ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2009-08-25-TUE

新シーズン開幕!


夏休みが終わりを迎え、
イタリアのカンピオナートも
新シーズンが開幕しました。
スクデット獲得の競争が始まりましたが、
スタート時点を見る限りでは、
ここ数年来と何も変わっていないように思えます。
インテルは最高の人気を保ち、今年も優勝すれば、
1930年代と戦後に最強を誇った
トリノのユヴェントスが持つ、
5連覇の記録に並びます。

さて、試合もスタートしたのですが、
同時に、熱い言い争いも勃発しております。
論争の導火線に火を点けたのは、
またもやインテルのモウリーニョ監督でした。
まったくこの人は、言い争うことにおいては
まさに本物のスペシャリストのようです。

モウリーニョ監督の標的は?

モウリーニョがイタリアにデビューした1年前、
彼は、レッチェのベレッタ監督や、
カターニャのゼンガ監督ら、
まあ超一流とはいえない監督たちを、
からかって突っかかっていました。

今年は、標的のレベルを上げたようです。
お相手は、世界チャンピオンである
イタリア代表アズーリの監督の
マルチェッロ・リッピですから。

franco

カンピオナート開幕の数日前、
マルチェッロ・リッピ監督は
今期優勝チームの予想をもとめられ、
スクデットはユヴェントスが取るだろうと答えました。
この様子はテレビで放映されました。

リッピは最近の2年についても、
「インテル優勝」の予想を立てましたし、
今回の予想も、これといって他意は無く、
普通に答えただけでしょう。

そして、まさに予想を的中させてきた
リッピ監督のことだから、
今回もまた言い当てるだろうと考えて、
激怒したのがホセ・モウリーニョ監督です。

インテルの監督であるモウリーニョは、
毎週恒例の記者会見に現われるや、
リッピ監督の発言はユーヴェにとって
有利な影響を審判たちに与えようとするものだと、
真っ先にリッピを非難しました。

「スクデットはユヴェントスが取るであろうと
 リッピ監督が発言したことは、
 私とインテルに対する敬意が欠けている。
 彼はイタリア代表チームの監督である立場上、
 予想などするべきではない。
 彼と同じ立場にある
 スペイン代表チームのデル・ボスケ監督や
 イングランド代表チームのカペッロ監督は、
 こんなことは絶対にしないだろう。
 リッピはイタリア代表アズーリの監督であり、
 彼の発言は審判たちに影響を与え得る‥‥
 今シーズンのカンピオナートで、
 ユーベは優遇されている
 というようなエピソードが、
 続出しないことを、私は願う」と。

このモウリーニョ監督の発言は、
ただちに各新聞やテレビで大々的に報道され、
その見出しは、世界陸上で仰天の偉業をなしとげた
ウサイン・ボルト選手に捧げられたものを、
しのぐほどの勢いでした。

これを見たリッピは、
モウリーニョは夏の強烈な太陽にあたりすぎて
頭がやられたんじゃないかと応戦し、
モウリーニョはさらに、
私は月に1度しか働かないリッピ監督とは反対に、
毎日働いているとあおって、事態を悪化させました。

代表アズーリの監督は本当に権力を持ちうるが、
彼は発言のタイミングを間違えたと、
モウリーニョは、実際にリッピを快く思っていません。

しかし、米国のバラク・オバマ大統領が数ヶ月前に、
バスケットボールNBA決勝戦の予想を言った時には、
それが審判らに影響を与えるとは誰も思いませんでした。
イタリアでは、首相でACミラン会長のベルルスコーニが、
ACミランがスクデットを勝ち取ると発言しましたが、
これも別にスキャンダルにはなりませんでした。

franco

今回の騒ぎは、モウリーニョがひとりで
大きくした印象があります。

世論は、反モウリーニョに‥‥。

かくして、モウリーニョは
イタリアサッカー界全体の反感を買いました。

ASローマのスパレッティ監督は、
モウリーニョは失礼だと明言しました。
「昨年は、ASローマは何にも勝利しないと言って,
 我々に対する敬意に欠けました。
 ユーベに対しても、
 審判らが好意的だと言って。
 しょっちゅう議論ばかり生んでいるような監督を
 インテルが付けているのは、残念です」
というわけです。

franco

デル・ピエーロもトッティもガットゥーゾも、
「リッピ監督は、ただ予想しただけで、
 去年、やはり彼がインテルの優勝を予想した時も、
 ぼくらの中ではだれも、
 彼が無作法だなんて思わなかった」と言って、
リッピ監督をかばっています。

franco

シーズン開幕早々にくり広げられた
スクデットをめぐる戦いは、
競技場でではなくてテレビのスタジオや
記者会見で熱く盛り上がったというわけです。

いや、じつに残念です‥‥。


訳者のひとこと

あまり良い言い方ではありませんが、
イタリア語には
pasticcione(パスティッチョーネ)
という単語があります。
pasticciare(こねる、こね回す、かき回す)
から来ていて、
ゴタゴタとこねくり回すばかりで、
肝心な仕事は一向にできないような人のことです。

いえ、モウリーニョ監督が
パスティッチョーネかどうかの判定は、
現場のかたたちにお任せするとして‥‥。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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