかを上手く残しておいて、
次のアルバムの制作費にする。
プラマイほとんどゼロ。
で、さっきの命令はくだせないでしょ。
── 最初の資金は?
慶一 最初の資金は、
ムーンライダーズとしての
細かいギャラを集めておいて。
── それを元手にして、回転させていこうと。
メンバー6人で会社をつくって‥‥
慶一 6人でたった1人のマネージャーの
現社長に委託したと。
── ムーンライダーズっていうバンドの仕事は
その会社に集約するんですね。
慶一 うん。これがまた微妙だけどね。
個人でやってても
ムーンライダーズの誰々だったり
する場合もあるわけで、
逆に言うと
ムーンライダーズにとって
有益である仕事は
個人でやっても
ムーンライダーズのいい仕事として
残るわけだ。
── 鈴木慶一というミュージシャンは
その会社に属しているんですか。
慶一 それはバンドとしての所属で、
俺は別の個人会社があるんだ。
── それを大きくしていこうとかは?
慶一 ない。それは多くの会社で
見たり経験したけども、
増やしていこうっていうことで、
何度も失敗してきたから。
有機体としての会社の宿命として
大きくなっていかざるを得ないわけだよね、
おそらく。
俺、経済ならびに
資本主義ちゃんとわからないけど。
それはあまり積極的に推進しないように、
ある程度赤字、黒字の狭間を
うろうろするぐらいがちょうどいい。
大きくなっていくことによって
物事がうまく転がっていくことも
たくさんあると思うけど、
その辺の見極めがやはり
社長の判断っていうのが
あるんじゃないかな。
でね、最終回の糸井さんの発言は、
たぶんね、社長の発言だよね。
それはエールみたいなもので、
俺は糸井さんみたいに
社長業をちゃんとやらなきゃいけないなって
思うかどうかっていうのは
また別の問題でね。
だから、いまんとこ、この規模で
やってるけど、
たった1人のマネージャーとね。
でも負担が大きいんで、
少し人間は欲しい。
糸井事務所行ったりすると、
あの規模もいいなとも思うけどもね。
でもそれはまだ非常に遅れて
経済に目覚めた人なので(笑)。
でも糸井さんは広告業界に
身を置いていた人だから
お金の動きとかは
非常に見えてたんじゃないのかな。
はっきりはわからないけど。
でも音楽をやっていると感じるけど、
スキャンダラスなこともあっても
いいと思うんだよ。

── (笑)スキャンダラスって?!
慶一 結構海外見ていると
そういうの平気じゃない?
── 騙されたとかそういうこと?
慶一 そうそうそう。
おおっぴらになっているよね。
── あったほうがいいのかな(笑)。
あってもその人の音楽性は
応援するよっていう気持ちはありますけど、
あえてスキャンダラスに生きるのは、
本人はきっと大変ですよね。
だから積極的にあってほしいって
いうわけじゃないです(笑)。
慶一 (笑)でもミュージシャンの本とか読むと
そういうところばっかり。
ブライアン・ウィルソンが
メンバー全員にある日呼ばれて、
「解雇っていう書類にハンコ押せ」とか。
── アメリカ型企業的バンド形態?
慶一 (笑)。ビーチ・ボーイズの
「ココモ」ってシングルは、
ブライアンのソロ・アルバム発売日と
同じ日にぶつけようとしたって話もある。
── こうやると売れますよ的な
外からのプロデュースに乗ったりは?
慶一 乗るけども、乗るときに
これでいくぞと決断を下すことを
個人として得意としていないので、
バンドに持ち帰って話し合うわけだよ。
そうするとそういう話は
だいたい潰れていくんだよ(笑)。
── (笑)個人で決断をするのは苦手だけど、
バンドリーダーはできる?
慶一 リーダーシップもそんなに強くないしね。
だってリーダーシップとろうとすると
人とぶつかり出すし、
そこは絶妙のバランス感覚でいないと。
自分でつくったものが
いちばん好きって
いうわけじゃないから、俺。
好きだけど嫌いという感情をまず持つ。
声もね。
つくった瞬間にリスナーになるんだよ。
そういう客観性を常にもつんで、
向いているんだと思うんです。
そこの位置が。
多くのミュージシャンは
自分がつくったものがいちばん好きなの。
それはよくわかる。
俺はそれをまずあまり考えないので、
バンドのこととしてどうかって考える。
非常に特異なキャラクターだと思うんだ。



(そんなふうに語りつつ続きます)


2006-11-17-FRI



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