フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

コッリーナ審判、サッカー界を去る。


サッカーとお金にまつわる事件が、
またもやイタリアを騒然とさせています。
これは、チームのスポンサーとしてサッカーに関わる
自動車業界と金銭とが、からむ出来事です。
この出来事が、イタリアサッカーのイメージを
更にもっと傷つける結果になってしまいました。

「お金というものは幸せを約束してはくれませんが、
 たしかに、より良い生活の助けにはなる」と、
ぼくは何回も、そう書いてきました。
目の前のお金を放棄するのは難しいことでしょう。
その額が大きい場合には、なおさらです。
ではあなたの目の前に
100万ユーロ(約1億3750万円)が
積まれたら、どうしますか?
その香りは、あなたの心を酔わせるでしょう。
人生を気高いものにしてくれる大志さえも、
その香りの前では、よろめくのではないでしょうか。
これが人生の道理というものです。
そして、道徳的な基準とも言うべき立場にいる
ひとりの人間が、その人生の道理を実行しました。
彼は、すぐに100万ユーロに飛びついたのではありません。
最初は迷い揺れ動き、そして、ふっと屈服したのでした。

ピエルルイージ・コッリーナは、
イタリアで最も有名な審判です。
FIFAも、この6年の間ずっと、
コッリーナは最も優れた審判であると認めています。
2002年の日韓共催W杯の時に、
横浜で行われたブラジル対ドイツの決勝戦は
彼が審判しましたね。
そのコッリーナが、サッカー界から去りました。
100万ユーロと引き換えに。

コッリーナのCM契約に
「待った!」がかかった。


数週間ほど前のことですが、
GM(ジェネラル・モータース)が、
世界中のテレビで流すCMスポットを作るために、
100万ユーロの契約金をコッリーナに提示しました。
来年のドイツでのW杯を視野に入れれば、
コッリーナはまたとないキャラクターですからね。

そのこと自体は全く何も悪いことではありません。
むしろ、たぶんイタリアサッカーにとっても
大きな名声を確認することになったでしょう。
もう何年も偉大なチャンピオンたちを
排出していないイタリアサッカーですが、
審判たちが超一流であることを世界中に示せるのですから。

ところが、コッリーナに100万ユーロを支払うGMは
ACミランのスポンサー(Opelを通じてですが)だと
気付いた人が現れました。
フィオレンティーナにはトヨタが、
ウディネーゼにはKiaが、
同じようにそれぞれスポンサーとしてついています。

これはまずいことにならないかと、
最初の不安が浮上しました。
コッリーナの審判としての公平性は保たれるのか、
という不安です。
例えばフィオレンティーナとの試合で
ACミランに最初のPKが与えられたとします、その時、
GMとの契約が彼の判断を無意識に左右してはいないかと、
多くの人が疑う恐れがあります。

ACミランへの優遇のPKは同時にGMへの優遇だと
人びとが思うかもしれない一方で、
これと抱き合わせの疑いも生まれます。
フィオレンティーナ側にはGMのライバルの
トヨタが関わっていることを思えば、
そのPKはフィオレンティーナに対する冷遇だという、
逆の疑いも生じるのです。

この事態は各新聞のトップページや、
全てのラジオとテレビのニュースで報道されました。

サッカーのカンピオナートは、すでに始まっています。
そして審判の重鎮であるはずのコッリーナは、
初日のどの試合にも送り出されませんでした。
サッカー・フェデレーションの会長が、
GMとの契約か審判の続行か、
そのどちらかをコッリーナは選ばねばならないと
宣言していたのです。

コッリーナ、涙ながらの釈明会見。


コッリーナは、その選択について考え、
やがて記者会見を召集し、
「サッカーを捨てる」と言いました。
この世界はもはや彼には合わない、
この話から生まれるのは敗者だけだ、とも。

テレビのカメラを前に、感極まった声で、
コッリーナはほとんど泣いていました、
苦しみすぎて壊れてしまったんだろうと言われました。

でも実際には、彼の選択は単純そのものです。
100万ユーロと、6月まで審判を続けることとでは、
どちらを選ぶかは明白です。
彼は「人生の道理」を実行しただけです。

彼は28年間を過ごしたサッカー界を去りました。
イタリアでは、すでに多くの人びとが
嘆きとともに彼を回想しています。
「イタリアのサッカーは最も重要な男をなくした」と、
さまざまな人が言ったり書いたりしています。
その言い分は正しいかもしれません。

ひとつ、はっきりしていることは、
コッリーナが100万ユーロ稼いだということです。
これは、スポーツへの詩と愛とが何にも勝ると
言われる審判の身の回りでは、少ない金額ではありません。

でも今回、彼が引き換えにしたものの大きさは‥‥?

訳者のひとこと
100万ユーロの香りと縁がないので、
なんとも言えませんが、
審判を止めても
契約は大丈夫なんでしょうか???
「退職金」と考えても、結構な額ですよね。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-09-06-TUE

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