ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。
2008-10-15-WED

ボルゴノーヴォ選手と難病のこと。


先日、フィレンツェで、
死に至る難病に罹った元サッカー選手を迎えて、
あるイベントが開かれました。

ACミランやフィオレンティーナの
元選手であるステファノ・ボルゴノーヴォ。
彼はいま、イタリアでSLAと呼ばれる病と闘っています。
(註:日本では筋萎縮性側索硬化症、
   学名 amyotrophic lateral sclerosis で
   通称ALSと呼ばれています。
   イタリア語では sclerosi laterale amiotrofica の
   頭文字を取ってSLAと呼んでいます。)

borgonovo

人に、死と恐怖をもたらすこの恐ろしい病気は、
何名かの元サッカー選手たちを襲っています。

多くの元サッカー選手たちがSLAによって
死にまで至っていることから、
イタリアの司法府が調査し、
トリノのグアリネッロ判事は、何年もの調査ののち、
プロのレベルでサッカーをプレイした人が
SLAにかかる率は、
普通の人の25倍であることを確認したと言いました。
サッカーが、この恐ろしい病気の根であり、
シニョリーニやロンバルディといった
往年の有名選手たちを、
死に至らしめていると言うのです。

バッジョが押した車椅子。

フィレンツェで企画されたイベントは、
この病気の研究のための基金を募るものであり、
かつてボルゴノーヴォが所属していた
ACミラン対フィオレンティーナの試合で、
最高潮に達しました。
やはり元選手だったロベルト・バッジョは、
もちろん参加し、大歓迎されました。
そして新旧合わせたACミランや
フィオレンティーナのカンピオーネたちが、
それぞれのチームのシャツを着て集まり、
満員のフランキ競技場は感動の時を迎えました。

ほら、これがB&B、
バッジョ(Baggio)と
ボルゴノーヴォ(Borgonovo)ですよ。

borgonovo

チームの、そして人生の仲間たちに
取り囲まれていますね。
ボルゴノーヴォは、この50年間で
イタリア人たちに最も愛された選手のひとりである
ロベルト・バッジョに付き添われて到着したのです。

borgonovo

ウルトラスのクルヴァに陣取るティフォーゾたちから、
そして競技場全てからの、喝采につぐ喝采。
車椅子に乗り、麻痺に苦しんでいるボルゴノーヴォが、
微笑んでいます。

borgonovo

紫色のシャツの彼が微笑み、バッジョが微笑み、
そして観客席からも微笑みがこぼれているように
見えました。

ティフォーゾたちは、彼を温かく抱きしめたい思いから、
「B&B、夢のカルチョ、頑張れステファノ、
 分かりやすく善良な、偉大な青年」と
書かれた横断幕を掲げていました。
ACミランのグリやロナウジーニョ、
元ACミランの選手だったドナドーニも、
心を動かされて涙が止まらない様子です。

borgonovo

ボルゴノーヴォは、サッキ、リッピ、
そしてフィオレンティーナの現会長である
デッラ・ヴァッレらのそばで観戦し、
試合後にノートパソコンでメッセージを書き、
それは巨大なスクリーンに映し出されました。

そこには
「皆さんと一緒に、
 この病を打ち破る何かを誕生させたと思います。
 私は、私と同じ病気と共にある仲間たちに、
 信じよう、
 サッカーとサッカー選手たちを信じようと、
 言いたかったのです。
 サッカーのことは、この病気とは分けて下さい、
 サッカーは関係ありませんから。」
と、書かれていました。

感動、感傷、思い出、郷愁、そして希望、
様々な思いが重なり合い、共鳴し合いました。

borgonovo

人生の終りの時を、サッカーのゲームのように。

この病気は、罹った人の世界を
ベッド上や車椅子上の生活に限定していきます。
筋力を失わせ、話すことすらできなくなるのです。
でもこれが、フィオレンティーナやACミランで
バッジョやグリとプレイし、ゴールを入れていた
ステファノ・ボルゴノーヴォの人生の現実。
悲しみに満ちた夕べになりそうでしたが、
さいごには微笑みと希望のうちに閉幕しました。

ステファノ・ボルゴノーヴォは
目に涙をためていました。
話をしたかったに違いないのですが、
もはや彼に、それはできません。
でも、試合後の喝采は、グリやロナウジーニョではなく、
彼に、彼のためだけに贈られたことを、
誰もが分かっています。
足早な死が彼を待ち受けているのを知りながらも、
人生の終わりの時を、
まるで喜びに満ちたサッカーのゲームに
立ち向かうかのように受け入れる勇気のある、
ひとりの男のために。

borgonovo


訳者のひとこと

SLA(ASL)について少し調べてみましたが、
筋ジストロフィーとも別の病気のようです。
この病気の要因解明には、
まだ時間を要するとされています。

弱い立場に陥った人を助けたいと思う気持、
これもイタリア人気質の一端と思います。

モスキーノ

翻訳/イラスト=酒井うらら



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