フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

アズーリ、
6月18日の
対アメリカ戦を終えて。

レッドーカードが3枚、
最後にはアズーリ10人対アメリカ9人。
それぞれに1ゴールで1対1の引き分け──。

2006年W杯ドイツ大会の予選リーグEグループの
イタリア対アメリカ戦は、
サッカーの試合と言うよりは、
まるで心理ドラマを見るようでした。
少なくも、イタリア側にとっては。

現在行われているW杯ドイツ大会は
アズーリにとって、結果をはるかに超えた次元で、
現在のイタリアサッカーを正直に映す鏡の中に
いるようなことになってきました。

イタリア本国では例のスキャンダルについて、
審判らの不正や、
イタリアサッカーのゴッドファーザーと言われる
ルチアーノ・モッジが友人の記者たちへ贈ったらしい
「プレゼント」についてなど、
議論されている真っ最中です。
ユヴェントスのセリエB落ちはは確実なようです。
ラツィオ、フィオレンティーナ、ACミランにも
同様の恐れがあります。

そして、来シーズンは自分たちが
どこでプレイするのかを、
まだ知らない多くの選手を抱える
カルチョ・メルカートのこともあります。
これらの先行きが不安なチームの中には、
アズーリのメンバーの何人かが所属するユヴェントスや、
来期はインテルでプレイする事が
すでに決っているらしいトーニを、
フォワードセンターに擁する
フィオレンティーナも入っているわけです。

そんな状況の中で、イタリア代表アズーリは、
サッカー面でのイタリアの姿を清めるチャンスを、
ことに外国において示そうとしていました。
国内リーグでのクラブチーム単位のスキャンダルの汚れを、
イタリア代表チームが一掃してみせるという意気込みで
ドイツに乗り込んだのです。

アズーリよ、国際試合でなんたることを。


ところが、まさに外国、まさにW杯ドイツ大会において、
逆にイタリア人たちを落胆させ怒らせる出来事が
起きてしまいました。

たしかにアメリカ側にはレッドカードが2枚だされ、
ふたりの選手をが退場させられました。
でもそれはプレイ上のファールのためにでした。

その一方でアズーリのデ・ロッシ選手は、
アメリカのマクブライド選手に卑怯な肘打ちを食わせ、
見た目にもひどい怪我を顔面に負わせての
レッドカード退場でした。
これはプレイの勢いが余って犯したファールとは、
性格が異なります。


試合前夜に、アメリカの選手たちは
「イタリアとの対戦は
 試合というよりも戦争になるだろう」
と言っていましたが、
先に戦争を始めたのはアズーリのほうでした。

まず試合開始5分後、
トッティが相手のひとりにほとんどタックルのような
大きな蹴りを入れて、イエローカードの警告を受けました。

リッピ監督は、このようなデリケートな試合に
トッティを出すかどうか決めかねていたのですが、
初戦の対ガーナ戦で勝利したことで、
同じ配置をつづけると決心しました。
だたガットゥーゾの場所にザンブラッタを入れたのが、
ガーナ戦との唯一の違いです。

対ガーナ戦も、じつは説得力のあまりない試合でした。
デ・ロッシを始め何人かの選手が、
ちょっと心配な精神的脆さを見せていたのです。
ところがこの対戦の勝利が、
アズーリに錯覚を起こさせました。

ガーナ戦でも警告され、
ともかく酷いファールの数々をしでかした
デ・ロッシに対する批判が、すでに出ていました。
しかしまさにリッピ監督がこれを逆手にとり、
こう言い放ったのです。
「デ・ロッシはアメリカ戦では
 とりわけ準備万端であろう」と。

でも、ぼくの恐れは適中しました。
この第2戦で、デ・ロッシこそが
ヒステリックな態度をとったのです。
それが先ほど書いた「マクブライド選手への肘打ち」です。
双方あわせて2人の退場処分の後、後半戦は更に
アメリカ側でもうひとりの退場者を出し、
アメリカ9人にアズーリは10人で対戦したというわけです。

しかし2人の退場処分を受けたアメリカに対し、
アズーリは人数が多い利点を生かすかわりに、
チーム全体がアメリカを、プレイの次元ではなく
ミスの次元で打ち負かそうとしていました。

イタリアサッカーは、買収された審判たちのスキャンダルで
大変に悲しい時期を過ごしています。
そしてアズーリは、サッカーはプレイを見せるもので、
そのほうが議論されるサッカーよりずっと良いということを
自ら示そうと望んで挑んだはずのW杯でした。

現実を正直に映す鏡の中にいるようなことになったと、
さっき書きましたね。
そう、熱く燃える情熱的なイタリア人たちが
恐れていたことが起きたのです。
精神的な衰弱と数々のミスです。

これらは総べて、いままでもアズーリが持っていた
「レパートリー(持ち芸)」とでも言うべき、
時として顔をのぞかせる一面でもあります。

アズーリは今回の試合でも、
このレパートリーを避ける事ができませんでした。

訳者のひとこと
自国の短所をも鋭く指摘する。
これが「おとな」の冷静な目というものでしょう。
フランコさんのコメントは、
イタリアファンの私たちにとっても
厳しいものですが、受け止めましょう。
フランコさんがどんなにイタリアサッカーを
愛していらっしゃるか、裏を返せば
それが見えて来るはず‥‥と思います。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2006-06-20-TUE

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