フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

モスクワ・マリオットグランドホテル712号室、
1999年5月11日。
カンナヴァーロ映像の衝撃。


2005年4月28日23時15分。
イタリアで最も重要なテレビ放送局Rai(ライ)が、
ある映像を流し始めました。
それを見た視聴者たちは、仰天しました。

そして視聴者たちから殺到した電話で、
Raiの電話交換台はパンクしたそうです。
この放映を好意的に評価した人びともいれば、
抗議する人もいましたし、議論しようとする人もいました。
とにかく誰もがショックを受けていました。

それは本当に衝撃的な映像でした。
写っていたのは、
ユベントスのディフェンダーであり
イタリア代表チーム・アズーリの
キャプテンでもある
ファビオ・カンナヴァーロです。

選手達がしていたことの一部始終。


実は、このビデオ映像については、
放映の数日前から噂されていました。
カンナヴァーロ自身が、
彼の弁護士を通じてRaiに
映像を放映しないように、
勧告しているとも聞きました。

その4分間の映像は、
イタリアの有名なサッカー選手のひとりである
カンナヴァーロが静脈注射をうたれている様子、
というものでした。
サッカーにおいて静脈注射が使用されている
動かぬ事実が、写っていたのです。

ただし、カンアヴァーロの静脈に注入されたのは
アンチドーピングで禁止されていない、
ネオトンという物質です。
ネオトンは心臓に問題のある人に使われる
たいせつな「薬」です。
でも理解できないのは、
心臓に病気のないカンナヴァーロが、
なぜそれを静脈から注入したのかということです。

これについては、ネオトンを投与すると
物事を容易にやれるという印象を
与えることができることから
こうして試合前の選手たちに使われたのだと
推測されています。
“なんでもできる気持ち”によって
彼らの「見た目」を良くする効果もあるのだそうです。

これはイタリアのテレビで放映されたフィルムを、
静止画像にしたものです。






モスクワ・マリオットグランドホテル712号室、
1999年5月11日。
それはUEFA杯決勝戦の前夜であり、
その翌日にパルマは3対1でマルシリアを破り、
ヨーロッパ優勝することになります。
テレビで流れたのはビデオの動く画像ですから、
部屋の中に何人かのパルマの選手たちが居て、
静脈注射後に体勢を整えている姿も見えました。

そして奥から「カンナヴァーロ、カンナヴァーロ」と
大声で呼ぶ声がします。
始めはカンナヴァーロが立っている映像、
次に小さなベットに横たわりながら
医者から静脈注射を受けているところが、
はっきりと見えます。
本当にショッキングな映像です。
多くの部分はカンナヴァーロが撮ったそうですが、
あきらかにアマチュアが撮ったと思われる、
このビデオに写っている主要人物の顔は、
ボカシが掛けられています。

「これは僕たちがやる、本当に不愉快な実験だ」と、
カンナヴァーロが言うのが聞こえます。
全体の雰囲気は、
まるで学生たちの集まりみたいで、
顔をぼかされた選手たちの笑い声も聞こえます。

そして医師は、選手らに
「堕落したものたちに‥‥」
という言葉とともに
半ばふざけながら、叱るように
小言めいたことを言っていました。

映像はまた、カンナヴァーロにもどり、
彼の言葉が入ります。
「UEFA杯決勝戦の前です、
 僕らがどんなにひどい状態にされたか、ご覧ください。
 ぼくは25才で殺されようとしています‥‥
 ドクターにあずけた腕が膨らんできました。
 このビデオ・カセットを売ったら、
 ぼくがどれくらい稼げるか貴方は知っている‥‥」と。

この部屋には、1999年にはパルマにいて、
今はインテルでプレイするヴェロンもいます。

事実、この少し後で、カンナヴァーロは
ヴェロンに冗談めかしてこう言いました。
「おまえにも実験してやる」と。
(言葉どおりに同じ部屋でヴェロンも
 ネオトンの投与を受けたのでした。
 このことについては、
 報道されたビデオをには写っていませんが
 このビデオ報道の翌日にRaiのしつこい追跡取材に
 ヴェロンもテレビカメラに向かって
 カンナバーロと同日・同室で
 ネオトンを投与した事実を認める発言をしました。)

パルマ時代もユベントスでも
カンナヴァーロの友人であるリリアン・トゥラムは、
「この放映はカンナヴァーロほどのチャンピオンの
 イメージを汚すためのもので、信じ難い悪意だ」と言い、
Raiを痛烈に批判しています。

ネオトンは確かに禁止薬物ではありません。
しかし、このUEFA杯決勝戦前夜に撮られた
ホテルの一室での映像は、
視聴者たちを大いに動転させました。
たくさんの注射器やアンプル、
静脈に穴をあけられる選手たち。
この映像を見たからには、
選手たちが
「注射器を見ると、ぼくは気分が悪くなる。
 ぼくはちゃんとプレイしているし、
 訓練のためには走り込んでいるし」と言っても、
もう誰もその言葉を信じることはできないでしょう。

勝つためなら、
つまり、もっとお金を稼ぐためなら、
選手たちは何でもするつもりなんでしょうか。
健康を危うい賭けに投じても、
という印象を、ぼくは受けました。

訳者のひとこと
──なにか、怖さを感じます。
しかし現地で詳細な情報を見たわけでも
ありませんので、
これ以上のコメントは差し控えます。
インターネットで聴くイタリアのラジオでも、
コメントしたくないという人が
多いようでしたが‥‥
カンナヴァーロは
「ぼくがRaiに渡したのでは無い。
 だれがダビングしたのか分からない」
と言っていると
ニュースで流していました。

なお、写真の左上に掛かっている赤い帯の
ESCLUSIVOという文字は
「独占的な」という意味です。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-05-02-MON

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