ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2010-01-19-TUE

雪のミラノ。

もし冬というものが存在していなかったら、
だれかに発明してもらわなきゃと、ぼくは思うのです。

昼間の時間が短いのが良いから?
寒さもまた趣きがあるから?
またはクリスマスや
年末年始の祝祭が楽しいから?

そうではなくて、
住み慣れた街が雪化粧するのは
冬だけだからなのです。

雪は近代都市の魂を鎮める。

日本と同じくイタリアにも、
四季の変化があります。
春は新しい命を芽吹かせ、
若々しい希望を表す緑色を運んで来ます。

夏は太陽の熱で自然界は成熟し、
黄金色の輝きを放ちます。

秋は茶色のイメージでしょうか。
たそがれ時、木々や草花は発育をやめ、
今年の葉を落として
来年の準備にはいります。

冬は静かにたたずんでいる感じですが、
年齢を重ねた人の言動が衰える
というのとも異なる静けさです。
冬は、だまって思索にふけるにはぴったりな、
平和な静けさに満ちています。

そして冬の色は白。雪の色です。
それは純粋無垢を象徴します。
人生の中で失ったかに思えても、
そうではありません、
また見つけられるのです、
静かに雪の降り積もる夜に。

ぼくの住むミラノでは、
人々はせかせかと動き回り、
いつも疲れに打ちのめされているように見えます。
まるで狂気をはらむカオスに
占領されてしまったような近代都市は、
どこでもそんなものでしょう。
でも、そんな忙しい街に
ひとたび雪が降ったとなると、
これがすばらしく変身するのです。

すべてが繊細な表情をとりもどし、
雪の白さに目はチカチカしますが、
魂は騒ぐことをやめて、鎮まります。

雪の写真コンクール、紹介します。

そう、じつはこのあいだ
ミラノに大雪が降りました。
この雪を受けて、
ミラノで最も重要な新聞である
コッリエーレ・デッラ・セーラ紙が、
読者の「雪の写真コンクール」を開催し、
その結果、冬のミラノらしい写真の中から、
とりわけ美しいものが入賞しました。

ほとんどの人が、
ミラノの街の象徴である
ドゥオーモの写真が優勝すると
予測したのではないでしょうか。
でもそうではなくて、
もっとも好評を博したのは、
街の中心街ではありますが
ドゥオーモから500メートルほど
離れたところにある、
スフォルツァ城の写真でした。

franco

お城の写真が勝ったのは、
たぶん宗教と関係が無いからでしょう。
ミラノは現在、
イタリアの商業面での第1都市ですから、
そのポジションが確率した時代を彷彿させる
スフォルツァ城もまた、
ミラノを象徴する遺産です。
キリスト教カトリックのシンボルは、
ヴァティカン市国があり、
イタリアの首都でもあるローマに
おゆずりするというところですね。

さて、コンクールには
多くの示唆に富んだ写真が寄せられました。
たとえばドゥーモとスカラ座をつなぐ
ヴィットリオ・エマヌエールの
アーケード入口をとらえたもの。

franco
ここは天蓋に覆われて、
車も通らないアーケードですから、
お買い物に、
またはディナーの後の余韻を楽しみながら、
ぶらぶらと散策するにはうってつけです。
ミラネーゼたちも大好きな場所ですが、
いつもとまるで違う様子が
みごとにとらえられています。
写真というよりは、
手描きの雪の破片が
舞っているように見えます。
その白さから垣間見える、
いつも見慣れた様々な色が、
とても新鮮に思えます。

高速道路でスキーをしている人が
写っている写真もあります。

franco
イタリア南部につながる
はるかな道のりの出入り口に、
スキーを履いた人が、たったひとり‥‥
大都市ミラノが、
いきなり公共の立場を捨て、
個人的に彼だけを迎え入れるのが
嬉しくてたまらない、
というような見方もできます。
いろいろな示唆に富んだ写真で、
ぼくの心にいちばん響いた作品です。

さて、順位にもどりますが、
2位には、
伝統的なトラムが写っている写真が
入りました。

franco
トラムも日常生活に欠かせない
重要な乗り物ですが、
雪が、今よりもっと穏やかで
リラックスした古い時代を
思わせてくれます。

3位に、
やっとミラノのドゥオーモが
ランクインしました。

franco
神秘的なまでの写真ですが、
ミラネーゼたちはドゥオーモを
見慣れすぎているようです。
とてもとても美しくても、
あまりに見慣れていると、
美しさをちょっと見逃してしまう
ものなのです。
「慣れ」が感動を邪魔するなら、
それはとても残念なことです。


訳者のひとこと

他の写真も、もっと見たいですね。
たとえば、ミラノでいちばん古い
聖アンブロージオ教会や、
運河の名残のあるあたりや、
有名な墓地など‥‥‥

北国には冬に行くのが良いと、
よく言われますが、
本当にそうだと思います。
冬のミラノ、なかなか良いものです。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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