フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ヴァカンスの終り。




飛行機が空を上昇していきます。
その空には雲ひとつ、ありません。
眼下に見える海の碧は、
8月の太陽を映して目も眩むほどです。
この旅‥‥ぼくのシチリアでのヴァカンスは、
始まったのと同じ場所で終わります。

パレルモは、肌をブロンズ色に変える太陽の街でした。
そしてレストランから溢れ流れる磯の香の街。
ここのレストランは「和風」を追いかけている店も多く、
そのシンプルさが魅力的な料理は
「シチリア風寿司」として、ちょっとしたブームでした。
実際には、米飯抜きなので
「寿司」というよりは「刺身」ですけれど、
その磯の香は、
海からの贈り物で3千年も暮らしているシチリア人たちをも、
うっとりとさせ、魅了しているのです。



先週も書いたように、
シチリアは様々な異文化の民族に支配されてきました。
ですからパレルモの街にも、
バロック様式の数々の教会、
ノルマン様式の広場、
アラブ風の家屋や中世の城など、
時代によって異なる建築様式が混在しています。
それも、日々の暮らしの快適さや素朴さよりも
「完璧な美」をそれぞれが追求した結果、
街そのものがまるで広大な庭園のようです。



シチリアは、ぼくらイタリア人のあいだで、
いまブームになっています。
特にミラノやトリノなど大都市で働く人びとは、
1年間節約を重ねて
夏の1ヵ月のヴァカンスに備えるのですが、
フランスのコート・ダジュールやスペインや、
その他の観光地にかわって
ここ数年注目されているのが、
この「シチリア」なのです。





イタリアは経済不況です。
数年前に「リラ」から変わった「ユーロ」が
物価を引き上げ、夏のヴァカンスに出かけたい人は、
まず節約が必要だと思い知りました。
節約して用意した大切なお金で、
どこへ行きましょうか?
目の保養のためには目に映る景色の素晴らしさ、
嗅覚のためには吸い込む香り、
味覚のためにはその土地の素晴らしい料理が必要です。
これらをぜんぶ備えているのはシチリアだと、
彼らは気付きました。
太陽と海と、他に類を見ない歴史の遺産と、
色とりどりで味わい深く
ヨーロッパ屈指の洗練された食事、
これら全ての幸せをシチリア旅行で味わえる、と。

シチリアは人形劇「プパッツィ」も有名です。
そこに展開されるロマンスや冒険の数々は、
若者たちを初めての恋の予感にときめかせ、
幼い子供たちをたくさんの色の遊びで釘付けにし、
誰もを嬉しい驚きで陶然とさせてしまいます。



この街に、そしてこの土地に、
世紀を超えて存在する美しさ‥‥
ぼくは郷愁にも似た感動とともに、
パレルモから再び飛び立ちます。

ミラノでぼくを待っているのは。


そしてぼくはカルチョ・メルカートに戻ります。
不正な試合と、それにまつわる賭けの
スキャンダル後のプレイを見せるイタリアサッカーに。

そこではイブラヒモヴィッチが
ACミランとインテルの間で危うい平衡状態にあり、
世界チャンピオンのルーカ・トーニが
稼ぎを3倍にしようとして、
フィオレンティーナを離れたがっています。
フィオレンティーナのオーナーであり、
靴のトッズのオーナーでもある
ディエゴ・デッラ・ヴァッレは、
何が何でも彼を手放したくありません。
どれもまるで「腕相撲」みたいで、
今のところ誰が勝つのか分かりません。



ACミランは、カカをレアル・マドリードに
売りたくありません。
その一方でACミランは、
オーナーのベルルスコーニが
6千万ユーロも使う用意があるらしいにもかかわらず、
バルセロナからロナウディーニョを買えないでいます。
そして対レッドスター・ベルグラード戦で
UEFAチャンピオンズ・リーグに新たに参戦する
ACミランがプレイする‥‥そんなサッカーに、
つまり、いつものぼくの仕事に、ぼくは戻ります。

ぼくがパレルモとシチリアにいだく郷愁は、
次のバカンスのある来年の夏まで、
ぼくと一緒にいてくれるでしょう。



訳者のひとこと
私のミラノ在住の友人からのメールによると、
物価の値上がりが「ヴァカンス」を直撃して、
長い休みを取らない人が
4人に1人くらいいるそうです。
ラジオでも、似たようなことを言っていました。

日本人にしてみれば、
そもそも「1ヵ月のヴァカンス」自体が
夢のような話ですけどね。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2006-08-08-TUE

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