フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ミラノでいちばん有名な夜のスポット、
「ガットパルド」


“La dolce vita”『甘い生活』は、
イタリア語のフレーズの中では
最も有名なもののひとつでしょう。
たった3つの単語なのですが、多くのことを含んでいます。
45年前に、フェデリコ・フェリーニ監督が
マルチェロ・マストロヤンニと
アニタ・エクバーグの主演で撮った
印象深い映画のタイトルですね。
その映画は、当時のローマで繰り広げられる生活のなかでも
退廃的で享楽にみちた部分を、みごとに語っていました。


その時から“甘い生活”というフレーズは、
気楽な楽しみや、美しい女性たちや、
夜が夜明けにすべりこむまで踊りながら過ごす時間などを
あらわす言い方になりました。

フェデリコ・フェリーニの映画の時代には、
“甘い生活”の舞台はローマでした。
高級店の並ぶヴェネト通りに、
じっさいに映画スターたちや億万長者など、
あらゆる年齢の人びとが刺激をもとめて集まっていました。
そして、有名人たちが酔っ払って
ケンカや乱痴気さわぎをしたり、
ストリップばりに服をぬいだりする様子を写すために、
ご存じパパラッチたちがカメラをかまえて
待ち受けていました。

ミラノ的“甘い生活”の牙城といえば?


そのデカダンス的“甘い生活”は、
今やミラノに根付いたようです。
お楽しみの有名ゾーンは、コモ大通り、
ナヴィリ(運河地区)、
ピエロ・デッラ・フランチェスカ通りの
3箇所です。

なかでも有名になったスポットは
「Gattopardo」(ガットパルド=山猫)といい、
特にサッカー選手たちが通う場所として知られています。

サッカー選手たちと“甘い生活”が
むすびつく原因は単純なものです。
彼らは若く、美しく、金持ちだからです。
ガットパルドのある場所は、
10前まではキリスト教の聖堂でした。
ところが、その場所の「神聖さ」を保つことには
興味のない無遠慮な事業家に売られたことで、
環境が一変します。

今となっては、そこがキリスト教の聖堂であったことより、
排他的なディスコであるほうが、ふさわしくさえ見えます。

なぜ排他的かと言うと、
だれでもがガットパルドに入れるわけではないのです。
入り口には、ふたりの見張り人がいて、
彼らは有名人の客を重視するのですが、
ともかく入り口でこの見張り人の気に入らないと、
入ることができません。

遊んでる場合じゃないだろう!
‥‥と人は言うけれど。


ロナウドは、マドリードからミラノに来ると、
ガットパルドへ行って以前の仲間たちと会います。
3ヵ月前には、以前も書いたように
インテルのアドリアーノとマルティンスが、
ここでポカをしでかして話題になりました。
彼らは一晩中ガットパルドで過ごし、
飲んで踊って、とても魅力的に迫って来る
若いお嬢さんたちに囲まれてサービスして、
疲れ果てたのでしょう、
ソファーで眠りこけてしまいました。
彼らが最後の客たちに起こされたのは、朝の6時でした。
マルティンスはシャワーを浴びてから、
2時間しか眠っていないまま、
チームの練習時間までにかけつけました。
アドリアーノは逆に寝すごしました。
彼が練習場に到着したときには、
すでに練習は終っており、
チームの仲間たちは昼食の席についていました。
マンチーニ監督は、
ヴェロンやキャプテンのザネッティに手伝わせて、
アドリアーノに冷たいシャワーを浴びさせ、
夜通しのめちゃくちゃの名残りを洗い流させました。
つぎの日には、そのニュースが新聞に載り、
その後のゲームでアドリアーノのプレイが悪かったことを
“la Dolce Vita milanese”(ミラノの甘い生活)の
せいだと書き立てました。

こうして、ガットパルドは
いっそう有名になりました。
そして選手たちは大きな帽子をかぶり、
コートの衿を立ててこっそりと来るようになりました。
自分たちが誰なのか気付かれないように
というつもりなのでしょうが‥‥

ガットパルドには、
ミラノの有名なチームの選手たちだけでなく、
ミラノのあるロンバルディア地方の
セリエB(第2リーグ)のチームからも
選手たちがやって来ます。
先週は、ベルガモのチームである
アルビノレッフェの選手がふたり、
彼らのエミリアーノ・モンドニコ監督に発見されました。
(中田のいたフィオレンティーナの元監督ですよ)
彼らのチームは、現在はセリエBですが、
セリエCに降格しないように踏ん張っているところです。

モンドニコ監督もガットパルドに行ったのかって?
いえいえ、彼は、テレビ番組にゲストとして出演したあと、
ベルガモに帰る車がガットパルドの前を通過したのです。

すると監督は、
「ここはどういう場所かね?」と、
一緒にいた記者にきいたそうです。
質問の意味がわからず、この記者は
「どうしてですか?」とたずねかえしました。
なんとモンドニコ監督が言うには、
「私の選手たちが、ふたり、入って行くのが見えた」
とのことで、
時刻も真夜中でしたから言い訳のしようもなく
記者はモンドニコ監督に本当のことを話しました。
翌日、このふたりの選手たちは、もちろん叱られました。

ちょっと危険な“甘い生活”は、
ロナウドや、ヴィエリ、
アドリアーノ、マルティンスなど、
有名なスター選手たちには、まあ良いとしても、
有名でも金持ちでもない選手は、
ふつうの男の子たちと同様に注意されるでしょう。
特にセリエB、つまり第2リーグの選手だったら、
遊んでる場合じゃないだろうと叱られても
しかたありませんね‥‥。


訳者のひとこと
「ガットパルド」も有名な映画のタイトルです。
正確にはサーバルキャットという、
ヒョウ柄の猫科の種類らしいのですが、
映画「Gattopardo」の日本語タイトルが
『山猫』で通っていますので、
そのように訳しました。

監督は、巨匠ヴィスコンティ。
バート・ランカスター、アラン・ドロン、
クラウディア・カルディナーレなどの出演で
1964年に公開され、やはり話題作となりました。
ランペドゥーサというシチリアに実在した貴族の
同名の本が原作で、時代のなかで傾いていく
貴族階級が描かれています。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2006-02-14-TUE

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